リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜 作:八百板典所
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「やっぱ、どの木にも人の顔みたいなものが浮き上がってますね」
木の幹には浮かび上がっている『人の顔』を見ながら、魔女ルナは不思議そうに首を傾げる。
「この木……人面樹とでも呼称しましょうか。この人面樹に何かしらの心当たりはありますか?」
「ないな。少なくともリバクエ……ゲームの中じゃなかった代物だ」
木の幹に浮かび上がった人の顔を撫で上げる。
モンスターの違いじゃないのだろう。
俺が近づいても、俺が触れても、人面樹は動き出すどころか枝についている木の葉一つ揺らす事はなかった。
「うーん、魔力の気配は一切感じられませんね。私の持っている知識では、この人面樹は唯の木としか言いようがありませ……」
「ん、どうした」
突然、魔女ルナの言葉が途切れたので、彼女の方に視線を向ける。
視線を向けた途端、目を大きく見開く彼女の姿が俺の視界に映し出された。
「どうした、何があった」
「こ、これ見てください」
そう言いつつ、魔女ルナは一本の人面樹を指差す。
彼女が指差した先──人面樹の幹部分を見る。
そこには女の子の顔が木の幹部分に浮かび上がっていた。
「これがどうしだんだ」
「こ、この子の顔、見覚えがあります。私の同僚(なかま)です」
「あんたの仲間って事は、……」
「ええ、『魔女』です。彼女の名前は魔女セリナ。水の魔法を得意とする魔女です。部署が違うので、一度か二度しか話した事はありませんが、一応、顔見知りです」
「なあ、一つ質問いいか」
「はい、何でしょう」
「そもそも、『魔女』ってなんだ? ニュアンス的に俺が知っている魔女と意味が違うって事は何となく分かるんだけど、……」
ずっと疑問に思っていた事を魔女ルナに尋ねる。
彼女は『待っていました』と言わんばかりに、身体を動かすと、何故か決めポーズを披露し始めた。
「『魔女』とは、ざっくり言ってしまうと、世界の均衡を守る側の総称。いわば、世界の均衡を崩そうとする悪い魔法使いを成敗する正義の使者です!」
そう言って、頭頂部に生えた狐耳をピンと尖らせながら、キメ顔と決めポーズを披露する魔女ルナ。
そんな彼女を眺めつつ、俺は首を傾げながら、尋ねる。
「ええと、つまり、アレか? 悪い魔法使いを懲らしめる警察みたいなものか?」
「厳密に言ったら違いますが、大体そんな感じの理解でオッケーです!」
そして、魔女ルナは得意げな表情を浮かべながら、言った。
『魔女(じぶん)達はこの騒動を収めるためにやって来た』、と。
「やって来たって事は、『この世界』の外から来たのか?」
「はい。普段、魔女達は『魔女の国(アステル)』と呼ばれる異世界で暮らしてまして。時々、悪い事をしている魔法使いを成敗するため、悪い魔法使いが暴れている世界に異世界転移しているんです」
「……じゃあ、あんたら魔女が此処にいるって事は、」
「はい。悪い魔法使いが『この世界』に現れたからです」
悪い魔法使い。
それを聞いた瞬間、俺は思い出す。
赤い衣に身を包み、赤いフードを深々と被っている女性──管理者の姿を。
「あの管理者を成敗するため、魔女達(あんたら)は来たのか?」
「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません!」
「どっちだよ」
「いや、私にも今の状況イマイチ分かっていなくて。上司である大魔女や他の魔女達と共に『この世界』にやって来たら、不思議な力により即離れ離れに。一体、此処は何処だろうと森の中を彷徨っていたら思っていたら、ゴブリンと遭遇。ゴブリンに苦戦を強いられて、『いやーん! 助けてー!』みたいな事を思っていたら、ユウさんに助けられて、……で、何やかんやあって今に至るという訳です!」
「要するに、俺と同じくらいしか状況を把握できていないって事か」
「ですです」
首を縦に振りながら、魔女ルナは狐耳をぴょこぴょこ動かす。
可愛らしく動く狐耳を見て、つい触りたくなってしまった。
「なので、現時点では『あの管理者が黒幕だー!』みたいな事は言えないのです。確証が何一つないので。もしかしたら、あの管理者が普通に黒幕かもしれませんし、あの管理者は真の黒幕に唆されて暴走しているだけかもしれません。ただ、……」
「ただ?」
「私の目で見た事なので、確実に言える事が一つだけ。あの管理者を名乗る女、身に余る力を得てしまった結果、助長してしまっています。あの女を叩きのめすのなら、助長している今が最適かと」
