リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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二十七話

「……」

 

 脱衣所で魔女ルナから借りたヘアゴムで長い髪の毛をまとめた後、身に纏っている衣服を拭ぐ。

 そして、自分の裸をなるべく見ないよう意識しながら、ルナから借りたバスタオルを身体に巻きつかせ、胸から股間周りを覆い隠す。

 

「……」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ、胸の先端についているアレを見てしまった。

 男だった時よりも綺麗で大きくなったアレを見て、つい俺は『ああ、俺、女になってしまったんだなぁ』的な事を思ってしまう。

 

「………」

 

 バスタオル越しに自分の乳房に触れる。

 ブラに覆われていない自らの乳房。  

 巨乳と言っても差し支えのないレベルで大きいそれは、大きい上にハリがあって柔らかかった。

 まさに至高の感触。

 乳房に触れる度に指が乳肉に沈み込み、乳肉が指を押し返す。

 今まで触ってきたものの中で1番と言っても過言じゃない感触が俺の掌を愉しませた。

 

「………」

 

 ああ、やばい。

 胸を揉んでいたら、変な気持ちになってきた。

 息を短く吐き出す事で、変な気持ちを振り払う。

 そして、タオルが落ちないように右腕でしっかり支えつつ、俺は脱衣所の扉を開け、温泉の方に向かって歩を進める。

 

「……は、入ったぞ」

 

 先に温泉に入っている魔女ルナに声を掛ける。

 彼女は振り返る事なく、俺の声に応えると、早く温泉に入るように促した。

 周囲を見渡す。

 俺とルナ以外に客はいなかった。

 この場にいるのは、俺とルナの2人だけ。

 シャワー設備やシャンプーのような物はない。

 ただ、大きな岩で囲まれている湯船と湯気が立っている温泉があるのみだ。

 そんな湯煙立つ温泉を目の当たりにしながら、俺はゆっくりと足を前に出す。

 一歩ずつ、足を前に踏み出しながら、俺はルナのいる場所──温泉に向かって前進する。

 一歩、また一歩と前に足を出す度に俺の鼓動が高鳴るのを感じた。

 緊張している所為だろう。

 心臓の鼓動がいつもより早くなっていた。

 

「し、失礼しまーす」

 

 なるべくルナの方を見ないように気をつけながら、温泉の中に足を突っ込む。

 足の裏から感じる温泉の温度。

 それと同時に伝わってくる柔らかな感触を足の裏で感じながら、俺は目蓋を閉じると、身体に纏わりついているバスタオルをゆっくり剥がしていく。

 そして、ルナがいる場所から少し離れた場所に座った後、身体を湯船に沈めていく。

 身体を湯船に沈めた途端、程よい温度のお湯が全身に行き渡る。

 久しぶりに浸かる湯船は俺の心身を優しく包み込んでくれた。

 ……ああ、気持ちいい。

 

「ユウさん、そんなに離れなくてもいいじゃないですか裸の付き合いしましょーよ」

 

 少し離れた所からルナの声が聞こえてくる。

 俺は目蓋を閉じたまま、ルナの声に応えた。

 

「お前と裸の付き合いなんかしたら、裸の突き合いになってしまいそうで怖い」

 

「安心して下さい。了承なしに裸の突き合いする程、私は理性を捨てちゃおりま……うわ! ユウさん、裸になっとる!」

 

「こっち見るな!」

 

「す、すみません! てっきりバスタオル着けたまま、入っているかと!」

 

「いや、湯船にタオルを浸けるのはマナー違反だろ」

 

「あ、羞恥心よりもマナーを優先するタイプなんですね」

 

「そりゃあ、一応、温泉は公共の場だからな。公共の場で我を通す程、俺は我儘な人間じゃ……って、なんか胸の辺りに視線感じているんだけど」

 

「ほほう、私の視線に気づくとは。ユウさん、女を上げましたね」

 

「よし、上がるか」

 

「あーん、ごめんなさーい! 揶揄わないし、おっぱいも見ないので、もう少しだけ温泉浸からせてくださーい!」

 

 そう言った途端、胸の辺りに突き刺さっていた視線が音もなく消え失せてしまう。

 多分、ルナが俺から視線を逸らしたんだろう。

 目を閉じているので、よく分からないが、多分そんな気がする。

 

「……」

 

 目を閉じ続け、肩までお湯に浸かろうとする。

 肩までお湯に沈めた途端、今まで感じていた胸の重みがなくなってしまった。

 『もしかして、おっぱい取れたか?』と思いながら、薄っすら目を開ける。

 すると、湯船の中でプカプカ浮いている乳房を目撃してしまった。

 

「……っ! ……っ!」

 

 湯船に浮く程に大きいおっぱいが、俺の胸についている。

 その事実を認識した瞬間、羞恥心が刺激されてしまった。

 顔の温度が急上昇してしまう。

 今の自分が男ではなく、女である事を否応なしに自覚させられる。

 男として大事な何かを失ったような気がする。

 というか、女湯に入った時点で男としての何かが失われたような気がする。

 

(落ち着け、俺。今だけだ。四天王を全員ぶっ倒したら、男に戻れるんだ。だから、今は堪えるんだ俺)

