デビュー戦から数日。私は住居兼寝床の馬房でのんびりと寛いでいた。ふかふかの藁に寝そべり夏らしい吹き込む風を浴びながらうたたねをして過ごしていた。
レースから少しの間は調教もいつもよりも軽めのトレーニング、足に負担のかからないようなプールを使っての調教や散歩のような軽めのもので済ませてくれるようでここ数日はゆっくりと脚をいたわりながらトレーニングができた。
実際に走ってみるとまぁ意外と芝は走りづらい。芝といっても軽く踏み込んだだけで芝はえぐれて土が見えるしえぐった芝が塊となってまぁまぁの速度で顔に飛んでくる。よく騎手の人たちは怖気づくことなく競馬ができると関心するとともに馬がやる気をなくして走らなくなる理由がわかったような気がした。ダートはダートで土埃にまみれて走ることになるためこれを嫌う馬もいる。
まあ走りやすさってのはその日の天気や馬場の状態によっても変わってくる。不良馬場だと内ラチで踏み込めはほんとに泥んこでズボッと脚を取られて転倒……なんてリスクもあり得ない話ではない。
まぁ今そのことを考えずにのんびりと過ごそう。メシ食ったり、昼寝したり、オルフェーヴルと交流したり並走したり、放牧場でオルフェーヴルと遊んだり……オルフェーヴルとばっか絡んでるけどまぁいいか。
【オルフェーヴル!もう少し踏み込め!遅れているぞ!】
【負けるかってんだ。フラグシップねえさん!】
今日も今日とてオルフェーヴルとの並走である。オルフェーヴルのやつも8月にデビューを迎えるとのことでオルフェーヴルを管理している池永さんから菅井さんに私とオルフェーヴルの並走を依頼されたのである。
【人には慣れたか?】
【まだちょっと怖い……だけどご飯とかブラッシングしてくれる人はすき】
【他の馬とも折り合いをつけて並走しなきゃ勝てないぞ】
【他の馬もあんまり好きじゃない。フラグシップねえさんはすき】
ええ、そうですか。だけどこれから馬嫌いをなおしていかないと三冠までは程遠い。……というか本当に競走馬になれるんだろうかオルフェーヴルは。いや、史実に私のような馬がいなくとも三冠を取れていたので能力的には問題なく三冠馬の逸材なのだろう。
【オルフェーヴル。レースが終わったあと背中に乗っている騎手の人を振り落としたら駄目だからな】
【背中に乗る人間はあんまり好きじゃない。どうしても振り落としたら駄目?】
【駄目だ】
【……………………善処します】
……不安だ。恐らくだけどオルフェーヴルの鞍上になるのは十中八九生添さんであろう。生添さんが落馬しないよう無事を祈っておいたほうが良いだろうか?
「フラグシップ、次走が決まったぞ10月の札幌競馬場の札幌2歳ステークスだ。重賞チャレンジとなるから一気に他の馬たちのレベルが上がるぞ」
そんなこんなで調教メニューを終えてから馬房に戻ると菅井さんがそう話していた。新馬戦の次はもう一戦オープンクラスのレースを走ってから重賞に行くもんだと思ってたから意外である。
「お前さんはレース感覚を覚えさせなくても勝手に自分でレースをできるからな経験を積まなくてもいいからな」
……それは褒めてるって考えてもいいんだよな?その頭に被ってる帽子を剥ぎ取ってむしゃむしゃとかじる。うーんあんまり美味しくはない。
「おいフラグシップ!私の帽子を返してくれよ!」
「どうどう、その帽子を放してやんなさい」
ちぇ、今波さんにいわれちゃしょうがないや。返してやるか。
私の唾液でベトベトになった帽子を菅井さんは拾い上げてわらいながら帽子を被り直した。自分でやっておいて何だけどそのままかぶるのか……(困惑)。
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7月10日の函館4R・2歳メイクデビュー新馬(芝1800メートル、12頭立て)は、単勝5番人気のフラグシップ(牝2歳、栗東・菅井直弼厩舎、父ステイゴールド)が、向正面で先頭に立つと、そのまま後続の追撃を振り切ってデビュー勝ち。4馬身差の2着には3番人気のマイネルギブソン(丹後裕二騎手)で、さらに1 3/4馬身離れた3着に1番人気のスピードリッパー(芦田勇人騎手)が入った。勝ちタイムは1分54秒9(良)。
騎乗していた横岾典宏騎手は「調教となんら変わらないレース運びができました。ゲートセンスは抜群ですしまだまだ伸びしろがありますよ。将来が楽しみな馬です」とコメントした。
管理する菅井調教師は「期待通りの結果をもたらしてくれました。普段の調教もすごく良いものでしたので行けると思っていました。距離を伸ばしても戦っていけると思います。騎手時代からの縁がある馬ですので大事に大事に育てていきたいですね」と納得の表情だった。
次走は未定としつつも、10月の札幌競馬場で開催される札幌2歳ステークスを予定している。
N-NET KEIBAより
フラグシップのお陰でオルフェーヴルが強化されています()……生添さんは耐えられるのでしょうか