「と言われても、叩きのめす手段がねぇんだよな。あの管理者とやらが何処にいるのか分からねぇし」
そう言いつつ、俺は木の幹に浮かんだ女の子の顔──魔女ルナの同僚(なかま)と思わしきモノを見る。
木の幹に浮かんだ女の子の顔は、苦しそうな表情を浮かべていた。
他の木の幹──人の顔が浮き上がった箇所を見る。
やはりと言うべきか。
他の木の幹に浮き上がった人の顔も苦しそうな表情を浮かべていた。
まるで窒息死しそうな金魚みたいな面持ちで。
それらを眺めながら、俺は魔女ルナに尋ねる。
「なあ、この人面樹、どうする? もう少し調査するか?」
「いえ、これ以上、調査するのは時間の無駄です。今の私の知識と実力では、この人面樹の正体に迫る事もできませんし。仮にこの人面樹が木にされた元人間だったとしても、それを元に戻す術を私は持っていません」
──木にされた元人間。
そのワードにより、俺は思い出してしまう。
今朝、両親の寝室で見た樹木を。
両親の寝室に生えていた二本の樹木を。
あの時の俺は女体化したばかりでパニクっていた。
だから、ちゃんと見ていない。
あの樹木の幹の部分を。
もしかしたら、目の前にある人面樹と同じように、あの樹木にも両親の顔が浮かび上がっ──
「どうかしましたか、ユウさん。突然、固まって。はっ! まさか私に見惚れている系のヤツですか!?」
「いや、違うから。ちょっと考え事をしていただけだから」
魔女ルナの大きな声により現実に引き戻される。
そして、首を左右に振ると、脳裏を過った推論を頭の隅に追いやろうとする。
ああ、そうだ。
今、考えた所で答えは出ない。
そもそも、あの寝室にあった樹木が今何処にあるのか分からないから、確かめようがない。
だから、現時点で俺の推測が当たっているかどうか確かめる事ができな──
「はい、此処で唐突なおパンツチェック!」
──いと思った瞬間、魔女ルナは勢い良く俺のスカートを捲り上げた。
「うわ、やっぱ、エッチいの履いてる……! 白い花嫁衣装みたいなもの着ている癖にパンツは黒とか狙い過ぎでしょ! この時点でエッチポイント100点! しかも、布面積少な……あいたっ!」
つい反射で魔女ルナの頭をチョップしてしまう。
頬の温度が急上昇してしまう。
たかがパンツを見られただけ。
たかがスカートを捲られただけ。
にも関わらず、羞恥心を抱いてしまった。
自覚できる程に顔が真っ赤っかになってしまった。
「ほう。スカート捲られて、顔真っ赤ですか。これはメスになる素質があり……あいたっ!」
無言でチョップを繰り出した後、気持ちを落ち着かせるため、深呼吸を繰り返す。
そして、ある程度、顔の温度が引いた後、俺は彼女に尋ねた。
「……何故このタイミングでスカート捲りなんかやった……?」
「そりゃあ、シリアスな雰囲気が続いたので。此処らで空気の入れ替えでもしようかと」
「だからって、俺のスカート捲らなくていいだろ!」
「分かりました。じゃあ、今度から私のパンツを見せつけます」
「なんで!?」
「性欲を持て余しているからです」
「その説明で『そっかー、そりゃあ仕方ないよね』みたいな感じになるとでも!?」
「安心してください。まだ理性はあります」
「理性あって、このレベルかよ」
「安心してください。私は理性の塊であると自負している女。この程度の事で本能に屈したりしません!」
「理性の塊は唐突にスカート捲りしないと思うんだけどな」
魔女ルナがキメ顔で決めポーズを決めた所で閑話休題。
再び話が本筋に戻る。
「まあ、一旦、この人面樹については保留にしときましょう。現段階では情報が少な過ぎて、結論を出す事ができませんし。とりあえず、当初の目的である『四天王討伐』に専念した方がよろしいかと」
「……だな」
ゆっくり息を吐き出した後、俺と魔女ルナは再び歩き始める。
水の地下水殿──水の四天王『ヒュードラ』の下に向かって歩き始める。
歩き始めた途端、茜色に染まり始めた空が目に入った。
それを見て、俺は気づかされる。
まだ女体化して、……いや、この騒動が始まって、まだ一日も経っていない事を。
「………」
もうすぐ夜が始まる。
『この世界』に来て、初めての夜が。
(……何事もなく夜が終わるといいんだけどな)
そんな事を心の中で祈っていると、隣を歩く魔女ルナが俺に声をかける。
「ねぇ、ユウさん」
『どうした』と俺は呟く。
その瞬間、魔女ルナは提案した。
──『今から水浴びをしませんか』、と。
それに対し、俺はつい『は?』と呟いてしまった。