 

 そんな事を心の中で言い聞かせる事で、気持ちを落ち着かせようと試みる。

 すると、黙っている事に飽きたのか、ルナが俺に声を掛けた。

 

「ねぇ、ユウさん」

 

「ん、どうした」

 

 薄っすら開けていた目を閉じ、ルナの声に耳を傾ける。

 

「折角、同じ湯船に浸かっていますし、ちょっくら雑談でもしましょうよ」

 

「別にいいけど、……エッチいのは無しだからな」

 

「へーい、分かっていますよー」

 

 そう言って、ルナは俺に問いかける。

 

「で、ユウさん。何でユウさんはリバクエを1000時間以上プレイしたのですか?」

 

「何でって聞かれてもなぁ。気がついたら、プレイ時間1000時間以上プレイしてたとしか」

 

「他のゲームをやろうとは思わなかったのですか」

 

「他のゲームもちょくちょくやってたよ。レースゲームとか格闘ゲームとか。でも、毎日プレイする程ハマったのはリバクエだけだな」

 

「リバクエ、本当にお好きなんですね。私もリバクエ好きな方と自負していましたが、流石にユウさんには負けます」

 

「そういや、お前もリバクエプレイ済みだっけ」

 

「ええ。と言っても、最近ようやくクリアしたばかりですが」

 

「ルナの容姿がアイナ姫に似ているのも、リバクエの影響だっけ」

 

「ええ。私、アイナ姫の凛々しい感じが超好きで。アイナ姫の容姿を真似ているんですよ。まあ、ちょっとしたコスプレみたいなものです」

 

「瞳の色とかは真似ないのか? 折角、髪型一緒だったり、狐耳つけたりしているんだから、瞳の色もアイナ姫に寄せたらいいのに」

 

「カラーコンタクトを着けたら寄せられるんでしょうけど、それを着けてしまったら、私の魔眼が発揮できなくなってしまいます」

 

「え、……魔眼? そんな厨二チックな能力も持っているの?」

 

「ええ。と言っても、微妙過ぎる性能ですが」

 

「どういう魔眼なんだ」

 

「目視する事で対象の動きを一定時間止める事ができる魔眼です。ただ、この魔眼は私よりも弱い人にしか通用しない上、通用したとしても3秒間程しか動きを止める事ができませんが」

 

「魔眼といい、魔法といい、呪術といい、なんか思っていたよりも多才だな、

 

「ええ。これでも私、大魔女に最も近い魔女と称されていますから」

 

「前々から気になっていたけど、大魔女ってなんだよ」

 

「大魔女はですね、簡単に言ってしまうと、魔女の中で最も優れた10名の魔女の総称でありまして、……」

 

 そして、温泉に浸かりながら、俺達は話し合う。

 今、ハマっている事。

 仲のいい友人の事。

 今、周囲で流行っている事など。

 他愛のない話だった。

 でも、彼女の家族の話は俺にとって驚きを与えるものだった。

 

「私ですか? 私には父がいません。ですが、母が2人います」

 

「……え、えーと、それ、聞いてもいい話なの?」

 

「ユウさんが考えている程、複雑な話じゃないですよ。魔女の生態と言いますか、魔女は基本的に女同士で婚姻関係を結び、女同士で子作りを行う生き物なんです」

 

「女同士で子作りを行う? どうやって?」

 

「ほら、出会った時にティンティンを生やす魔術があると言ったでしょう? 魔女はティンティンを生やす魔術を使って、女同士で子作りを行う事を可能にしているのです」

 

「へ、へぇ、そうなのか」

 

「ちなみに魔女との間に産まれる子どもは、女の子しか生まれません。なので、もしユウさんと私が子作りしたとしても、子どもの性別は女に固定されます」

 

「男の子は産まれないのか」

 

「はい。私達魔女に流れる血は普通の人間のものとは違い、ちょーっと特殊でして。なので、私の家は母2人娘2人というユウさんからしてみれば、変わった家族構成になっております」

 

「え、娘2人って事は姉妹がいるのか」

 

「はい。今年7歳になる妹が1人います」

 

「だったら、ルナはお姉ちゃんなんだな。なんか意外」

 

「む、意外とはなんですか。私、ちゃんとお姉ちゃんっぽい雰囲気を発しているでしょう」

 

「いや、お前からお姉ちゃん味感じた事1度もねぇよ」

 

 此処が女湯である事を忘れ、俺は話に熱中してしまう。

 多分、ルナも熱中していたんだろう。

 その所為で、反応するのに少しだけ遅れてしまった。

 

「……っ!?」

 

 唐突に何の前触れもなく、視線を感じる。

 視線は俺に向けられていなかった。

 視線を向けられているのは、ルナの方だ。

 ヒュンという音が聞こえてくる。

 それを聞くや否や、俺の身体は反射的に動いていた。

 

「ルナ、危ないっ!」

 

 そう言って、俺は勢い良く立ち上がる。

 少し離れた所にいるルナの方に向かって駆け寄ろうとする。

 

 

 

 ──その瞬間、ルナの頭上を矢が通り過ぎた。

 

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