リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

19 / 72
十九話

 

「すみません、無理でしたぁ!」

 

 ダール町。

 そろそろ空が茜色に染まり始める頃。

 鍛冶屋で用を済ませた俺──ユウは魔女ルナと合流した。

 

「数時間かけて調べたけど、NPCみたいな人達の正体を暴く事ができませんでしたぁ! 私は無能な豚です! ぶひぃ!」

 

 合流するや否や、魔女ルナは泣きべそを晒す。

 めちゃくちゃ自信あったんだろう。

 彼女は悔しそうに涙を流しながら、地団駄を踏んでいた。

 

「き、気にするなよ。分からない事が分かっただけで、一歩前進だ」

 

「私的には一歩じゃなくて、一気にゴールまで辿り着いて、ユウさんに『こやつ……! できる……!』みたいな事を思われたかったんですぅ! でも、分かった事と言えば、あのNPCみてぇな人達の身体が樹木でできている事くらい! それ以外の事は何一つわかりませんでしたぁ!」

 

「おい、待て。なんか重要そうな情報がサラッと出てきたんだけど。樹木でできているってどういう事だ」

 

 聞き逃したらいけない情報がサラッと魔女ルナの口から出てくる。

 彼女は『はい?』と首を可愛らしく傾げると、俺の疑問に答え始めた。

 

「言葉通りの意味ですよ。あのNPCみたいな人達の身体は、樹木でできています」

 

「樹木でできているって、……じゃあ、ここにいるNPCみたいな人達は人間じゃないのか?」

 

 周囲にいる人達──NPCのように同じ言葉を延々と繰り返す村人を見ながら、俺は首を傾げる。

 

「私の見解が正しければ、ここにいるNPCみたいな人達は人間じゃありません。人の形をした樹木……いえ、限りなく人に近い樹木と表現したらピンと来るでしょうか」

 

 人に近い樹木。

 その言葉を聞いて、俺は思い出す。

 昨日見た人面樹の群れを。

 

「……昨晩見た人面樹と何か繋がりはあるのか?」

 

「現時点では不明です。もしかしたら繋がりがあるかもしれませんし、繋がりなんてないのかもしれません。この時点で私が言える事は、二つだけ。一つは、あのNPCみたいな人達の皮膚、内臓、筋肉、そして、骨。それら全てが木でできている事。そして、もう一つは『ユウさん! 今からベロチューしませんか!? ぐへへへ!』だけです」

 

「ベロチューの下り必要ねぇよな?」

 

「すみません。ユウさんの唇を見ていたら、ついムラムラしちゃって」

 

「………」

 

「ああ! 無言で後退しないで下さい! それ、地味に傷つきますからぁ!」

 

「いや、身の危険を感じたので、つい」

 

「大丈夫です。私、サクランボの茎を舌で結ぶの激うまですから」

 

「何処に安心する要素があるんだ、それ」

 

「安心してください、天井のシミを数えている間に全て終わらせますから」

 

「いや、ここ野外だから。天井ねぇから。終わらせるつもりねぇだろ、お前」

 

「あのー、すみません。本筋から逸れちゃったので、話を元に戻してよろしいでしょうか」

 

「話逸らしたの、お前だろうが」

 

 魔女ルナがコホンと咳払いした所で閑話休題。

 話が本筋に戻──

 

「ユウさん、めちゃくちゃいい匂いしますね。お胸の谷間に顔を突っ込んで、クンカクンカしてもよろしいでしょうか」

 

「違うだろ、話の本筋はそっちじゃないだろ」

 

「すみません、つい欲望に流されてしまいました」

 

 魔女ルナがコホンと咳払いした所で閑話休題テイク2。

 今度こそ話が本筋に戻る。

 

「調査した結果、分かった事は一つだけ。『このNPCみたいな人達の身体が木でできている事』。それ以外の事は一切分かりません。ですが、私の経験上……」

 

「ですが? 私の経験上?」

 

「……いえ、今はやめときましょう。何も分かっていない状況で根拠なき推測を述べても、混乱を与えるだけだと思うので」

 

 そう言って、魔女ルナは首を横に振る。

 一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女は少しだけ険しい表情を浮かべていた。

 それを見て、俺は何となく察する。

 彼女の言う『根拠なき推測』が俺に混乱だけでなく、不安を与えるものである事を。

 

(……もしかしたら、俺が思っている以上にヤバイ状況なのか?)

