リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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六十三話

 管理者を名乗る女性の身体を乗っ取った何か──通称『絶対悪』と闘い始めて、5分以上の時間が経過した。

 今現在、俺達は劣勢を強いられている。

 

「うおっ……!」

 

 絶対悪──敵が繰り出した光弾が俺達の方に迫り寄る。

 それを防げない事を──防いでも意味がない事を知っている俺達は、全力で避ける。

 防ぐ事を諦め、全力で避ける、避ける、避け続ける。

 この女体(からだ)にはスタミナという概念がない。

 だから、全力で避け続ける事は全然苦じゃなかった。

 しかし、

 

「はぁ、……はぁ、……!」

 

 俺の恋人でもあり魔女でもある狐耳の少女──ルナが息を荒上げる。

 俺とは違い、魔女(かのじょ)達にはスタミナという概念があるのだろう。

 ルナも、ルナの同僚であるエリザさんも、そして、ルナの上司である大魔女ウルさんも、苦しそうに息を切らしながら、敵の攻撃を躱し続けていた。

 

(このままじゃ、ルナ達の体力が尽きてしまう……!)

 

 何とかしようとする。

 だが、敵はゲームに出てくるエネミーじゃない。

 俺にとって未知の相手だ。

 故に、どうすれば良いのか分からない。

 こちらの攻撃が一切通用しない相手に、どう闘ったらいいのか分からない。

 どうやったら、相手の無敵状態を崩せるのか皆目検討つかない。

 

(もしかしたら、さっきの管理者みたいに寝ている時だけ攻撃が通用する相手かもしれない。なら、……!)

 

 ダメ元精神でさっきと同じ作戦で闘おうとする。

 相手の意識が保てなくなるまで闘い続けよう作戦を実行しようとする。

 いや、あの作戦、徹夜前提だから非常にキツいんだけど。

 というか、今の時点で約2日程度徹夜しているから、身体も頭も限界なんだけど。

 それでもやるしか方法がない。

 勝ちを手繰り寄せるには、それくらいしかやる事がな──

 

『これで分かっただろ』

 

 ──いと思った直後だった。

 今まで口を閉じていた敵が喋り始めたのは。

 

『これ以上の抵抗は無意味だと分かった筈だ。大人しく降伏しろ。瑠璃川桜子──この身体の持ち主の邪魔をするな』

 

 敵の口から出てきたのは、男の人の声だった。

 白髪の少女の口から出た声とは思えぬ程、渋い声だった。

 その声(おと)を聞いて、俺もルナもエリザさんもウルさんも言葉を失ってしまう。

 多分、みんな俺と同じ事を思っているのだろう。

 『お前、喋れたのか……!』、と。

 

「……瑠璃川桜子、だっけ。なぜお前はその子に協力している」

 

 片手剣を構え直しながら、俺は敵に疑問の言葉を投げかける。

 敵は表情一つ変える事なく、俺の疑問に答えた。

 

『私は願望成就機だ。瑠璃川桜子の願いを叶えるため、私は彼女に力を貸している』

 

「願望成就機……?」

 

『アラジンに出てくる魔法のランプがあるだろ? アレと同じようなものだ』

 

 俺の疑問に淡々と答えながら、敵は邪悪な笑みを浮かべる。

 その笑みは正直に言って、見ていて気持ちのいいものじゃなかった。

 『ふぅ』と胸の中に溜まった空気を吐き出しながら、俺は疑問の言葉を口にする。

 息を切らしたルナ達が少しでも休憩できるよう、質問を繰り出す事で時間を稼ぐ。

 

「なぜお前はその子の願いを叶えようとしている」

 

『瑠璃川桜子なら、私を使ってくれると思ったからだ』

 

「なぜ使われる事を望む」

 

『理想郷を創るためだ』

 

 ニヤッと微笑いながら、白髪の少女──管理者の身体を乗っ取った絶対悪は目的を告げる。

 

『個人の願いの果てに理想郷がある。その結論に至ったから、私は瑠璃川桜子の願いを叶えようとしている』

 

「なぜ理想郷を生み出そうとしている」

 

『この世から争いを無くすためだ』

 

 そう言って、敵は俺の目をじっと見つめる。

 嘘を言っている訳じゃないんだろう。

 敵の金色の目は澄んでおり、嘘偽りを述べているようには見えなかった。

 

『争いのない世界を生み出す。そのために、醜く愚かな人間──理想郷に相応しくない人間を私は排除する。相応しくない人間は理想郷の糧になって貰う。それが私個人の目的であり、私が背負う役割(カルマ)だ』

 

「もう一つ質問だ。理想郷に相応しくない人間とは? それはどういう人間が含まれるんだ?」

 

『──弱者だ』

 

 悪怯れる様子も冗談を言っている様子でもなかった。

 敵は赤裸々に自分の思いの丈を馬鹿正直に話す。

 そのお陰で、敵の内面は赤裸々になっていた。

 その所為で、敵の内面が赤裸々になっていた。

 

「……なら、その理想郷にあるのは破滅だけだ」

 

 ルナ達の姿を一瞥する。

 この短時間で息を整えたんだろう。

 魔女(かのじょ)達は肩で息をしていなかった。

 それを見て、魔女(かのじょ)達が再び動けるようになった事を確信する。

 確信しながら、俺は思った事を赤裸々に語る。

 

「弱者を許容できない場所に未来はない。共同体(コミュニティ)は弱者がいなければ、成立しないものだ。弱者を許容しなければ、その共同体はすぐさま蠱毒と化す。弱者を排除し続けた所で、その共同体に残るのは、たった1人の強者だけだ」

 

『だから、どうした』

 

 俺の言葉を理解できないのか、それとも理解するつもりがないのか、敵──絶対悪は『だから、どうした』の一言で切り捨てた。

 その反応で俺は心身で理解する。

 目の前の敵が人類にとって絶対的な悪である事を。

 目の前の敵を倒さなければ、人類に未来(さき)がない事を。

 目の前の敵が創りたいのは理想郷ではなく、蠱毒である事を。

 

(……本気でコイツをどうにかしないと、ガチで滅びるぞこの世界)

 

 世界の命運が自分達の背にかかっている。

 そう思った途端、俺の身体が緊張の所為で少しばかり重くなってしまった。

 

 

 ───『誰も踏み込めぬ理想郷(リバース・ウートピア)』────

 

 

 ────絶対悪『成就』再誕──

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