アニポケ転生者物語 作:投稿者
「……あれ?俺、寝てたのか?」
サトシの呑気な声で、俺は意識を引き戻された。
顔を上げると、そこには不気味な城も、荒れ狂う嵐もなかった。
広がっているのは、どこまでも穏やかで、キラキラと輝くオレンジ諸島の海。そして、眩しいほどの午後の太陽だった。
「ミナト君、大丈夫?急にラプラスの上で船漕ぎ始めちゃうから驚いたわよ。疲れが出たんじゃない?」
カスミが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「……カスミ?……サトシ、俺たち、今まで何を……」
「何って、オレンジ諸島へ向かう途中だろ!途中で変な嵐が来たけど、気づいたら晴れててさ。ラッキーだったよなー!」
サトシは、ピカチュウと楽しそうにじゃれ合っている。その仕草に、一点の曇りもなかった。
俺は、周囲を見渡した。
ニューアイランドの城があったはずの場所には、ただ霧に包まれた小さな岩山があるだけだった。招待されていた他のトレーナーたちの姿もない。
「(やっぱり……記憶を消されたのか。すべてを『なかったこと』にされたのか……)」
サトシやカスミ、タケシの様子を見る限り、彼らにはミュウツーとの死闘も、コピーたちの悲鳴も、そしてサトシが一度命を落としたあの衝撃的な出来事も、一切の記憶が残っていない。
だが。
「……っ!」
俺は、自分の右手の掌に、熱い違和感を感じた。
強く握りしめていた拳を、恐る恐る開く。
そこには、一つの小さな『水晶の欠片』が握られていた。
青白く神秘的な光を放ち、微かにサイコパワーの残滓を纏った、この世の物とは思えないほど美しい結晶。
「(……覚えてる。俺は、覚えてるぞ)」
転生者としての精神力か、あるいはポリゴン2が最後に残したバックアップデータの影響か。
俺の脳裏には、石になったサトシ、ポケモンたちの涙、そして最後に微笑んだミュウツーの姿が、鮮明に焼き付いていた。
『……マスター。再起動完了。……内部ログに、未分類の重要データを保護しています』
デバイスの中で、ポリゴン2が静かに告げた。
「……そうか。お前も、覚えてるんだな」
俺は、その水晶を大切にポケットにしまった。
これは、ミュウツーが俺に託した、彼が存在したという唯一の証。
そして、いつか彼らと本当の意味で対等に、友人として再会するための約束の品だ。
「ミナト、どうしたんだよ?そんなにニヤニヤしてさ!まさか、優勝して気が緩んだか?」
サトシが、不思議そうに寄ってくる。
「……いや、なんでもない。ただ、この海の青さが、改めて綺麗だなと思ってな」
「へへっ、全くだぜ!オレンジ諸島は最高だよな!よし、早くダイダイ島へ行こう!ウチキド博士にGSボールを届けなきゃ!」
サトシたちは、定期船の上で元気いっぱいに手を振った。
俺はラプラスの背に跨り、その航跡を追う。
「じゃあな、サトシ!カスミ、タケシ!向こうでも会おうぜ!」
「おう!ミナト、オレンジリーグでも絶対に負けないからな!」
遠ざかっていくサトシたちの船を見送りながら、俺は大きく、深く息を吸い込んだ。
最強のポケモンとの出会い。生命の尊さ。そして、消せない記憶。
それらすべてを魂に刻んで、俺はまた、新しい「現実」の中へと飛び込んでいく。
「行くぞ、ラプラス。ウインディ、カイリュー、フシギバナ、ゲンガー、ポリゴン2……俺たちの冒険は、ここからまた新しく始まるんだ!」
「キューッ!!」
ラプラスが力強く波を蹴り、飛沫を上げる。
俺たちの前には、どこまでも広がる、可能性に満ちた青い海。
その水平線の向こうに、まだ見ぬ興奮と、そして俺たちが証明すべき「強さ」の答えが待っている。