リバース・クエスト〜女体化した俺、ティンティンを取り戻すため狐耳魔女と異世界を駆け巡る〜   作:八百板典所

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最終話

◇side:瑠璃川桜子=管理者

 

「瑠璃川桜子、調子はどうだ?」

 

 病院の個室。

 白いベッドの上に座っている私に女性が話しかける。

 艶のある栗毛。

 力強さを感じさせる二重の瞳。

 形が整った高い鼻に色気を感じさせる唇。

 小さな顔に配置された顔のパーツは理想的な位置に収まっており、まるで人形のよう。

 そんな女性──ウルラ・タンプキンが私に声をかける。

 

「……別に何処も悪くないですよ」

 

「そうか、後遺症がなくて良かったよ」

 

 そう言って、大魔女を名乗る女性は安堵の溜息を吐き出す。

 それを見て、『この人は善良なんだな』と私は思った。

 

「じゃあ、君の調子も悪くなさそうだし、取り調べをさせて貰おう。瑠璃川桜子、今から私の質問に答えて欲しい。答え難い、或いは答えたくないものは無視しても構わないから」

 

 そして、始まる取り調べ。

 聞かれた内容は、あの濁った球体に関する事だけだった。

 私があの濁った球体と手を組んだ動機とか、私があの濁った球体を使って何をやろうとしたのかは尋ねられなかった。

 

「……あの、何で聞かないんですか」

 

「聞く? 何をだ?」

 

「動機ですよ」

 

「動機なんて聞いても意味がない。君はあの濁った球体──絶対悪の魔力に当てられ、気がおかしくなっていただけだ。君は魔女(わたし)達と違い、対魔力というものがないからな。対魔力がない状態で、あんな膨大な魔力に触れていたら、正常な思考を失ってもおかしくない」

 

「は、はぁ……」

 

「安心しろ。今回の騒動は君の責任じゃない。君が道を踏み外しかけたのは、あの絶対悪の所為だ。だから、気にする必要は……」

 

「多分、私は正気でしたよ」

 

 彼女の声を遮りながら、私はくるみの顔を思い浮かべる。

 

「私は正気で、あんな事をしでかしたと思います」

 

「……そうか」

 

 私を詰る事も問い詰める事もなく、女性は『そうか』という事だけで、私の言葉を流す。

 彼女の言葉には慈愛の2文字が含まれていた。

 

「まあ、どちらにせよ、魔女(わたし)達は君を裁く事はない。裁く権利も持ち合わせていない。だから、君の罪を問い詰める事はしない」

 

「……」

 

「もし悪い事をしでかしたと思うのならば、これから先の人生で償うといい。償おうが何しようが、君の人生だ。それに口出しする程、魔女(わたし)達は野暮じゃない」

 

「………」

 

「では、今日の取り調べはこれまでだ。また聞きたい事が出てきたら、君に会いに行く。いいな?」

 

「……はい」

 

 『では』と告げた後、大魔女を名乗る女性は私の前から立ち去ってしまう。

 残された私はベッドの上に倒れ込むと、『はぁ』と溜息を吐き出した。

 

 大魔女──ウルラ・タンプキンが病室に訪れて数日後。

 退院日が確定したとある日の昼下がり。

 私──瑠璃川桜子は病室に訪れたくるみのお母さんから聞かされた。

 くるみの意識が戻った事実を。

 

「……っ!」

 

 急いでくるみの病室に移動する。

 くるみの下に向かう。

 病室に辿り着くと、ボーッとした様子で天井を仰ぐくるみの姿を目撃した。

 

「くるみっ……!」

 

 くるみの姿を目撃するや否や、私はくるみに声を掛ける。

 私の声を聞いた途端、くるみはゆっくり上半身だけを起き上がらせる。

 そして、バツの悪そうな表情を浮かべながら、私の瞳を一瞥した。

 

「………」

 

 気まずい空気が私とくるみの間に流れ込む。

 その空気の所為で、私は口を開ける事を躊躇ってしまった。

 

「「………」」

 

 言いたい事は沢山ある。

 言わなきゃいけない事も沢山ある。

 けど、言いたい言葉も言わなきゃいけない言葉も、何一つ言葉にする事ができなかった。

 

「「………」」

 

 気まずい空気が私とくるみの間に流れ続ける。

 口を開けなきゃいけない。

 にも関わらず、私は口を開く勇気も、くるみの名前を呼ぶ勇気も持つ事ができなかった。

 

(……ああ、本当に情けない)

 

 くるみのためなら何だってやると思っていた。

 悪魔にでもなってみせると心の中で豪語した。

 にも関わらず、いざ彼女の前に出ると、何もできなくなってしまう。

 何をしたらいいのか分からなくなってしまう。

 何を言うべきか迷ってしまう。

 何をすべきなのか分からなくなって──

 

(いや、迷っている場合じゃないでしょ私)

 

 ああ、そうだ。

 くるみの笑顔を取り戻すためなら、何だってやると決めたんだ。

 だから、こんな所で立ち止まる訳にはいかない。

 

「……くるみ」

 

 くるみの下に近寄る。

 私が近寄った途端、くるみの肩が小さく揺れる。

 それに気づきながら、私はくるみの下に近寄る。

 彼女の手を握り締める。

 そして、言った。

 

「私が側にいる」

 

 本当に言いたかった事を。

 

「私が側にいるから。だから、一緒に遊ぼう。これからも」

 

 私の言葉が病室の窓を微かに揺らす。

 すると、くるみの両目から涙が零れ落ちた。

 彼女の嗚咽が私の鼓膜を微かに刺激する。

 それを聞きながら、私は彼女の身体を優しく抱き締めた。

 くるみの笑顔を取り戻す。

 今度は誰かの力を借りない。

 私の手で取り戻してみせる。

 そう誓った途端、ツクツクボウシの鳴き声が私の背中を軽く押し出した。

 

 

    ──────完──────

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