リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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七十話

 気がつくと、俺は庭園(ガーデン)椅子(チェア)の上に座っていた。

 周囲を見渡す。

 天と地の境目が分からない程に真っ白な空間。

 そんな殺風景な空間に存在しているのは、鉄製の庭園(ガーデン)卓(テーブル)と庭園((ガーデン)椅子(チェア)。

 そして、俺と見知らぬ老人だった。

 

「プレイヤーネーム『ユウ』。私と手を組まないか?」

 

「誰だ、お前」

 

「私か? 私は願望成就機だ」

 

「俺が知っている願望なんとかってヤツは、濁った球体みたいな姿をしていた」

 

「この姿は、私が願望成就機に至る前の姿だ」

 

 そして、老人は語った。

 自分が元々人間だった事を。

 

「なんで人間を辞めたんだ」

 

 庭園(ガーデン)椅子(チェア)の背もたれに寄りかかりながら、俺は疑問の言葉を老人にぶつける。

 

「理想郷を創るためだ。そのために、私は人間である事を捨て、道具(もの)になる事を選んだ」

 

「なんで道具になる事を選んだんだ。なんで人間のまま、理想郷を創る事を諦めたんだ」

 

「純粋な願いの果てに理想郷があると思ったからだ。だが、人間の時の私は欲の塊でな。純粋な願いを持つ事ができなかった」

 

「だから、道具(もの)になったのか」

 

「ああ。道具(もの)になり、人間性(にくたい)を捨て去る事で私は幾多の欲を捨て去った。そうする事で、純粋な願いを獲得した。理想郷を創り出すために、私は自らの力と目的以外を捨て去った」

 

 老人の言葉を聞く。

 何故か知らないけれど、彼の言葉を聞いて俺は思った。

 『彼の言葉は薄っぺらい』、と。

 

「……理想郷を創り出す。本当にそれがお前の願いなのか」

 

「ああ、そうだ」

 

「それにしては言葉に重みというものがない。どうして理想郷を創り出そうって思ったんだ?」

 

「……」

 

「……欲や人間性(からだ)だけじゃなく、記憶(おもいで)も捨て去ったのか?」

 

 理想郷を創り出す。

 それを実現するための力、それと実現するための意思。

 それ以外のものを全て捨て去った彼の姿は、空虚そのものだった。

 

「「………」」

 沈黙が俺と老人の間に流れ込む。

 聞き心地の悪い沈黙だった。

 その沈黙に耐え切れなかったのだろう。

 唐突に何の前触れもなく、老人が口を開く。

 

「……私と共に理想郷を創らないか」

 

「……」

 

「タダとは言わない。君の願いを何でも叶えてやろう」

 

「……」

 

「この世界の人間は私が木の中に閉じ込めた。彼等の命を使えば、君の願いは際限なく叶えられるだろう」

 

「………」

 

「木の中にいる人々を使う事を認めろ。そうすれば、私の力で君の願いを叶えてやる。どうだ、悪い提案じゃないだろ」

 

「……なんで木の中にいる人達を、お前はエネルギーとして使わなかったんだ?」

 

「アレは報酬だった。瑠璃川桜子の願いを叶えたら、貰える筈の報酬だった」

 

「……そうか」

 

 そう言って、俺は席から立つ。

 老人に背を向け、ルナ達の下に戻ろうとする。

 

「何処に行くつもりだ」

 

「もう十分遊んだ。それを踏ませた上で言わせて貰う。お前とは2度と遊びたくない」

 

「どうして」

 

「お前と遊んでも、つまらないからだ」

 

 そう言って、俺は拒絶する。

 

「お前の力はチート染みている。そんな力を使っても、可食(あそべる)箇所を減らすだけだ。何も面白くない」

 

 老人に背を向け、俺は歩き始める。

 そんな俺を見て、老人は『待て』と告げた。

 けど、俺は止まらない。

 足を止める事なく、この場から離れようとする。

 

「今なら何でも願いが叶うんだぞ……! その権利を君は手放すつもりなのか……!?」

 

「……」

 

 溜息を吐き出した後、俺は歩くペースを早める。

 それが気に障ったのだろう。

 老人は声を張り上げると、『待て』と叫んだ。

 

「待てっ! 君の願いは何でも叶えてやる……! 際限なく叶えてやる……! だから、」

 

「──1人で酔ってい(オナニーして)ろ、チート野郎」

 

 足を止め、振り返る。

 席から立ち上がりながら、俺の方を見る老人に俺は拒絶の意を叩きつける。

 

「幾ら願おうが、お前とは2度と遊ばない」

 

 絶縁状を叩きつける。

 俺の声を聞いた途端、老人は金切り声を上げた。

 老人の口から聞こえてくる音を聞き流しながら、俺は再び歩き始める。

 その瞬間、俺の意識は薄れて──

 

 残った力を全て振り絞り、突きを繰り出す。

 敵──絶対悪の頭上で煌めく濁った球体に騎士の剣を突き刺す。

 球体に剣の鋒が突き刺さった瞬間、球体は『パキン』と音を立て──

 

『あ、ああああああ!!』

 

 白髪の少女──絶対悪の口から断末魔が零れ落ちる。

 絶対悪の頭上で煌めいていた濁った球体は『パキン』と音を立てると、真っ二つに割れてしまった。

 

「………」

 

 真っ二つに割れた濁った球体が粉々に砕け散る。

 その瞬間、敵の瞳の色が金色じゃなくなる。

 髪の毛が真っ黒に染まり、身体から放たれていた神々しさが跡形もなく消し去ってしまう。

 

『あ、………ああ』

 

 振り絞るかのように声を上げると、絶対悪──管理者とやらの身体を乗っ取った『何か』は俺に向かって右手を伸ばす。

 俺はそれを眺めながら、敵に背を向けた。

 

『あ……まだ、わたしは、死なな……』

 

 最期の言葉を告げた後、敵の身体は地面に倒れ込む。

 その瞬間、管理者の身体を支配していた敵──絶対悪は跡形もなく消え去ってしまった。

 

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