リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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三話

◇2025年8月1日

 

 アイナ姫。

 『リバクエ』──正式名称リバース・クエストに出てくるメインヒロインの名前。

 本名はアイナ・エーテルロード。

 ぴょこんと動く狐耳と幼さが色濃く残る童顔、そして、大きくもなければ決して小さくもない胸が特徴的なリバクエのメインヒロイン且つキーパーソン。

 オープニングで魔王(ラスボス)に囚われてしまうので、ゲーム中、プレイヤーがアイナ姫に会う機会は殆どない。

 いや、殆どないという表現には語弊があるだろう。

 リバクエ攻略中は魔王城に囚われているので、アイナ姫を見る事ができるのはオープニングとエンディングのみ。

 ゲーム中、アイナ姫に会えるのは、ほぼ皆無と言っても過言じゃない。

 そんな空気系ヒロインと言っても過言じゃないアイナ姫は何故かニシノハテ村の森の中で、キョトンとした表情を浮かべつつ、俺の事を見つめていた。

 

(何でアイナ姫が此処に……ん?)

 

 地面に尻餅を着いているアイナ姫と思わしき少女を見下ろす。

 見下ろしていると、俺はある事に気づいた。

 

(このアイナ姫、胸、デカくね?)

 

 魔女が着ていそうな黒いローブ。

 身体のラインが分かりにくい服を着ているにも関わらず、アイナ姫と思わしき少女の胸部はドンと前に突き出ていた。

 身長は俺よりも小さいのに、胸は俺──正確に言えば、女体化した俺の胸部──よりも少し大きい。

 

(おっぱいが大きい……? という事は、この人、アイナ姫に似ているだけの別人なのか?)

 

 狐耳の美少女の顔をよくよく覗き込む。

 どっかで見た事のある顔だった。

 茶に染まった少し癖のある毛も。

 幼さが色濃く残る童顔も。

 理想的な位置に配置されている二重の目も高い鼻も小さな口も。

 そして、こんな状況下でなければ、つい見惚れてしまいそうな程に美しく可憐な顔も。

 全部、何処かで見覚えのあるものだった。

 けど、細かく見れば、似ているだけで全然違かった。

 先ず相違点一つ目は、瞳の色。

 アイナ姫はエメラルドみたいな色の瞳をしていたけど、目の前にいる女の子はサファイアみたいな色の瞳をしていた。

 相違点二つ目、顔の輪郭。

 アイナ姫の顔の輪郭はほんの少しだけシュッとしていたけど、目の前にいる女の子の輪郭は丸みを帯びていた。

 相違点その三、耳。

 アイナ姫の耳は垂れ気味の狐耳だったけど、目の前の美少女の狐耳はピンと張り詰めていた。

 それを見て、それを見せられ、それを魅せられ、俺は思う。

 目の前にいる少女が『アイナ姫』じゃない事を。

 

「……あんた、一体何も……」

 

「よっしゃあああ! リアルで推せる子爆誕したぁぁああああ!!」

 

 目の前にいる狐耳の少女に疑問を繰り出そうとしたその時だった。

 突如、狐耳の少女が奇声を発し始めたのは。

 思わずビックリしてしまった俺は、その場で軽くジャンプしてしまう。

 その際、胸についている乳肉が上下にぶるんと揺れ動いた。

 

「凛々しい系の可愛さ! デッケェおっぱい! そして、私好みの顔! 露出多めの花嫁衣装みてぇなモノも個人的にバッチグー! いや、これは推せますね。というか、推すを超えて結婚ですね。コレは私が娶らなければ(使命感)」

 

「あ、あのアイナ姫(仮)……? あんた、何を言って、……」

 

「好きです。顔が超好みです。結婚して下さい。大丈夫です。私、呪術に手を染めちゃっている系の魔女ですから、生やす事ができます」

 

「生やすって何を!?」

 

「そりゃ、○んぽに決まっているでしょう」

 

「ちょっと待て! あんた、俺を犯すのか!? 俺、こう見えて、男なんだけ……」

 

「そうですか。ならば、お○んちんチェック!」

 

「うぎゃあ!」

 

 俺の言葉を聞き届けるよりも先に、狐耳の美少女──アイナ姫(仮)は俺の股間目掛けて右掌を叩き込む。

 そして、右掌で俺の股間をグリグリすると、俺の目を見て、こう言った。

 

「ノーオティンティン! イエスプリティ! ユーはナイスガール!」

 

「勝手に人の股間を弄るな!」

 

「こーん!」

 

 狐耳の美少女──アイナ姫(仮)の頭にチョップを叩き込む。

 ちょっと強めに叩いた所為だろう。

 アイナ姫(仮)の目から、ほんの少しだけ涙が噴き出ていた。

 

「ちょ、いきなりチョップは酷いと思います! 暴力反対!」

 

「いきなり人の股間を弄ったヤツが被害者面すんな!」

 

「あ、ちなみに私は両刀なんで、生えてても生えてなくても、どっちでもオッケーです。面さえ私好みだったら、何でもイケちゃうタイプの女。それが私──ルナール・ヴァランジーノという女です」

 

