リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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四十六話

 

◆2025年8月1日

 

「ねぇねぇ、ユウさん。魔王城に行く時に使ったアレ、使わないんですか?

 

「アレって、すり抜けバグの事か?」

 

「イッツ、イグザクトリー。あのすり抜けバグを使えば、今から行く予定の……何でしたっけ? 水の地下水殿でしたっけ? そこにパパッと行けるのでは?」

 

「あのバグ技は使わない事にした。これ以上、俺ばっか楽しんだら、本格的に恨み買いそうだからな」

 

「恨み? 誰からですか?」

 

「他のゲーマー達からだよ。ほら、あの管理者、言ってたじゃん? 魔王や四天王は再生リスポーンされないって。そんな一度切りしか闘えない四天王を俺ばっか倒したら、他のゲーマー達から恨みを本格的に買っちまう」

 

「なるほど。他のプレイヤーに配慮した結果、バグ技を自主規制したって感じですか」

 

「そういう事。あと、あの時は勢いでやってしまったけど、あのバグ技、成功率6割程度な上、致命的な欠陥抱えていてな」

 

「致命的な欠陥とは?」

 

「あのバグ技、失敗してしまうと、謎空間に囚われちゃうんだよ。ゲームリセットするまで身動きできない闇の中に囚われちゃうから、この状況下だと、地獄を見る事になる」

 

 

 世界が文字通り『凍てつく』。

 俺も敵も、そして、背後にいる魔女ルナと魔女エリザも指一本動かせなくなる。

 世界そのものが凍結(フリーズ)してしまう。

 

(やっぱ、思った通りだ)

 

 敵──緑の着物を羽織った長髪女を眺めながら、俺は確信を得る。

 自分の予想が当たっている事実に。

 

「な、な、何が起き……っ!?」

 

 凍結(フリーズ)が解除される。

 指一本動かせなかった身体が動かせるようになる。

 それと同時に、敵の口から困惑が飛び出る。

 それを目にしながら、俺は告げる。

 

「バグに耐え切れず、処理落ちしてしまったんだよ」

 

「しょ、処理落ち……?」

 

「バグ技を使う事は否定しない」

 

 持っている木の棒の先端を敵の方に向けながら、俺は嘲笑を浮かべる。

 

「だが、バグ技のデメリットを軽視し過ぎたな。──その木の棒の攻撃力をカンストするバグ技、ゲームシステムに多大な負荷がかかるんだよ」

 

「へ? は?」

 

「そんなゲームシステムに多大な負荷がかかるものを増殖してしまったんだ。ゲームシステムが凍結(フリーズ)してもおかしくない」

 

 フリーズ。

 ゲーム機本体やゲームソフトが、何らかの原因で応答・反応しなくなる状態の事を指す。

 

「俺はバグ技を使えなかったんじゃない。使わなかったんだ。この状況でバグ技を使うのはリスクが高過ぎるからな。そう思っていたから、木の棒を持っていたにも関わらず、俺はバグ技を使用しなかったんだよ」

 

「………は?」

 

 脳内ステータス画面から木の棒をもう一本取り出しながら、俺は淡々と自らの手の内を晒す。

 自らの手の内を晒す事で、『敢えて』バグ技を使用しなかった事を強調する。

 

「その木の棒の攻撃力をカンストする裏技な、大規模な処理落ちが起きた場合、バグ技を使ったプレイヤーの衝突判定が、正常に働かなくなるんだよ」

 

「しょ、衝突判定……? お、お前、さ、さっきから何を言って、」

 

 敵の顔が困惑に染まる。

 ちょうどその時だった。

 敵の両足が地面に吸い込まれ始めたのは。

 

「衝突判定が正常に働かなくなった場合、ゲーム世界でモノにぶつかったりできなくなるし、地面の上に立つ事さえできなくなる。ゲームリセットするまでの間、謎空間……バグマップに囚われるという現象に陥ってしまう」

 

「な、なんで、ワタシの身体が……!? あぁ……! 身体が地面に吸い込まれる……!」

 

 敵の身体が徐々に地面に吸い込まれる。

 地面の上に立てなくなった敵の姿を眺めながら、地面の中に吸い込まれる敵の姿を見下ろしながら、淡々と俺は言葉を述べ続ける。

 

「『この世界』にリセットはない。つまり、今からお前は『この世界』が終わるまで、謎空間(バグマップ)に囚われ続けるという訳だ」

 

「た、助け、……助けて……!」

 

「もう遅い」

 

 俺がそう言った途端、敵の頭が地面に呑まれる。

 敵の口から下が地面に埋まってしまう。

 敵の口から下が謎空間(バグマップ)に囚われてしまう。

 

「……っ!!」

 

 そして、とうとう敵の身体全てが地面に吸い込まれ、敵の姿は影も形も無くなってしまった。

 

「………」

 

 大袈裟に溜息を吐き出しながら、俺は右手で後頭部を掻く。

 正直、つまらなかった。

 ヒュードラ戦も、ロックゴレム戦も、そして、今回のバトルも。

 楽しめたのは、管理者の介入がなかった魔王戦だけ。

 それ以外のバトルは全然楽しめなかった。

 そんな事を思いながら、俺は溜息を吐き出──そうとしたその時だ。

 

「──っ!?」

 

 ガクンと地面が横に揺れる。

 同時に、大きな横揺れの地震が俺達を襲った。

 

(何が起きて……!?)

 

 地面──風の塔最上階──にヒビが入る。

 否、『この世界』そのものにヒビが入る。

 何が起きた。

 それを考えるよりも先に、俺はルナ達の下に向かおうとする。

 同時に、風の塔が木っ端微塵に砕け散った。

 

「なっ……!?」

 

 足場を失った俺の身体が落下し始める。

 地面目掛けて落下し始める。

 

「ユウさんっ……!」

 

 宙に投げ出された俺の身体。

 そんな俺を助けようと、箒に跨ったルナが俺の下目掛けて飛翔し始める。

 箒に跨った彼女の身体が近づく。

 手を伸ばす。

 差し伸べられた彼女の手を掴む。

 途端、世界が光に包まれた。

 

「なっ……!?」

 

 何が起きたのか。

 それを理解するよりも早く、俺の視界は真っ白に染まり──

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