リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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五十三話

─────『誰も踏み込めぬ理想郷(5)』─────

 

◆side:瑠璃川桜子 2025年 6月上旬

 

 くるみの家の前に辿り着く。

 私は頬を伝う汗を拭う事なく、息を荒上げたまま、玄関のチャイムを押す。

 すると、家の中から『ごーん』と言う音が聞こえてきた。

 肩で息をしながら、私は待つ。

 くるみが家の中から出てくる瞬間を待ち続ける。

 けれど、いくら待っても、くるみが出てくる事はなく。

 私は延々とくるみの家の前で立ち尽くし続けた。

 

 

 魔女ルナと恋人同士になった翌日。

 そして、管理者を名乗る女と相対した翌日。

 俺──神永悠改めプレイヤーネーム『ユウ』は九州地方で一番栄えている街──『新神』にある絵心公園と呼ばれる場所に訪れていた。

 

「待っていましたよ」

 

 新神駅前にあるそこそこ広い公園。

 その園内の中心にいたのは、管理者を名乗る女性と。

 

「………」

 

 最後の四天王──炎帝イフリトだった。

 

「アナタ達の最後の相手は、『私達』です」

 

 管理者を名乗る女性の隣にいるエネミー。

 それはゲームの中で見たイフリトと同じ姿をしていた。

 天に頭が届きそうなくらい巨大な躰。

 焔のように輝く瞳。

 火炎を吐き出す巨大な口。

 万物を噛み砕く荘厳な牙。

 火炎を纏った太い翼。

 鋭利な爪を保持している太い両腕。

 炎に覆い尽くされた爬虫類のような体躯。

 大樹を連想させる程の尾。

 全身凶器と言っても過言じゃない、全長20メートル程の赤いドラゴンが荘厳な雰囲気を醸し出しつつ、俺とルナを見下ろしていた。

 

「よくも魔王だけでなく、四天王達も倒してくれましたね。もう許しません。此処でアナタ達を排除します」

 

「………」

 

 息を短く吐き出した後、脳内ステータス画面から武器を取り出す。

 取り出したのは、先日エリザさん含む魔女達が掻き集めてくれた武器。

 兵士の剣(つるぎ)。

 攻撃力は低いが、耐久力はそこそこ。

 天空の剣(キャリーバーン)には遠く及ばないが、武器自体にクセはなく、使い勝手はそこそこいい良武器だ。

 

「ルナ、下がってろ」

 

 すぐさまイフリトと闘い始めようとする。

 ルナはコクリと頷くと、俺と管理者を名乗る女性から距離を取り始めた。

 

「さあ、始めようか」

 

 片手剣を構える。

 肺の中に新鮮な空気を詰め込んだ後、眉間に皺を寄せる。

 いつでも戦えるように身構える。

 闘いの準備を終えた途端、管理者を名乗る女性──敵が唐突に指を『パチン』と鳴らす。

 その瞬間、管理者の姿が消える。

 同時にイフリトの身体から猛々しい炎が噴き出た。

 

「……っ!?」

 

 イフリトの身体から噴き出た炎が、天を焼かんばかりに猛々しさを増す。

 物凄い火力だ。

 イフリトの身体から放たれる熱風が俺の肌を炙る。

 体温が上昇し、額から汗が滲み出る。

 それを眺めていると、炎の中にいるイフリト──ドラゴンの姿をしている──が、ゆっくり変貌し始めた。

 イフリトの巨体が徐々に赤い炎へと変わり始める。

 イフリトの鋭利な爪も、丸太のように太い腕も、大樹の幹の如く立派な胴体も、脚も、牙も、口も、頭も、赤い炎へと変わっていく。

 やがてイフリトの身体が完全に赤い炎へと変わると、赤い炎は人型へと変容し始めた。

 ゆっくり着実にイフリトだった赤い炎が、人の形を獲得し始める。

 丸みを帯び始める。

 乳房ができ、お尻が大きくなり、腰の辺りにくびれができる。

 人の形を獲得した赤い炎の体つきが、女性らしくなる。

 やがてイフリトだった赤い炎は、長髪の女性を模したシルエットに変貌してしまうと、俺達を見下ろし始めた。

 

『プレイヤーネーム『ユウ』、闘う前に一つ問いかけます」

 

 巨大な雌型の炎の塊──イフリトの成れの果ての中から敵の声が聞こえてくる。

 恐らくイフリトと同化したのだろう。

 全長40メートル級の雌型の炎の塊が、長髪の女性を象った炎の塊が、敵──管理者を名乗る女性が、俺に敵意を向け始める。

 それを感じ取った俺は、息を短く吐き出すと、片手剣──兵士の剣を構え直した。

 

『なぜアナタは私に刃向かうのです。此処は、『この世界』は、リバクエを模した『この世界』は、アナタにとって理想郷ではないのですか」

 

「……」

 

『アナタはリバクエを心から愛しているのですよね。ならば、「この世界」はアナタにとって理想郷とも言える場所なんですよね? ならば、なぜ破壊するような真似をしているのですか』

 

「本当にそうか」

 

 片手剣を構えながら、俺はゆっくり口を動かす。 

 いつでも戦えるように身構えながら、俺は敵に疑問をぶつける。

 

「本当に此処は理想郷なのか」

 

『……』

 

「大半の人間を木の中に閉じ込めて、不自由を強いている『この世界』が、本当に理想郷なのか?」

 

 何か思う所があるのだろう。

 管理者を名乗る女性は俺の疑問に即答しなかった。

 

「まあ、別にいいよ。此処が理想郷でも、理想郷じゃなくても」

 

 そう言って、俺は身体の重心を少し落とす。

 

「俺はお前を倒す。お前を倒して、木の中に閉じ込められた家族を取り戻す。世界を元に戻す。──ティンティンを取り戻す。それが俺の結論(こたえ)だ」

 

『……そうですか。ならば、私はアナタを排除する』

 

 雌型の炎の塊──管理者を名乗る女性は右手を動かす。

 ビルと同じくらいに太くて巨大な彼女の右腕は、ただ横凪に振るっただけで突風と熱波を生み出した。

 

「……っ!?」

 

 熱波が口の中に入る。

 瞬間、口の中の水分が失われた。

 熱波に焼かれた喉が脳に痛覚を訴える。

 

『覚悟しなさい。プレイヤーネーム『ユウ』。どんな手段を使っても、私はアナタという脅威を駆逐する』

 

「そうこなくちゃ」

 

 強い相手(エネミー)と闘えるかもしれない。

 そう思った瞬間、不安よりもワクワクが俺の胸に押し寄せる。

 未知の敵と闘えるという高揚感が俺の背を強く押し出す。

 

「じゃあ、思う存分、遊び尽くそうぜ管理者。──最後の1秒まで気抜くんじゃねぇぞ」

 

 宣戦布告を叩きつける。

 その瞬間、俺と管理者の死闘(バトル)が始まってしまった。

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