「じゃあ、何でさっき俺の股間を弄った!?」

 

「出来心で、つい」

 

「ついでやるなよ、そんな事! 俺の中にある男としての何かが削られたんだけど!?」

 

 一通りツッコミを終えた所で閑話休題。

 俺はアイナ姫に似て非なる人物に自己紹介を求める。

 

「で、あんたは一体何者なんだよ」

 

「あなたの夫であり妻です」

 

「そろそろ本気でチョップするぞ」

 

「あーん! 嘘です! ごめんなさい! ちゃんと自己紹介するんで、チョップは勘弁してください! さっきゴブリンと死闘を繰り広げた所為で、ボロボロなんですぅ!」

 

「じゃあ、サクッと自己紹介どうぞ」

 

「私の名前はルナール・ヴァランジーノ。最も大魔女に近いと噂されている優秀な魔女兼呪術師です! 気軽にルナちゃんとお呼びください!」

 

「まじょ……? じゅじゅつ……?」

 

「あー、なんか疑っている顔していますね。いいですよ。論より証拠という言葉が、あなたの世界にはあるようですし、特別にお見せしますよ」

 

 そう言って、狐耳をつけた自称魔女──ルナは指を振るう。

 彼女が指を振るった瞬間、蝶を模した炎の塊が、蝶を象った氷の塊が、そして、蝶を模った光の塊が、俺の目の前に現れる。

 それを見て、俺はほんの少しだけ驚くと、思わず後退を選んでしまった。

 

「どうです? 私が魔女って事、信じて貰えましたか?」

 

 そう言いつつ、ルナは指を鳴らす。

 それと同時に、俺の目を楽しませていた三匹の蝶が音もなく破裂し、空気に溶け込むように消えて無くなってしまった。

 

「ほら、頭の上に狐の耳が生えているでしょう? これ、呪術で生やしたモノなんです。だから、……えい」

 

 そう言って、パチンと指を鳴らすルナ。

 瞬間、彼女の狐耳は一瞬で猫の耳と化してしまった。

 

「こうやって、狐の耳を生やしたり、猫の耳を生やしたりできます。何だったら、身体の一部だけでなく、全身を狐や猫に変える事ができます。今、此処で実演しましょうか?」

 

「いや、いい。あんたが特別な力を持っている事だけは理解できたから」

 

 また訳の分からない事が増えてしまった。

 そう思いながら、俺は右人差し指で額を押す。

 そして、『ふぅ』と溜息を吐き出すと、『何でアイナ姫似の容姿をしているんだ?』と尋ねた。

 

「ああ、コレは最近私が『リバクエ』にハマっているからです。ほら、アイナ姫可愛いじゃないですか。だから、化粧と呪術の力で容姿をちょーっとだけ寄せてみたんです」

 

「そうか。あんたがアイナ姫の容姿に似ているのは、敢えてなのか」

 

「ところで、話は変わるのですが、さっきアナタは自分の事を男だと言ってましたよね? 何故そのような立派な乳房を持っておられるのに、自分の事を男と言い張ったのですか。私、気になります」

 

「ああ、それがさ……」

 

 俺は話した。

 昨日まで男だった事を。

 朝、目覚めたら女になっていた事を。

 自分の容姿が普段『リバクエ』で使っているキャラクターになっていた事を。

 両親が行方不明になった事。

 そして、──

 

「なるほど。家の中にいたのに、気がついたら中世ヨーロッパ風の町──ニシノハテ村にいたって訳ですか」

 

「ついでに此処にやってくると同時に、服も変わってしまった。目覚めた時は男モノのパジャマを着ていたんだけど、なんか気がついたら、こんな衣装になってた」

 

 そう言って、俺は見る。

 露出が無駄に多い花嫁衣装を身に纏った自分の身体を。

 胸の辺りは谷間がばっちり見えるくらい開けられており、袖は萌袖。

 胸が大き過ぎる所為で、足元や下半身はよく見えないが、多分、そこら辺もエッチい事になっているだろう。

 ズボンはスカートみたいなものになっているのか、股間や太腿部分はスースーするし、パンツを隠すには心許ない代物に成り果てている。

 

「幼馴染はNPCみたいに同じ言葉を繰り返すマシーンになっているわ、突如空が赤くなったかと思いきや、謎の女性が現れるわで、謎の女性の言う通り、頭の中にあるコントローラを弄ったら、リバクエと同じ感じで身体を動かす事ができるようになったわで、本当訳分からん状況が続いているんだよ」

 

「なるほど。つまり、アナタは元男現女。所謂、TS娘って訳ですね」

 

「ねぇ、俺の話聞いてる? こっちは本気で困っているんだけど」

 

「ふっ、舐めないで下さい。私、TSモノもいけるタイプの人間なんです」

 

「聞いてないよね、俺の話、一切聞いてないよね?」

 

「身体は美女、中身は男子高校生。ふっ、ますます気に入りました。んじゃ、サクッとメス堕ちさせますねー」

 

「待て待て待て待て待てぇ!」

 

 両手をワキワキさせながら、こちらに滲み寄る魔女ルナ。

 その眼は肉食獣のように鋭く、見ているこちらが危機感を抱く程に熾烈で苛烈で激烈な眼だった。

 

