アニポケ転生者物語 作:投稿者
アニポケのすごさを再度実感いたしました。
静寂。
ただ、ピカチュウの流す涙が、石化したサトシの体に落ちる音だけが、奇妙に大きくスタジアムに響いていた。
「ピカ……ピピカチュウ……!!」
何度も、何度も弱々しい電撃を流し、友を呼び戻そうとするピカチュウ。だが、サトシの体は冷たい石のまま、その瞳に光が戻ることはなかった。
その様子を、ミュウツーは空中で、まるで信じられない奇跡を目撃したかのような、愕然とした目で見つめていた。
『……なぜだ。なぜ、人間が、自分とは無関係なポケモンたちのために、自らの命を投げ出したのだ……』
俺は、膝から崩れ落ちたまま、動けなかった。
「(サトシ……お前はいつだってそうだったな。物語の主人公だからじゃない。お前自身が、誰よりも命を愛していたから……)」
転生者として、この世界のすべてを俯瞰し、管理しようとしていた自分が、あまりにも小さく、醜く思えた。
知識やデータでは測れない、理屈を超えた「想い」の力が、今、目の前で一つの命を散らせたのだ。
その時だった。
ピカチュウの瞳から溢れた、大粒の涙。
それが、スタジアムの照明を反射してキラリと輝くと、石化したサトシの体に吸い込まれるように落ちた。
それに呼応するように、周りにいたオリジナル、そしてコピーのポケモンたちの目からも、一斉に涙が溢れ出した。
不毛な争いの果てに、自分たちが何のために生まれ、何のために傷つけ合っていたのか。
目の前で倒れた少年の姿を見て、彼らは自分たちの内側にある「悲しみ」という共通の感情に気づいたのだ。
数多の光の粒が、スタジアム全体からサトシの体へと集まっていく。
「……っ!」
俺は目を見開いた。
石の表面に、かすかな亀裂が入った。
そこから、本来の温かな、陽に焼けた肌の色が戻っていく。
指先が微かに動き、胸がゆっくりと上下し始めた。
「う……ううん……」
サトシが、ゆっくりと、しかし確実に目を開けた。
「……ピカチュウ?俺……何を……。あっ、みんな!喧嘩はやめたのか?」
「ピカピカチュウ!!」
ピカチュウがサトシの胸に飛び込み、二人は強く、強く抱き合った。
スタジアム中に、歓喜の鳴き声が広がる。
オリジナルも、コピーも、もう関係なかった。
すべての命が、今、サトシの復活を、そしてこの愚かな戦いの終わりを喜んでいた。
ミュウツーは、ゆっくりと、地面に降り立った。
彼の瞳からは、かつての刺すような鋭い敵意は消え去っていた。そこにあるのは、深い戸惑いと、そして初めて感じるであろう、安らぎの光だった。
『……私は、間違っていた。……いや、知りたくなかったのだ』
ミュウツーが、静かに呟いた。その思考波は、島にいるすべての生き物の心に、穏やかに染み渡っていった。
『本物か、偽物か。誰に創られたのか……。そんなことに、何の意味もなかったのだ。生まれた場所がどこであれ、今こうして存在し、誰かのために涙を流せる。……それこそが、命というものの証明なのだから』
ミュウツーは、傍らにいた、自分と同じ黒い紋様を持つコピーピカチュウの頭を、大きな手で優しく撫でた。
『私は、私の行くべき道を探そう。彼らと共に……人間もポケモンもいない、新しい場所で。私たちが「生命」として笑える場所をな』
ミュウツーが右手を掲げると、ニューアイランド全体が眩い黄金の光に包まれた。
『ミナト……。そしてサトシ。お前たちのことは、忘れない。……いつか、私が私自身という存在を許せるようになった時、また会おう』
「ミュウツー!」
俺は、去りゆく最強の背中に向かって叫んだ。
「お前は、もう一人じゃないぞ!お前には、お前が創った、最高に愛しい家族がいるんだからな!」
ミュウツーは、一度だけ振り返り、ふっと微笑んだ。
それは、彼が生まれて初めて見せた、本物の、心からの笑顔だった。
光が強くなり、俺の意識は白く染まっていく。
最後に見たのは、ミュウツーとミュウが並んで、コピーポケモンたちを引き連れて空へ舞い上がる、この世のものとは思えないほど美しく、荘厳な光景だった。
俺たちの、長く悲しい「逆襲」は、こうして奇跡の幕引きを迎えた。
だが、その代償は、あまりにも残酷なものだった。
「(消されるのか……この記憶も)」
俺は、薄れゆく意識の中で、必死にこの光景を心に刻み込もうとしていた。
たとえ世界がすべてを忘れても、俺だけは。
彼がいたことを。彼が笑ったことを。
そして、命が重なった瞬間の熱を、絶対に、忘れたくなかった。
意識が、データの波の中に溶けていく――。