ヤンデレ幼妻(雪女)と超方向音痴の考古学   作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)

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第3話 エロ本バレと黒い翼凍らせる冷気

 

 あ、やば今回マジで監禁されて『ナマコ』にされるかも。脳裏に浮かび上がるものは……走馬灯、走馬灯じゃないか! 

 田舎の地主の一人息子として生まれて山と蔵に保管された古文書を解読しながら自分だけがこの歴史を独占してるという悦に浸っていた幼少期。迷い込んだ祠で交わしたあの人との約束。そこから始まった極度の方向音痴体質。度重なる転移、からの女湯を覗いていたというあらぬ疑惑をかけられての灰色の小学生時代。親に黙って学校に行かずに裏山で知り合った少女と共に過ごしたあの日々。たまに学校にいったら親からの虐待を受けていた女の子をトイレに匿ったりしていた鈍色の青春の日々。

 考えろ、考えるんだ。この局面を切り抜ける方法を……!

 

「貴方の机の中から出てきたこの本なんですか?」

 

 さっむ! 物理的に気温が肌に霜がつきそうなぐらい寒いし彼女の目線がこちらを凍てつかせようとしてくるかのようだ。

 というか清楚そうな冷心が『どきっ! 真夏のビーチ巨乳谷間〇〇100連発生搾りスペシャル』なんていうものを持っていたらギャップが凄いな。

 

「わたくし以外でしか満足できない体にしてあげてもいいんですのよ? そう、わたくしさえいればこんな脂肪の塊をぶら下げた人達なんて不要ですのに……!」

 

 はっ……! 思い出した! そう、あれは女の子をトイレに匿った時の話だ。あの子曰く『女の子を怒らせた時はぎゅー、してちゅっ、すれば大体許してくれると思うよ? 私にもしてほしいな、怒ってるよ? ぷんぷん』なんて言ってたな。よし、あれを試すのにちょうど良「今、わたくし以外の女の事考えてましたわよね?」

 

 ヤバい、今度こそ本当に108個ある結末の内のどれかを選ぶことになる。ええい……ままよ!

 

「ふ……私が愛するのは冷心……君1人だけさ。その本はそう……気の迷いという奴だ。そうとも、職場の同僚に勧められたから購入したのであって、私はイヤイヤだったのだ。勿論巨乳好きという訳ではないぞ、うむ。そこは勘違いしないで欲しい。というより脂肪の塊という安直なもので男性が劣情を催すなどと考えないで欲しいものだな。そもそも乳房の大きさによる女性の優劣を決めるのはあまりにも非論理的であると思わないか? そうとも、胸の話はもうやめよう。小さい胸、大きい胸。どれも平等に尊い。そう言う事にしていいのではないだろうか?」

 

 学会で詰められた時以上に早口で答える。因みに半分嘘だ。本当は一時の性欲に負けてしまって本を購入してしまった。しっかり二重底の机に保管しておいたはずなのに見つけるとは流石は愛する我が妻だ……!

 

「因みにこの本を勧めた同僚の方は?」

 

「え」

 

「名前を教えてくださいまし。わたくし今からその人をわからせにいきます」

 

「待ちたまえ、君が手を汚す必要はないのではないか? ほら、私が明日しっかり言い聞かせるのだから……反省を促すのだから……」

 

 観葉植物(六代目 名は三代目シュリーマン)が凍り付く。今度時間がある時に観葉植物君をホームセンターで購入してこないといけないな。

 

「名前を、言って、ください。言わないなら様々な手段を使って口を割らせて勧めてきたその同僚の人をわからせに行きます」

 

「すいません一時の気の迷いだったんですもう本は買わないですから許してください」

 

「ふふ……では、わたくしの事をこの本の通りに『愛して』くださりますわよね?」

 

 あ、これ半分『ナマコ』にされるパターンだ。冷凍マグロからの『ナマコ』よりかはマシだが私は明日起きれるのだろうか?

 

「さぁ、ベッドの用意はしておりますわ。参りましょう♪ それと、今回の埋め合わせとして休日、デートしてくださいまし♪」

 

「アッハイ」

 

 翌日遅刻しそうになったのは言うまでもない。やつれ、目の下に巨大なクマを作っている私の姿を見てドン引きしている教授の姿が印象的だった。……それと、翌日、私に本を貸した覚えのない同僚の枕元に氷柱が刺さっていたという話が聞いて背筋に寒気が走った。今度同僚が貸したという嘘をついたら本当にやるという、彼女なりの脅しだろう。今日の夜トイレにいけるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カァ、カァ、とカラスが不快な声色で囀る。

 冷心は恋敵との待ち合わせ場所となった河川敷の空を睨みつけた後に、そのまま夫を狙う雌豚の一人であるシエルへと視線を向けた。

 彼女は相変わらず軽薄な笑みを浮かべている。今すぐ殺したい所だが彼女の考えをまず直接会って聞く必要がある。殺すのは何時でもできるのだから今回の暴挙の弁明を聞いてやってからでも良い。