「何でメス堕ちさせんの!? メス堕ちさせる必要何処にあんの!?」

 

「大丈夫ですよ。私、メスになったアナタも愛せますから」

 

「何も大丈夫じゃねぇよ! 俺、女主人公でゲームするの好きなだけで、別に女になりたくないタイプの人間だから!」

 

「あー、それ、分かります。折角長時間ゲームするんだったら、ムサ苦しい男のケツよりも女の子のケツ見た方が圧倒的にお得感ありますよね」

 

「そうそう。第三者視点で主人公を追っかけるなら、断然女の子っしょ。可愛い女の子は目の保養になるというか、見ているだけで癒されるというか何というか………って、じわりじわり滲み寄るの止めてくれる? 俺、メス堕ちしたくないんだけど。男のままがいいんだけど」

 

「大丈夫です。天井のシミを数え終える間に終わらせますから」

 

「ここ野外なんだけど!? 青天井なんだけど!?」

 

「ああ、もう! 面倒臭え! さっさとアナタの初めてを寄越しやがれぇ!」

 

「しまった! 一番声を掛けたらいけない人種に声を掛けてしまったぁ!」

 

 このままじゃメス堕ちされちまう。

 そう思った俺は魔女ルナ改め痴女から逃げようとする。

 頭の中にあるコントローラを操作して、全力ダッシュを入力──しようとしたその時だった。

 

「──魔女を倒してくださいって言ったじゃないですか」

 

 唐突に何の前触れもなく、俺と魔女ルナの間に赤いフードを被った女性が現れる。

 その瞬間、今の今まで奇行を繰り返していた魔女ルナは、大きく目を見開くと、何処からともなく札を取り出した。

 

「何者ですか、貴女は!?」

 

 赤いフードを被った女性に敵意を向ける魔女ルナ。

 そんな彼女を脅威に思っていないのだろう。

 赤いフードを被った女性は『はろはろ〜♪』と告げると、魔女ルナに背を向け、俺に身体の正面を見せつけた。

 

「魔女を倒さないと、この世界滅びてしまうんですよ? それでもいいんですか?」

 

 目の前にいる女性には見覚えがあった。

 数分前、山よりも大きい身体で『リバクエを愛しているとか頭のコントローラがどうたら』とか言っていた女性だ。

 

「このままだと、魔王も四天王も倒されて、つまらない現実世界が戻ってきますよ。それでもいーんですかぁ?」

  

 さっきは富士山よりも大きかった女性。

 それが今では女になった俺と同等、いや、それよりも少し小さい程度の体長に成り果てていた。

 

「え、魔女? 滅びる? それ、どういう意味……」

 

「あー、やっぱ私の話聞いてなかったんですね。それじゃあ、もう一度話しま……」

 

「というか、さっき魔王って言ったよな? この世界にリバクエのラスボス……魔王アギラスがいるのか……!?」

 

「ええ、いますよ。さっき言ったじゃないですか。魔女に魔王や四天王倒されたら、『この世界』が滅びるって」

 

「魔王ってリバクエに出てくる魔王(ラスボス)の事だよな!? ほら、あのチュートリアル終わったら速攻で挑める系(挑めるだけで勝てるとは言ってない)の!」

 

「え、ええ、そうですけど」

 

「俺以外に自分の意思で動ける人はいるのか!?」

 

「ええ、1123人程」

 

「じゃあ、このままじゃ、俺よりも先に魔王倒すヤツが出てくるじゃねぇか!」

 

「は?」

 

 俺の言っている意味が分からなかったんだろう。

 赤いフードを深々と被った女性は、大袈裟に首を傾げる。

 それを見て、俺は思った。

 思ってしまった。

 この女はゲーマーという生き物を理解できていないな、と。

 

「このままじゃ、俺よりも先に誰かが魔王を倒してしまう。ゲーマーってのは、そういう生き物だ。理屈とか感情とか、そういうの抜きで『誰よりも早くクリアしたい』って欲を抱いている」

 

「はぁ?」

 

「つまり、だ。もしその1123人の中にゲーマーって生き物が混ざっていたら、誰よりも先に魔王を倒しに行く筈だ」

 

「いや、そんな事をする人間が現れる訳ないでしょう。だって、そんな事をしたら、『この世界』は崩壊して……」

 

 赤いフードを被った女性の言葉を無視して、俺は想像する。

 自分よりも先に魔王を倒してしまった人間(ゲーマー)の姿を。

 その姿を見て、魔王を『い』の一番に倒す人間(ゲーマー)を想像して、俺は思った。

 思ってしまった。

 『そんなの嫌だ』、と。

 だから、俺は思ってしまった。

 『誰かに先を越されるくらいなら、俺が魔王を倒したい』、と。

 

「ちょ、何処に行くんですかぁ!?」

 

 魔王城目指して走り出した俺を見るや否や、赤いフードを被った女性は素っ頓狂な声を上げる。

 俺は振り返る事なく、足を止める事なく、女性の疑問に答えた。

 

 ──今から魔王を倒しに行く、と。

 

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