リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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三十五話

「んだ、これ……」

 

 岩の神殿の最深部。

 そこで敵──茶髪の男性と対峙していた俺と魔女ルナは目にする。

 唐突に何の前触れもなく、両手剣を床に落とす茶髪の男性の姿を。

 そして、男性の両手を。

 

「何でオレの手が木みたいになってんだ?」

 

 唐突に何の前触れもなく、男性の両手は樹皮に包まれる。

 

「おい、これ、お前らの仕業か? お前らがオレの手に何かしたのか?」

 

 そう言って、茶髪の男性は俺達を睨みつける。

 

「おい、さっさと戻しやがれ。じゃないと、お前らを殺……」

 

「──HPがゼロになったからですよ」

 

 聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 すると、赤い布を深々と被った女性──管理者を名乗る女性が煙のように現れた。

 

「あん? お前、何言って、……」

 

「HPがゼロになった者は『この世界』の糧になる。貴方にロックゴレムの力を授けた際、そう言ったじゃないですか」

 

 管理者を名乗る女性が溜息を吐き出す。

 その時だった。

 樹皮に包まれた男の腕がニョキっと伸びたのは。

 

「あぁ……! オレの腕がぁ!」

 

 茶髪の男性の腕が変質する。

 樹皮のようなものに包まれた彼の腕は、ニョキニョキと伸びると、木の枝のようなものに成り果てた。

 指だった箇所は小枝のようなものになる。

 それと同時に、彼の顔の皮膚が樹皮のようなものに包まれ、彼の身体全体が膨張し始める。

 

「現実世界と同じように、『この世界』も弱肉強食。『この世界』に適応できない者、そして、HPがゼロになってしまった弱者は『この世界』に相応しくありません」

 

 ビリビリと音を立てながら、茶髪の男性が身に纏っている衣服が破れ始める。

 彼の身体の膨張に耐え切れず、衣服が音を立てて破れていく。

 

「さっきアナタはロックゴレムの力を使ったにも関わらず、プレイヤーネーム『ユウ』に破れましたよね? プレイヤーネーム『ユウ』にHPを全部削られましたよね? その所為で、アナタは木になっているんですよ」

 

 ビリビリに破れた茶髪の男性の衣服が霧散する。

 膨張した彼の胴体は木の幹のようなものに変わり果てていた。

 それだけじゃない。

 彼の両脚は木の根っこみたいなものに変わっていたし、彼の茶に染まった髪は木の葉に変わりつつあった。

 

「た、助け……たすけ、……た、……」

 

 助けを求めながら、茶髪の男性は人の形を失っていく。

 目を失い、鼻を失い、口を失い、顔の輪郭を失い、顎と首の境目を失い、彼の頭部は木の幹と化した胴体と一体化してしまう。

 木の枝と化した両腕から小枝のようなものが生えると、無数の木の葉を生い茂らせる。

 さっきまで人だった彼の身体が、あっという間に何の変哲もない樹木へと変わっていく。

 

「──弱者は『この世界』に必要ありません。大人しく木になって、『この世界』の糧として頑張ってください♪」

 

 そんな彼を心の底から見下しながら、管理者を名乗る女性は上機嫌に言い放つ。

 彼女の言葉が聞こえたのだろう。

 辛うじて残っていた男性の耳はピクリと動くと、木の幹に吸い込まれ、消えてしまった。

 

「………」

 

 たった数十秒。

 1分にも満たない時間で茶髪の男性は何の変哲もない樹木に成り果ててしまう。

 何処からどう見ても、木だった。

 枝に生い茂る無数の葉も。

 腕だった枝も。

 頭部と胴体だった木の幹も。

 そして、脚だった木の根っこも。

 何処からどう見ても、変哲のない樹木だった。

 いや、よく見たら、変哲のない樹木じゃない。

 木の幹の表面。

 そこには人の顔のような模様──茶髪の男性の顔そっくりの模様が浮かび上がっていた。

 それを見て、俺は思い出す。

 思い出してしまう。

 

 『この世界』の森の中で見かけた人面樹の姿を。

 そして、両親の寝室で見た2本の樹木を。

 

「あーあ、また新しく手駒を探さないと」

 

 そう言って、管理者を名乗る女性は立ち去ろうとする。

 だが、隣にいるルナが彼女に『待った』をかけた。

 

「──もしや、貴女、『この世界』を生み出すため、人々を木に変えたのですか?」

 

「………」

 

 ルナの指摘により、管理者を名乗る女性は足を止める。

 

「この世界を維持するため、多くの無辜の民を樹木に変え、人々からエネルギーを吸い取っている……いえ、吸い取ろうとしているのですか?」

 

「……」

 

 ルナは何かに気付いたのだろう。

 淡々と粛々と管理者を名乗る女性に指摘を突きつける。

 だが、管理者を名乗る女性はルナの問いに答える事なく、

 

「さあ、どうでしょう♪ 私、貴女が何を言っているのか、さっぱり分かりませーん♪」

 

 と呟くと、煙のように消え去ってしまった。

 静寂が木の神殿最深部を包み込む。

 俺はゆっくり息を吐き出すと、樹木から目を逸らしつつ、隣にいるルナに疑問の言葉を投げかけた。

 

「ルナ。お前、何かに気づいたんだろう? 説明を求める。『この世界』を生み出すために人々を木に変えたってのはどういう意……」

 

「ユウさん。それについては情報が確定次第、お伝えします。今はあの樹木──ロックゴレムの中にいた男の調査をさせてください」

 

 そう言って、ルナは俺の言葉を遮ると、樹木──元茶髪の男性の下に向かって走り寄る。

 あまり勘が鋭くない俺は、走っていく彼女の後ろ姿を見る事しか出来なかった。

 

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