 

「――何故、彼とのフィールドワークを申し出たのですか? できる限り彼には必要な時以外は関わらないという約束のはずでしたけど」

 

 電柱に止まっていたカラスが羽ばたき夕焼け空に作られた黒い塊に合流する。黒い羽根が宙を舞い、その羽が凍り付き砕ける。

 

 尋常ならざる威圧感と寒気をその身に受けながらも、シエルは楽しそうに笑う。

 

「やだなぁ……これもシエルちゃんなりのネタ探しの一環ですよ? 別に貴女の旦那さんを横取りするつもりなんてないですよ~?」

 

「とぼけないでください。幼馴染の身でありながら選ばれなかった負け犬」

 

「んー? 冷心さんよりもシエルちゃんと過ごした時間の方が長いですよ~? 貴女は一緒にお風呂に入れないかもしれませんけど私、一緒にお風呂に入った事ありますし~」

 

「裕翔さんの人生は、わたくしが救い出し、わたくしだけが彼の本当の価値を認め、わたくしだけが保存する永劫の財宝です。不法投棄されたカラス風情の遺跡荒らしが触れていいものではありませんわ」

 

 雪女の手に冷気が集まり始めて、禍々しい剣の形となる。剣は彼女の殺意の現れ。自分の手で殺さないと気が済まないという決意の証。

 一触即発。遠巻きに2人の容姿に目をひかれてみていた男子学生が腰を抜かして尻餅をつき、彼のズボンにシミが広がった。

 

「あはは! ちょっと煽るだけでそんなに怒るなんて弄り甲斐ありますね? 貴女。でもでも~、ここで殺しあうのはおすすめしませんよ? 以前みたいに殺しあってもいいですけど~。ほら、貴女にも立場があるし私にも立場があるでしょう?」

 

「わたくしが立場を気にすると思いますか?」

 

「いやいや! 実はですね~。シエルちゃん編集さんに原稿を渡してるんですよ! しかも私の人生で書いてきた中での最高傑作!」

 

 冷心の足が止まる。この局面でこいつは何を言ってるんだ?

 

「内容は少しネタバレになりますが語りますと、ユウトと呼ばれる人の恥ずかしい歴史を全て面白おかしく脚色した小説です。ああ、私が行方不明になったり不審死したらその本が出版して貰うっていう契約を編集さんとしてるんですよね~」

 

「っ……! どこまでも……わたくしとあの人を馬鹿にして……!」

 

「ふふ、保険はしっかりかけておくものですよ? 確かに貴女はあの人と結ばれるためならばあらゆる手段を取る。それこそ恋敵の始末さえも常に選択肢に入ってるでしょう」

 

 シエルはふわり、と重力を無視した動作で冷心の隣に立ち、その肩を叩く。背中から覗く影は、巨大な黒い翼の形を成している。その影が彼女が人ならざる存在である事を示していた。

 

「ですけど、貴女はあの人を愛するからこそ、あの人が貶されるのは耐えられない。ほら、剣を下してくださいよ。そんな怖い顔せずに。……一緒にお茶でもしませんか?」

 

「半端者のカラス風情が……!」

 

「にゃははっ! 使い古された陳腐な言い回しですね? もっと語彙力鍛えた方がいいんじゃないでしょうか? ああ、すいません。貴女程度の知能だと本を読みこんでも行間読むだけの知能も無いから作者の伝えたい事の1割も通じませんよね?」

 

 怒りと屈辱でその端正な表情を歪める冷心の肩をシエルは……八戸史枝は叩いて、その場を去ろうとする。少し彼女から離れて後ろを振り向き。

 

「――ああ、彼との物語は私だけのものです。恥ずかしい物語も、彼の冒険譚も。全て私だけの物。貴女こそ私と彼との領域に踏み込もうとした。私だって彼の名誉を貶すなんてことはしたくないんでここは穏便に済ませましょう、ね?」

 

 ま、今回は本当にネタ探しの一環ですけどね~、そこは誤解しないでくださいよ。

 その史枝の言葉も、鬼のような形相を浮かべている冷心には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、シエルちゃんからあの人を奪った雌豚って雪女だったんですね」

 

 それは、まだ密約が結ばれる前。 裕翔の告白を受け入れ、二人が結ばれた直後の記憶だ。

 月明かりに照らされた彼女の姿は、容姿に自信がある冷心でも目が奪われてしまいそうになるほど美しいものだった。

 

「……貴女があの人の幼馴染。八戸史枝さんですね?」

 

「そうですよ~。シエルちゃんって呼んでもいいですよ? にゃはは」

 

「……何の用ですか?」

 

