アニポケ転生者物語 作:投稿者
ニューアイランドでの、あの「逆襲」の夜から、数日が経過した。
俺は今、ラプラスの背中に揺られながら、オレンジ諸島の穏やかな海をゆったりと南下している。
頭上には、どこまでも澄み渡る青い空。時折、マンキーのように元気な海鳥たちが俺たちの頭上を横切っていく。数日前のあの、空さえも絶望に染まった暗黒の嵐が嘘のような、あまりにも平和な景色だ。
「
ラプラスが、穏やかな海面に長い首を伸ばして、心地よさそうに鳴いた。彼女の瞳には、あの夜の恐怖の影はもう残っていない。
「ああ。……でも、夢じゃなかったんだよな」
俺は、新しい旅の服の胸ポケットに忍ばせた『水晶の欠片』に、そっと指を触れた。
指先に伝わる、微かな、しかし確かな熱量。それは、俺の記憶が、そしてあの日流された数多の涙が、紛れもない「現実」であったことを静かに教えてくれる。
サトシやカスミ、タケシたちには、あの夜の記憶は一切残っていない。彼らにとって、ニューアイランドへの招待状は「嵐で引き返した不運な出来事」の一つとして処理され、あるいは存在すら忘却の彼方に消し去られている。
だが、俺だけは覚えている。
石になったサトシ。ピカチュウの悲痛な叫び。
そして、最後にコピーポケモンたちを連れて、自分たちの居場所を求めて空へ去っていった、あの白銀の最強ポケモンの笑顔を。
「(ミュウツー……)」
今、彼はどこにいるのだろう。
世界のどこか、人間も、そして自分たちを「偽物」と呼ぶ存在もいない、静かな場所で笑えているだろうか。
いつか、俺の旅がさらに進み、彼らと対等に、本当の意味で肩を並べて語り合える強さを手に入れた時、また会いたい。その時は、戦うためではなく、ただの友として、これまでの旅で出会った素晴らしい人たちやポケモンたちの話を、たっぷりと聞かせてやりたい。
『……マスター。データの整理、完了しました』
デバイスの中で、ポリゴン2が静かに告げた。
『ニューアイランドでの特殊環境ログ、およびミュウツーの生体エネルギー波動のバックアップ……。これらは、現代の科学では到底到達できない領域のデータです。解析には、私の演算能力をフルに活用しても、数年、あるいはそれ以上の時間が必要になるでしょう』
「はは、それでいい。ゆっくりやろうぜ。俺たちの旅は、まだまだ始まったばかりなんだからな」
ポリゴン2も、あの夜の出来事を「データ」としてではなく「記憶」として共有している数少ない仲間だ。彼がいてくれるおかげで、俺はこの孤独な真実を抱えたまま、前を向いていられる。
オレンジ諸島。
カントー地方の南に位置する、一年中温暖な気候に恵まれた島々。
ここはカントー本土とは異なる独自の生態系が形成されており、ポケモンたちの色や形が微妙に異なる「
「(オレンジ諸島編……アニポケではサトシがラプラスと出会い、リザードンと本当の意味で分かり合い、そして海の神ルギアと出会う場所だったな)」
だが、この「現実」では、俺がそこにいる。
俺の存在が、これからこの海域でどんな波紋を広げ、どんな新しい未来を創り出すのか。
物語の知識はあっても、その先の結果は、俺と相棒たちが一歩一歩踏みしめる「現実」によってのみ、綴られていく。
「
腰に提げたモンスターボールが激しく揺れ、中からウインディの待ちきれない咆哮が聞こえた気がした。彼は、水平線の先に見える緑豊かな小さな島を、心眼で見据えているのかもしれない。進化したことでさらに磨きがかかったその俊敏な動き。彼は、次なる強敵との出会いを待ち望んでいるようだ。
「分かってるよ、ウインディ。……フシギバナ、ゲンガー、カイリュー、ヤドラン。みんな、準備はいいか?」
それぞれのボールが、力強く、頼もしく脈動した。
最強のポケモンとの死闘を潜り抜け、俺たちの絆は、セキエイ大会の時よりもさらに強固なものになっている。
「待ってろよ、オレンジ諸島。俺たちの新しい物語、最高のスタートを切ってやろうぜ!」
俺はラプラスの背中の上で立ち上がり、海に向かって力強く拳を突き上げた。
眩しい太陽が、俺と相棒たちの行く先を、どこまでも明るく、希望に満ちた光で照らし出していた。