リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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七十一話

「………」

 

 9月1日。

 世間では防災の日とか民放ラジオ放送開始記念日とかで賑わっているある日の平日。

 誰かにとっては特別1日であるが、俺──神永悠にとってはただの平日でしかないある日の朝。

 身支度を終えた俺は、自室の隅に置いてある姿見の方に向かう。

 そして、姿見に映っている自分の姿を確認した。

 

「……はぁ」

 

 そこに映っていたのは、俺だった。

 腰まで伸びた、艶のある美しい絹のような長い金髪。

 幼さを仄かに残しながらも、凛とした印象を与える美しい顔。

 高くて形が整った鼻。

 ビックなハンバーガーなんて食べられないんじゃないかと思うくらい小さな口。

 宝石のように煌めく金の瞳。

 二重瞼で少しツリ気味の大きな目。

 そして、モデルのように小さい顔を支えるスラッとした首。

 白くて細い腕。

 女子用の制服に身を包んだ身体は、色白で透明感溢れる素肌の一部を晒しつつ、たわわに実った乳房を厭らしく揺らしている。

 華奢な体軀の金髪金眼の美女が姿見に映し出されていた。

 

 ──この1ヶ月間で、すっかり見慣れてしまった俺が、そこに映っていた。

 

「なぁ、父ちゃん」

 

 朝飯を食べながら、俺は父に問いかける。

 

「俺を見て、何かおかしいと思わね?」

 

「ん? いつも通りだぞ」

 

 朝飯であるベーコンを口の中に放り込みながら、父は答える。

 

「……なぁ、母さん」

 

 スクランブルエッグを上品に食べる母に俺は問いかける。

 

「俺、いつも通りに見えるか?」

 

「ええ、いつも通りよ」

 

 『何言ってんだ、こいつ』みたいな顔をしながら、母は俺の疑問に答える。

 俺は『はぁ』と溜息を吐き出すと、朝飯を腹の中に詰め込んだ。

 『ご馳走様』と告げた後、俺はリビングに置いておいた通学鞄を拾い上げる。

 そして、『いってきます』と告げると、玄関に向かって歩き始めた。

 通学鞄を肩に背負いながら、家から出る。

 家から出た途端、隣の家に住む幼馴染──桜田花子と遭遇(エンカウント)した。

 

「あ、ユウ。おはよー」

 

「なぁ、花子」

 

「ん、どうしたん?」

 

「俺を見て、おかしいと思わない?」

 

 そう言って、俺は『たぷん』と大きな胸を揺らしながら、幼馴染(はなこ)に問いかける。

 幼稚園の頃からの付き合いである花子は、不思議そうに首を傾げながら、こう言った。

 

「ん? いつも通り、可愛いよ」

 

 可愛い。

 その言葉が俺の胸にグサリと突き刺さる。

 だが、その言葉に反論出来る程、今の俺の身体は雄々しくなかった。

 

「……」

 

 ポケットに入っていた生徒手帳を取り出す。

 生徒手帳の学生証欄には俺の名前と学年、そして、証明写真──金髪金眼の美女になった俺の姿が映っていた。

 

「……はぁ」

 

 学生証欄に書かれている性別欄を見て、俺は溜息を吐き出す。

 そこには男ではなく、女と記載されていた。

 

 

「ユウさんが男に戻れなかったのは、バグ技の影響だと思われます」

 

 放課後。

 ルナに会うため、俺は学校近くの喫茶店に立ち寄る。

 そこで待ち受けていたのは、衝撃的な事実だった。

 

「ほら、絶対悪との闘いでバグ技を使用してしまったでしょう? その所為で、存在の修正が行われず、ユウさんは元の姿に戻れなかったと推測されています」

 

「……他の人は元の姿に戻れたのか?」

 

「報告書が正しければ、木になった人達も、NPCと化した人達も、そして、ユウさんのようにゲームキャラになった人達も元の姿に戻れたみたいです」

 

「……じゃあ、」

 

「はい。元の姿に戻れなかったのは、ユウさんだけです」

 

「ちくしょう!」

 

 そう言って、俺は肩を落とす。

 それと同時に、俺は思い出してしまう。

 かつて自分が吐いた言葉を。

 

『──ノーリスクで使えるバグ技、リバクエには存在しねぇぞ』

 

 『はぁ』と溜息を吐きながら、テーブルの上に置いてあるマグカップを手に取る。

 そして、砂糖入りコーヒーを喉の奥に流し込んだ。 

 むう。

 砂糖が入っているのに、まだ苦い。

 

「まあまあ、落ち着いてください。ユウさんが元に戻れるよう、原因解明いたしますから」

 

 そう言って、ニコニコ笑うルナ。

 それを見ながら、俺はもう一度溜息を吐き出した。

 

「この大きな胸とおさらばできると思ったんだけどなぁ」

 

「安心してください、私は大魔女に最も近い魔女。ユウさんに女の子の楽しみ方を教えてあげますから」

 

「それよりも元に戻る方法を見つけ出してくれ」

 

「でも、ユウさんもちょっとは思ってたんじゃないですか? 『女の子じゃなきゃ味わえない事、沢山やりたいって」

 

「………」

 

「折角ですから、女の子じゃなきゃ味わえない事、沢山やりましょうよ。百合乱暴とか百合○ックスとか百合○合わせとか」

 

「全部エッチい事じゃねぇか」

 

「いいじゃないですか! 欲情したって! 私達恋人同士なんですから!」

 

「あれ。恋人になる前から欲情されていたような……」

 

「エッチい事以外にも女の子じゃなきゃできない事、沢山ありますよ! 折角の機会ですから、男に戻るまでの間に全部やりましょうよ!」

 

 そう言って、ルナは俺の右手を握る。

 俺は再度溜息を吐き出すと、『それもそうだな』と呟いた。

 

「折角女になったんだから、女じゃなきゃできない事、やってみるか」

 

 いつ男に戻れるのか分からない。

 最悪の場合、一生女のままかもしれない。

 でも、男に戻れない事を嘆き続けた所で元に戻れない事には変わりない訳で。

 嘆いている間も無常に時間は流れてしまう訳で。

 ならば、女じゃなきゃできない事をやった方が何倍もマシだ。

 そう思った俺は溜息を吐き出す。

 そして、気持ちを強引に切り替えると、ルナの方に視線を送った。

 

「では、先ずは何をやりますか!?」

 

 ウキウキしながら、ルナは俺に疑問を投げかける。

 そんな彼女に対し、俺は言った。

 今、自分が最もやりたい事を。

 

「とりあえずケーキバイキング行きたい。女と男の味覚の違いってヤツを体験してみたい」

 

「おっけー! じゃあ、今度の休みに行っちゃいますか!」

 

 そう言って、ルナはニコニコ笑う。

 その笑みを見ながら、俺もつい笑みを溢してしまった。

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