 一段階警戒段階を上げる。自分の夫の目を欺いてはいるようだが彼女から漂う妖気。そして軽薄なその態度の裏に隠された情念は冷心は感じ取った。

 

「ああ、もしかして警戒されてます? 別に警戒しなくていいじゃないですか~。1つ、提案をしに来たんですよ。ね?」

 

 ふわり、壁に座っていた彼女が重力を無視して飛び上がる。その背中から生えるのは黒い羽根。烏天狗の物。

 音もなく自分の傍にパーソナルスペースを無視して近寄ってきた彼女に鋭い視線を向ける。弱小の怪異ならばその一睨みだけで怯えてしまいかねないが、彼女は意に介さない。

 

「私は彼の幼馴染で彼の隣に居たい。彼の話を聞き、それを形にするのは私だけの役割。まぁつまり彼の相棒はシエルちゃんだけという――」

 

 ――冷気が剣という形となって横薙ぎに振われる。寸前で史枝は翼を広げて宙へと舞い上がる事で回避。問答無用の一撃への返答と言わんばかりに空中に不可視の刃を放つ。

 常人では黙視することができない夥しい数の刃は彼女が冷気の剣を振う度に叩き落されて、衝撃音だけがあたりに響く。ほんのわずかな攻撃の応酬。

 

 ……しかしながらも、双方確信した。負ける自信はないがここで本気で戦えば地形が変わりかねないと。

 

「んもぅ~。酷いじゃないですか。私に烏天狗の血が混じってなかったら死んでましたよ~? 多分ユウト君も悲しむと思うんですけど」

 

「……半端者にしてはできる、と言わざるを得ませんね?」

 

「そりゃあ勿論! シエルちゃんがユウト君の命を狙う『悪い虫』を何とかしてきましたからね~? ああ見えて結構彼人気あるんですよ? ――質の悪い存在にもね」

 

「それって貴女の事ですか? 八戸さん」

 

「にゃはは! 冗談きついですよ~」

 

 氷剣が砕かれて、氷辺が地面に落ちる。それを見てシエルも構えを解き、交渉の余地があると確信して口を開く。

 

「私は彼の幸せを心の底から願ってますとも。そりゃあもう。幼少期から知ってますからね。虐待されてると言って彼にすり寄ったあざとい悪霊に絡まれてる時も、人間のフリして彼と山の中で語り合っていた貴女とは別の雪女の事もですよー。まぁ流石に外国での出来事はシエルちゃんも知りませんけど」

 

「ちょっと待ってください、わたくし以外の雪女ともお会いしていたのですか!?」

 

「んん? 知らなかったんですか? にゃはは! シエルちゃん奥さんよりも彼の事知ってるし分かってるんですよ~。凄いでしょう?」

 

 やたらとマウントを取ってくる選ばれなかった幼馴染の言い分に冷心のこめかみに青筋が浮かぶ、が。その事を気にせずに言葉を続けた。

 

「これから行うのは密約です。私は彼の隣で彼の話を聞いて形にするという立場を手放せない。妻としての立場は貴女に譲らざるおえません。ですけども、私にとってのヒーローである彼の相棒という立場だけは奪わないでもらいたい」

 

「……その密約に乗らなかったらどうなるんですの?」

 

「私、彼の両親とも仲が良いんですよね~? 私も結婚を狙ってましたので外堀を埋めてました。この地道な努力を貴女を追い落とすために使う事にします」

 

 一瞬の逡巡。史枝も妥協を重ねての決断であるという事が分かる。それに、外堀を埋めていた彼女をここで始末するにはリスクがあまりにも高すぎる。容易に勝てるならばここで始末しても良いがそうもいかない相手なのだ。

 

「……分かりましたわ。ですが、貴女がわたくしから彼の心を奪おうとするような真似をすれば貴女を殺します」

 

「じゃ、密約は成立ですね。これからは仲良くしましょうね? ユウト君の幸せのために」

 

 

 

 一方その頃、自らの妻と幼馴染が河川敷で睨みあっている同時刻。九条裕翔は謎の寒気に襲われていた。

 

「くちゅん……さっむ……」「風邪ひいたんじゃないのか? 准教授、そんな大きなクマ作ってそれに風邪も引いてるなら早めに帰りなさい」「すいません、ありがとうございます。さっきからくしゃみばかりしてるし、誰か私の噂話してるかもしれませんね」

 

 自分の取り巻く状況を知らぬは彼ばかり。




主人公は幾つかお守りを持っておりますが、特に以前親交を深めた男の祟り神から貰ったお守りは効果絶大で、邪悪な神や悪霊を祓う力を持っております。
これのお陰で彼に近づく悪い虫は近づくのが難しくなってます。
無くなったら? 混沌としたことになるかもしれませんね。

第4話は16日の金曜、19時に投稿予定です。
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