 

 冷たい汗が背中を伝う。

 そんな俺を嘲笑うかのように、茜色に染まり始めた空が『もうそろそろ夜が訪れるぞ』と囁いた。

 

 翌日の昼。

 ダール町の宿で一泊した俺と魔女ルナは、野を越え、山を越え、川を越える。

 川を越えた先にある大きな建造物前──地下水殿前まで辿り着く。

 

「此処が地下水殿ですか」

 

 地下水殿と呼ばれる建物はゲームと同じ有様だった。

 一言で有様を説明すると、古びた石でできた建造物。

 出入り口部分の通路は蔦や植物で覆われており、濃い緑の香りが地下水殿の奥の方から漂っていた。

 

(着くまでに結構時間かかったな。ゲームだと、1時間も経たないくらいで着くのに)

 

 一人称(リアル)と三人称(ゲーム)、……いや、『この世界』がゲームと違う事を改めて実感しながら、俺は息を短く吐き出す。

 恐らく無駄に広くなった『この世界』と同じように、この地下水殿も無駄に広くなっているのだろう。

 『攻略するのに時間かかりそうだな』と思いつつ、魔女ルナの方を見る。

 彼女はのほほんとした表情を浮かべながら、『うわー、攻略するのに、かなり時間がかかりそー』みたいな事を呟いていた。

 

「人の気配はしないみたいですね。どうします、ユウさん。また魔王の時みたいに『すり抜けバグ』使いますか?」

 

「いや、すり抜けバグは使わない。というか、『この世界』になってから、もう3日目だ。誰かが先に水の四天王──『ヒュードラ』を倒しているかもしれない」

 

 欠伸を浮かべながら、魔女ルナの疑問に答える。

 やる気があんまりない俺を見て、不審に思ったのだろう。

 魔女ルナは狐耳をピコンと動かしながら、首を横に傾けた。

 

「魔王の時と比べて、あんまりやる気を感じませんね。どうしてですか?」

 

「そりゃあ、1000時間以上もリバクエをプレイした俺にとってボスってのは、『早く』倒さなきゃいけない存在だ。俺にとってボスって存在は倒して当たり前の存在だから、倒すって目標だけじゃ、ちょっと燃え上がらないというか何というか」

 

 そう。

 リバクエを1000時間以上プレイした俺にとって、四天王という存在は倒して当たり前の存在。

 サンドバッグみたいなものだ。

 行動パターンも攻撃パターンも丸暗記しているから、ダメージを負う事は殆どない。

 時間をかけ、且つパターン通りに動けば、必ず倒せる存在。

 だから、魔王の時みたいに『早く倒す事』を優先しなければ、確実に倒せる相手。

 油断や慢心等しなければ、確実に勝てる強敵。

 というか、『ヒュードラ』は四天王の中でも一番弱いから、もうとっくの昔に討伐され……

 

「クォォオオオオオオオオ!!!」

 

 地下水殿の奥の奥。

 そこから聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくる。

 それを聞いた瞬間、魔女ルナが俺の方に視線を向けた。

 

「ユウさん」

 

「ああ、生きているみたいだな」

 

 水の四天王──『ヒュードラ』が生きている事実を俺達は噛み締める。

 どうやら他のプレイヤーは『ヒュードラ』を倒さなかったらしい。

 或いは、倒せなかったか。

 どちらにせよ、此処に来たのは無駄足じゃなさそうだ。

 

「………」

 

 俺の中にあるゲーマーとしての部分が微かに刺激される。

 それを感じ取ったのか。

 地下水殿の奥の奥にいる『ヒュードラ』は威嚇するかのように再び鳴き声を上げ始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。