リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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二十三話

◇2025年8月3日

 

「で、ユウさん。これから何処に向かうつもりですか」

 

 ヒュードラを討伐して数時間後。

 地下水殿から脱出した俺──神永悠は、隣にいる魔女ルナの疑問に答えつつ、夕陽に照らされた地下水殿外壁を眺める。

 

「これから土の四天王──ロックゴレムの下に向かおうかなって思っている」

 

 ヒュードラという主を失った地下水殿は静寂に包み込まれていた。

 幾ら耳を済ましても、ヒュードラの遠吠えは聞こえてこない。

 その所為で、遠くから聞こえる鳥の鳴き声や木の葉の揺れる音が際立っていた。

 

「どうしてロックゴレムですか。ロックゴレムって、四天王の中で1番強いモンスターですよね? 武器も装備も揃っていない今の段階では避けるべき相手じゃないでしょうか」

 

「そこら辺は心配しなくていい。ヒュードラを倒した時に得た報酬を使えば、最低限の装備を整える事ができる。武器もロックゴレムの下に向かう道中、モンスターを倒して調達するつもりだ」

 

 地下水殿に背を向け、俺と魔女ルナはロックゴレムの下に向かい始める。

 北西にある街──ロックシティに向かって、俺達は歩き始める。

 

「四天王は残り3体。まだまだ先は長いですね」

 

「そうだな。俺もいつ男に戻れるのやら」

 

 溜息を吐き出した後、空を仰ぐ。

 もうそろそろ夜が始まるのだろう。

 地下水殿を取り囲むように聳え立つ木々は、夕陽によって照らされていた。

 夕風が俺達の頬を軽く撫で上げる。

 夜が近いからなのか、夕風は少しだけ冷たかった。

 

 

─────『誰も踏み込めぬ理想郷(1)』─────

 

◆side:瑠璃川桜子 2023年 7月中旬 

 

 夏休み初日。

 空も夏にやられていた。

 薄い雲に覆われた水色の空。

 日陰を求める蝉の声。

 生き急ぐ蝉の鳴き声が焦燥を募らせる。

 地面を焼く陽射しが、寂れた小さな公園を照らし続ける晩夏の陽射しが、錆びたブランコに乗っかっている私──瑠璃川桜子に突き刺さる。

 

「………」

 

 額を伝う汗が鬱陶しい。

 身体に纏わりつく熱気が鬱陶しい。

 蝉の鳴き声も鬱陶しい。

 空に浮かぶ入道雲が鬱陶しい。

 というか、私を取り囲む何もかもが鬱陶しい。

 誰か私を此処から連れ去ってくれ。

 そんな事を心の何処かで祈りながら、私は夏の空を仰ぐ。

 薄い雲に覆われた水色の空を仰ぐ。

 入道雲の陰に隠れ始めたお天道様を睨みつける。

 案の定、私の願いは届く事なく。

 額を伝う汗も、身体に纏わりつく熱気も、ツクツクボウシの鳴き声も、そして、空に浮かぶ入道雲も、私を取り囲み続けた。

 

「……はぁ」

 

 視線を地面に落とす。

 すると、右手の中に収まっている紙が私の目に入った。

 昨日、塾で貰った模試の結果だ。

 もう一度、模試の結果をチラ見する。

 第1志望E判定。  

 その結果が私の背に重くのしかかる。

 別に偏差値が高い高校じゃない。

 私の学区で受けられる学校の中では3番目に偏差値が高い高校だ。

 東雲高校のような県で1番偏差値が高い高校を第一志望にしている訳じゃない。

 自称進学校とバカにされてもおかしくないレベルの高校だ。

 にも関わらず、E判定。

 まだ受験まで1年半以上の時間があるとはいえ、この結果はヤバ過ぎる。

 今の私の学力では自称進学校にさえ受からない。

 

(……この結果、お母さんに見せたらメチャクチャ怒られるだろうなぁ)

 

 怒った母の姿を想像した途端、胃が痛くなってしまう。

 私は深い溜息を吐き出すと、地面に視線を向ける。

 

「……」

 

 ああ、もう嫌だ。

 最近、何もかも上手くいっていない。

 勉強だけでなく、部活も人間関係さえも。

 陸上(ぶかつ)ではリレーメンバーの座を後輩に明け渡してしまった。

 100m走の記録も伸び悩んでいる。

 親との関係は私が勉強できない所為で言わずもがな。

 友人との関係も最悪。

 私の失言の所為で、クラスメイトのみいちゃんを傷つけてしまった。

 小学校の頃から仲が良いヨッシーとどうでもいい事で言い争いしてしまい、仲違いしてしまった。

 そして、挙げ句の果てにはE判定。

 弱り目に祟り目とは今の私のような状態を指すのだろう。

 泣き面に蜂とは今の私のような状況を指すのだろう。

 そう思ってしまう程、今の私はどん底だった。

 

「………はあ」

 

 夏空を仰ぎながら、溜息を吐き出す。

 この現実から逃れたいと心の底から願ってしまう。

 もしこのクソみたいな現実から逃れられるのなら、悪魔に魂でさえ投げ渡すだろう。

 そう思ってしまう程、今の私は追い込まれていた。

 

(……やっぱ、暑い)

 

 太陽が入道雲の陰に隠れたとはいえ、暑いものは暑い。

 ずっと生暖かい空気が肌に張り付いているし、肌は熱で炙られ続けている。

 汗もダラダラ流れているし、喉は渇きを訴えている。

 もう限界だ。

 ここに留まっていられないと思った私はブランコから降りようとする。

 お母さんが待つ家に戻ろうとする。

 『このクソみたいな模試の結果を見せたくないな』と思いながら、立ち上がろう──としたその時だった。

 

「ねぇ、暑くないの?」

 

 麦わら帽子を被った黒髪ショートヘアーの女の子が私に話しかける。

 小学生高学年だろうか。

 顔は小学生特有の幼さを残しているけれど、背は私と同じくらいか、それ以上の高さを有していた。

 

「暑いに決まっているじゃないですか」

 

 額を伝う汗を拭いながら、私は女の子の疑問に答える。

 女の子は『そうだよね』と呟くと、私の目を見つめながら、こんな提案をしてきた。

 

「じゃあさ、お姉ちゃん。私の家で『リバクエ』やらない?」

 

「は?」

 

 そう言って、女の子は私に手を伸ばす。

 まだ出会って数秒も経っていない私に手を差し伸べる。

 彼女の考えている事が分からず、私は首を傾げてしまった。

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