アニポケ転生者物語   作:投稿者

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1万UA突破いたしました。
アニポケのすごさを再度実感いたしました。


第89話

静寂。

ただ、ピカチュウの流す涙が、石化したサトシの体に落ちる音だけが、奇妙に大きくスタジアムに響いていた。

「ピカ……ピピカチュウ……!!」

何度も、何度も弱々しい電撃を流し、友を呼び戻そうとするピカチュウ。だが、サトシの体は冷たい石のまま、その瞳に光が戻ることはなかった。

 

その様子を、ミュウツーは空中で、まるで信じられない奇跡を目撃したかのような、愕然とした目で見つめていた。

『……なぜだ。なぜ、人間が、自分とは無関係なポケモンたちのために、自らの命を投げ出したのだ……』

 

俺は、膝から崩れ落ちたまま、動けなかった。

「(サトシ……お前はいつだってそうだったな。物語の主人公だからじゃない。お前自身が、誰よりも命を愛していたから……)」

 

転生者として、この世界のすべてを俯瞰し、管理しようとしていた自分が、あまりにも小さく、醜く思えた。

知識やデータでは測れない、理屈を超えた「想い」の力が、今、目の前で一つの命を散らせたのだ。

 

その時だった。

ピカチュウの瞳から溢れた、大粒の涙。

それが、スタジアムの照明を反射してキラリと輝くと、石化したサトシの体に吸い込まれるように落ちた。

 

それに呼応するように、周りにいたオリジナル、そしてコピーのポケモンたちの目からも、一斉に涙が溢れ出した。

不毛な争いの果てに、自分たちが何のために生まれ、何のために傷つけ合っていたのか。

目の前で倒れた少年の姿を見て、彼らは自分たちの内側にある「悲しみ」という共通の感情に気づいたのだ。

 

数多の光の粒が、スタジアム全体からサトシの体へと集まっていく。

「……っ!」

 

俺は目を見開いた。

石の表面に、かすかな亀裂が入った。

そこから、本来の温かな、陽に焼けた肌の色が戻っていく。

指先が微かに動き、胸がゆっくりと上下し始めた。

 

「う……ううん……」

 

サトシが、ゆっくりと、しかし確実に目を開けた。

「……ピカチュウ?俺……何を……。あっ、みんな!喧嘩はやめたのか?」

 

「ピカピカチュウ!!」

ピカチュウがサトシの胸に飛び込み、二人は強く、強く抱き合った。

 

スタジアム中に、歓喜の鳴き声が広がる。

オリジナルも、コピーも、もう関係なかった。

すべての命が、今、サトシの復活を、そしてこの愚かな戦いの終わりを喜んでいた。

 

ミュウツーは、ゆっくりと、地面に降り立った。

彼の瞳からは、かつての刺すような鋭い敵意は消え去っていた。そこにあるのは、深い戸惑いと、そして初めて感じるであろう、安らぎの光だった。

 

『……私は、間違っていた。……いや、知りたくなかったのだ』

 

ミュウツーが、静かに呟いた。その思考波は、島にいるすべての生き物の心に、穏やかに染み渡っていった。

 

『本物か、偽物か。誰に創られたのか……。そんなことに、何の意味もなかったのだ。生まれた場所がどこであれ、今こうして存在し、誰かのために涙を流せる。……それこそが、命というものの証明なのだから』

 

ミュウツーは、傍らにいた、自分と同じ黒い紋様を持つコピーピカチュウの頭を、大きな手で優しく撫でた。

 

『私は、私の行くべき道を探そう。彼らと共に……人間もポケモンもいない、新しい場所で。私たちが「生命」として笑える場所をな』

 

ミュウツーが右手を掲げると、ニューアイランド全体が眩い黄金の光に包まれた。

 

『ミナト……。そしてサトシ。お前たちのことは、忘れない。……いつか、私が私自身という存在を許せるようになった時、また会おう』

 

「ミュウツー!」

 

俺は、去りゆく最強の背中に向かって叫んだ。

「お前は、もう一人じゃないぞ!お前には、お前が創った、最高に愛しい家族がいるんだからな!」

 

ミュウツーは、一度だけ振り返り、ふっと微笑んだ。

それは、彼が生まれて初めて見せた、本物の、心からの笑顔だった。

 

光が強くなり、俺の意識は白く染まっていく。

最後に見たのは、ミュウツーとミュウが並んで、コピーポケモンたちを引き連れて空へ舞い上がる、この世のものとは思えないほど美しく、荘厳な光景だった。

 

俺たちの、長く悲しい「逆襲」は、こうして奇跡の幕引きを迎えた。

だが、その代償は、あまりにも残酷なものだった。

 

「(消されるのか……この記憶も)」

 

俺は、薄れゆく意識の中で、必死にこの光景を心に刻み込もうとしていた。

たとえ世界がすべてを忘れても、俺だけは。

彼がいたことを。彼が笑ったことを。

そして、命が重なった瞬間の熱を、絶対に、忘れたくなかった。

 

意識が、データの波の中に溶けていく――。

 

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