リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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六十一話

◇管理者(=瑠璃川桜子)視点

 

『あ……』

 

 自分のHPゲージが底をつく。

 ゼロになってしまう。

 それと同時に、私を包んでいた大きな炎は跡形もなく消え去ってしまった。

 

「う、そ……」

 

 炎の四天王イフリトの力が霧散してしまう。

 イフリトの力が私の身体から抜け落ちてしまう。

 私の身体に纏わりついていた全長40メートル程の炎塊は跡形もなく消える。

 

「ああ……!」

 

 地面に膝を着く。

 残ったものは赤い布を被った私の身体だけ。

 あのドブ色の球体から貰った力は、プレイヤーネーム『ユウ』に負けると同時に……いや、四天王が全て息絶えると同時に喪失してしまった。

 

「……っ!」

 

 恐れていた事──魔王と四天王全滅──が起きてしまう。

 それが起きた途端、『この世界』──リバクエの世界を再現したもの──の終末(おわり)が確定してしまった。

 

「ああ、……! やだ……!」

 

 地面から『ゴゴゴ』という音が聞こえてくる。

 『この世界』の終わりを告げる音が聞こえてくる。

 ダメだ。

 まだくるみは目覚めていない。

 まだくるみに『この世界』を見せていない。

 まだ私は何も成し遂げていな──

 

「……っ」

 

 ──とっくの昔に限界を迎えていた頭が睡魔に押し負ける。

 意識を失っている場合じゃない。

 にも関わらず、私は意識を手放してしまい──

 

『大丈夫だ、瑠璃川桜子』

 

 私の中にいる『アレ』──ドブ色の球体が声を上げる。

 

『君の願いは必ず私が叶えてみせる』

 

 その声(おと)を聴きながら、私は意識を完全に手放してしまった。

 

 

 敵──管理者を名乗る女性のHPバーが全損する。

 敵のHPが尽きた途端、全長40メートル級の炎の巨人は跡形もなく消え去ってしまった。

 

「……終わったか」

 

 上に向けていた視線を下げる。

 

 視線を下げた途端、地面に両膝をつく赤い布を被った女性──管理者を名乗る女性の姿が目に入った。

 

「……っ」

 

 管理者を名乗る女性の身体が地面に倒れ込む。

 彼女は地面に頬を擦り付けると、そのまま眠ってしまった。

 地面から地鳴りのような音が聞こえてくる。

 いつの間にか、藍色に染まっていた空に亀裂が走る。

 それらを聞きながら、それらを見ながら、俺は悟った。

 『この世界』──リバクエ風の世界が終わりを迎えている事実を。

 

「お疲れ様です、ユウさん!」

 

 駆け寄ってきた魔女ルナが、頭に生えた狐耳を忙しく動かしながら、俺の身体に抱きつく。

 俺は『ああ』と告げると、欠伸を浮かべた。

 

「魔王と四天王を全て倒した。これで全てが元に戻る筈」

 

「あの陰キャ女……いえ、管理者を名乗る彼女の話が本当でしたら」

 

 そう言いつつ、俺達は敵──管理者を名乗る女性を一瞥する。

 遠く離れた所にいる彼女は俯せの体勢で眠っていた。

 

「となると、この身体も残りちょっとでおさらばって訳か」

 

 終わりを確信しながら、俺は自らの身体──女体化した我が身を一瞥する。

 『このデッカイおっぱいも、これで見納めかー』みたいな事を思っていると、背後から人の気配を感じ取った。

 

「おいっ! ルナールっ!」

 

 振り返る。

 そこにいたのは、ルナの同僚である魔女エリザさんと、ルナの上司である大魔女ウルさんだった。

 

「あ、大魔女様。ちょうど良かったです。今、炎の四天王を倒し終え──」

 

「原因を解明したっ! この状況は彼女が引き起こしたものじゃないっ!」

 

 彼女──管理者を名乗る女性を指差しながら、ウルさんは声を荒上げる。

 

「この状況はヤツによって引き起こされたものだ! ヤツを倒さない限り、この状況は終わらないっ!」

 

「ちょ、ちょっと、落ち着いてください大魔女様。ヤツって誰ですか。というか、この状況を引き起こした原因って、……」

 

 ルナが疑問の言葉を口遊んだその時だった。

 気味の悪い風が俺とルナの間を吹き抜けたのは。

 

「……っ!」

 

 反射的に俺とルナは敵──管理者を名乗る女性の方に視線を向ける。

 すると、起き上がろうとする敵の姿を目視した。

 『まだやるつもりなのか』と思いながら、俺は片手剣を構え──た瞬間、敵の身体を覆っていた赤い布が煙のように消え失せた。

 赤い布を被っていた敵の身体が露わになる。

 敵は何処にでもいる女の子だった。

 肩まで伸びた長い黒髪。

 そこそこ整っている顔。

 大柄でも小柄でもない身体。

 年齢は俺と同じくらいだろうか。

 管理者を名乗る女性は、俺が想像していたよりも幼い女の子だった。

 

「やはり、ヤツは彼女の中にいるようだな……!」

 

 そう言って、ウルさんは何処からともなく杖を取り出す。

 そして、杖の先端を敵──管理者を名乗る女性の方に向けると、攻撃を開始した。

 

「──flame・lance──!」

 

 ウルさんの杖の先端から槍を模った炎の塊が射出される。

 射出された炎の槍は真っ直ぐ飛翔すると、敵の顔面に直撃──しなかった。

 

『………』

 

 敵は腕を乱雑に動かす。

 たったそれだけの動作で炎の槍は跡形もなく消え去ってしまった。

 

「なぁ!? ただの腕力で魔法を掻き消したぁ!?」

 

 エリザさんの口から驚きの声を発せられる。

 それと同時に、敵の真っ黒だった髪が真っ白に染まり始めた。

 

「……なっ!? 魔力が膨れ上がって……!?」

 

 ルナの口から驚きの声が漏れ出る。

 魔力とやらが放出しているんだろう。

 敵の身体から熱波が漂ってくる。

 敵の身体から放たれる熱波を浴びた途端、俺の背筋に冷たいものが流れ落ちた。

 

『……』

 

 敵の瞳の色が黒から金色に変わる。

 敵が着ている衣服が白を基調にした着物のようなものに変わる。

 小麦色だった肌も真っ白に染まり、敵の姿が少しずつ変わり果てる。

 それを見ながら、俺は身構える。

 背筋に冷や汗を伝わせながら、状況が悪化した事を感覚的に把握する。

 

「……油断するなよ、ルナール。そして、プレイヤーネーム『ユウ』」

 

 ウルさんの声が静寂に包まれた絵心公園(げんざいち)を刺激する。

 

「まだ何も終わっていない。むしろ此処からが本番だ」

 

 そう言った途端、敵──管理者を名乗る女性の頭上に現れる。

 濁った色をした球状の何かが。

 球状の何かは鈍い光を放つと、管理者を名乗る女性の頭上だけでなく、俺達の足下も照らし始めた。

 

 

  

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