乙女たちの戦記~艦魂~(架空戦記)   作:高島智明

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可憐なるキマイラ

西島亮二。

「戦艦「大和」を造った人物」と言って好い。

 

彼は「大和」建造主任として「ブロック工法」や「先行擬装」といった、後には日本造船界に普及する技術を駆使し「西島カーブ」と名付けた新開発の科学的管理法で建造を管理した。

その結果、大規模なコストカットに成功し、しかも手抜きなど何処(どこ)にも無い完全な艦を仕上げた。

この時開発された技術は、戦後、日本の造船工業が1時代に於いて世界1と成る其の基盤を築いた。

 

どれ程の成果だったかと言えば、余りにもコストカットに成功したが故に、同型艦「武蔵」建造を請け負った三菱重工業の恨みを買った程だ。

民間企業である三菱としては、西島の「大和」での実績を基に「武蔵」建造請負のコストを計算され海軍からの支払いを決められては、完全なる赤字だったからだ。

結果として三菱は、この秘密戦艦の建造ドッグを隠す為のスダレに使った棕櫚縄を漁具会社に売って、請負の利益を確保した。

 

その西島が、困惑していた。

 

「大和」進水後に栄転していたが、舞い戻っていた呉海軍工廠。

1隻の軍艦が、西島と部下たちの検査を受けていた。

”最後”の筈の仕上げ工事を受ける為、建造された横須賀工廠から回航されてきた航空母艦「信濃」だった。

 

完成した筈の「信濃」だったが、実の処は戦時下の工期繰り上げと、ベテラン工員の徴兵による技術低下などで、多くの工事や試験が省略されていた。

例えば、魚雷攻撃などに備えた浸水対策の為の水密試験などは、

「対米停戦が成立していて好かった。

もしも戦争が続いていて、回航中に潜水艦にでも狙われたら助からなかった」

という有様だった。

 

「これはドッグ入りして、全面的な工事やり直しだな」

西島は、そう結論した。

 

時に1944年11月………。

 

……。

 

…時は過ぎて、1945年8月。

ソ連軍が満州に侵攻してきた。

 

満州を包囲する様に国境線を各地で突破し侵攻したソ連軍だったが、この時の日本は世界を相手に戦争し孤立していた日本では無かった。

日米停戦に続き、他の連合国とも停戦が成立していて、連合国の1員と成っていた中国とも10数年にも亘(わた)っていた戦争を停戦させていた。

したがって、中国大陸に出兵していた大軍が転進可能だったのだ。

 

この中国派遣軍が満州へと転進されては、手古摺(てこず)るくらいはソ連側も予想していた。

その為、影響下にある国であるモンゴルを進発した1大機械化軍団に「山海関」を目指して進軍させていた。

 

中国本土の北の境界である長城の頭が海に突き出す「山海関」は、満州と中国本土を結ぶ陸のボトルネックだった。

ここを占領すれば、満州に転進しようとする中国派遣軍を阻止できる筈だった。

 

だがしかし、海に近い「山海関」では、海上からの艦砲射撃に晒される可能性があった。

まして、日本海軍には46cmの巨砲を誇る「大和」「武蔵」が存在した。

ソ連軍とて、その危険を見落としていたわけでない。

航空支援を惜しまなかった。

 

だがしかし「山海関」の沖に展開する日本戦艦を空襲しようとしたソ連航空隊を、同行した空母から発進した戦闘機が迎撃した。

結果として、日本艦隊に対するソ連側の航空攻撃は阻止され「大和」「武蔵」の46cm砲が「山海関」を占領しようとするソ連軍に叩き付けられた。

その結果、中国本土から満州に転進しようとする日本陸軍の進路は開かれた。

 

迎撃した空母戦闘隊の中には、やり直し工事が完成し、晴れて実戦部隊に配属された「信濃」から発進した「紫電改」戦闘機も混じっていた。

 

「紫電改」は水上戦闘機「強風」を陸上戦闘機化した局地戦闘機「紫電」を更に大改良した戦闘機だった。

本来、当時の海軍に於ける局地戦闘機とは陸上基地から運用される機種であり、帝国空軍の発足に因って他の海軍陸上航空機ともども空軍に統合される筈だった。

ところが、ゼロ戦の本来の後継機である艦上戦闘機「烈風」の開発遅れを懸念した海軍当局は、既に実戦化されていた「紫電改」の艦上戦闘機への転用を思い付いた。

空母からの発着の実験に使用されたのは、当時”完成したとみなされていた”回航直前の「信濃」だった。

 

「紫電改」を発進させた「信濃」の艦上で見送る乙女の姿を、誰が知っていただろう。

空母「信濃」に宿る心と命が形をとった姿「信濃」(艦魂)だった。

 

「信濃」(艦魂)は決意していた。

「お姉ちゃんたちの頭上は私が守る。絶対に近付かせたりはしない」

「信濃」は「大和」型戦艦3番艦からの改造空母、姿は変われど「大和」「武蔵」の妹だった。

 

戦艦の船体と空母のシルエットを持つ”キマイラ(合成された存在)”その心と命は、可憐なる妹だった。




他のエピソードでは、改造空母は改造前の艦船に戻された、という設定と致しましたが「信濃」に関してはアメリカ側からも「モンスター」と呼ばれた「大和」型戦艦が3隻に成ってしまうという理由があったか、別の話に成った、という設定に致しました。
以後のエピソードでも、このことに触れるかも知れません。
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