リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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五十六話

 敵──管理者を名乗る女性との闘いが始まって、1日半が経過した。

 俺──神永悠は未だに敵と闘い続けている。

 

『この、当たれっ!』

 

 敵の身体から炎の塊が射出される。

 その数、ざっと十数発程度。

 俺はそれを避ける、躱す、片手剣で受け流す。

 投げやりになっているのだろう。

 敵の攻撃は単調だった。

 そのお陰で、攻撃が至極読み易い代物に成り果てていた。

 

『何で私の攻撃が当たらないんですかぁ!?』

 

 悔しそうに地団駄を踏みながら、敵──全長40メートル級の炎の巨人は怒声を発する。

 敵が地団駄を踏む度、地面は大きく揺さぶられた。

 

『ああ、もう! さっさと倒されてください!』

 

 そう言って、管理者を名乗る女性は両腕を俺の方に伸ばす。

 俺の身体を掴もうとする。

 俺は『ジャスト回避』で敵の大きな掌を避けると、敵から少しだけ距離を取った。

 

『くそ……! ちょこまかと……!』

 苛立ちを露わにしながら、敵は再び俺に向けて手を伸ばす。

 俺は後方に跳びながら、迫り来る敵の手を避ける、躱す、退ける。

 1日半も闘い続けた影響なのだろう。

 俺の脳は熱が出ているんじゃないかと思うくらい、高い熱を帯びていた。

 ちょっと気を抜いたら、すぐに寝落ちしてしまいそうだ。

 そんな状態にも関わらず、俺は前頭葉をフルに動かしつつ、敵の攻撃を躱し続ける。

 

『ああ、……! もうっ!』

 

 敵も俺と同じ状態なのだろう。

 荒い攻撃を繰り出し続ける敵の姿から余裕という文字は一切見当たらなかった。

 

『いい加減、倒れてくださいっ!』

 

 叫び声を上げた後、敵は攻撃を繰り出──さない。

 一瞬、意識が飛んだのだろうか。

 敵の身体から力が抜けたかと思いきや、敵は地面に両膝を着いてしまった。

 

『あぅ……! ふぅ……!』

 

 眠気を追い払いながら、敵は再び立ち上がろうとする。

 だが、押し寄せる眠気に勝てないのか、敵の動きは先程と比べて、非常に緩慢になっていた。

 

「どうした? もうお終いなのか?」

 

 欠伸を噛み殺しながら、俺は敵に疑問の言葉を投げかける。

 俺の質問に答える余力さえないのだろう。

 敵は荒い呼吸を繰り返すだけで、俺の疑問に答えてくれなかった。

 

(あと、もうちょいだな)

 

 あとちょっとで敵が寝落ちする。

 そう確信した俺は、押し寄せる眠気を押し退けつつ、片手剣を構え直す。

 すると、敵は両腕を上げると、両腕から無数の炎の塊を射出し始めた。

 身構える。

 だが、照準を俺に向ける余力さえなかったのだろう。

 敵の攻撃は上の方に向かって飛翔すると、俺に当たる事なく、空の彼方に消えてしまった。

 

『はぁ……、はぁ……、はぁ……』

 

 地面に両膝を着けたまま、敵は息を荒上げる。

 そして、身体から力を抜くと、俯せの体勢で倒れ伏してしまった。 

 

『あ……』

 

 ズドンという大きな音が絵心公園内を揺さぶる。

 敵──全長40メートル級の炎の巨人は地面に頬を擦り付けると、安らかな寝息を立て始めてしまった。

 敵が寝落ちした事を確信する。

 それを確信した途端、疲れがドッと押し寄せた。

 

「く、……そ」

 

 今の今まで無茶していた反動が押し寄せる。

 俺は片手剣の鋒を地面に突き刺すと、そのまま右膝を地面に着けてしまった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 遠くから魔女であり俺の恋人でもあるルナの声が聞こえてくる。

 そちらの方に視線を向けると、俺の方に駆け寄って来る彼女の姿を視認した。

 

「大丈夫だ、……ちょっと疲れただけ」

 

 そう言いながら、駆け寄って来るルナの顔を見る。

 俺達と同じようにずっと起きていたのだろう。

 彼女の目の下には薄っすらクマができていた。

 

「……やったのですか」

 

「いや」

 

 俺の下に辿り着いたルナの顔を一瞥しながら、俺は視線を敵──管理者を名乗る女性の方に視線を向ける。

 深い眠りについたんだろう。

 敵は安らかな寝息を立てながら、地面に顔を埋めていた。

 

「敵を行動不能状態に追いやっただけだ。別に倒した訳じゃない」

 

 ああ、そうだ。

 敵を動けない状態に追いやっただけで、まだ敵のHPバーは1ミリ足りとも変動していない。

 敵のHPバーを削り切らなければ、世界は『この世界』──リバクエ風のまま。

 人々はずっと木の中に閉じ込められたままだし、俺も男に戻る事ができない。

 

「じゃあ、敵の無敵状態を解除しない限り、……」

 

「ああ。ずっと現状のままだ」

 

 さて、どうしたものやら。

 そんな事を思いながら、俺は『ふぅ』と溜息を吐き出した。

 

 

◆side:瑠璃川桜子 2025年 6月上旬

 

 病院に辿り着く。

 手術待合室にいたのは、くるみ──ではなく、彼女のお母さんだった。

 

「あの、おばさん……! くるみは……!?」

 

 息を切らしながら、私はくるみのお母さんに疑問の言葉を投げかける。

 くるみのお母さんは言った。

 『今、くるみは手術を行っている』、と。

 

「何でくるみが手術を……!? くるみは病気を患っているのですか……!?」

 

 私はくるみのお母さんに尋ねる。

 すると、彼女は言った。

 『くるみは病気にかかっていない』、と。

 

「なら、何でくるみは手術を……!?」

 

 くるみのお母さんは僅かに表情を歪める。

 そして、口元を強く引き締めると、私に教えた。

 

 

 

 ──くるみが、ビルの五階から飛び降りた事実を。

 

 

─────『誰も踏み込めぬ理想郷(6)』─────

 

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