アニポケ転生者物語 作:投稿者
第165話
うずまき列島でのルギアを巡る壮絶な事件から数日。連絡船でジョウト本土へと戻った俺たちは、険しい山道を数日間歩き続け、ついにジョウト地方最後のジムがある街、フスベシティに到着した。
目の前に広がる光景に、俺たちは思わず息を呑んだ。
街全体が天を突くような険しい岩山に四方を囲まれ、その中心には、太古の昔に溶岩が冷え固まってできたと思われる、黒々とした独特の地形が広がっている。街並みも近代的なビルは少なく、石造りの重厚な建物が目立つ。
そして何より、街全体に漂う、肌をピリピリと刺すような厳かな空気。それはここが単なる田舎町ではなく、最強の種族と共生する「ドラゴンの聖地」であることを、訪れる者に無言で突きつけていた。
「ここがフスベシティか……。なんだか、空気が張り詰めてるな。これまでの街とは全然違うぜ」
サトシが身震いし、腕をさする。ピカチュウも、どこか緊張した面持ちで周囲を見回し、電気袋を小さく鳴らしている。
「ああ。ここはワタルさんの故郷でもある。……生半可なトレーナーは、この街の門をくぐることさえ許されない場所だ」
俺が言うと、カスミとタケシも神妙な顔で頷いた。
俺たちは宿に荷物を置くのも後回しにして、早速ジムを訪れた。
石造りの巨大な門には、ドラゴンのレリーフが彫り込まれている。しかし、その重い扉は固く閉ざされ、入り口には「修行中につき不在。用がある者は『竜の穴』へ来られよ」という、達筆な張り紙が一枚だけ貼られていた。
「竜の穴で修行中か。……ジムリーダー自ら修行とはな。行ってみよう」
街の北外れにある洞窟、通称『竜の穴』。
一歩足を踏み入れると、ひんやりとした湿った空気と共に、独特の硫黄の匂いが鼻をつく。地下深くへと続く階段を降りていくと、やがて視界が開け、地下空洞とは思えないほど広大な地底湖と、その中央に浮かぶ小島に建てられた、古代の神殿のような建物が見えてきた。
湖のほとりでは、一人の女性が、優雅な姿をしたハクリューと共に、滝に打たれるかのように静かに瞑想していた。
鮮やかな青い髪、体にフィットした独特なデザインのマントとスーツ。その背中からは、ただならぬ覇気が立ち上っている。
「……何者だ? 神聖な修行の場に、土足で踏み込んでくるとは」
女性がゆっくりと目を開き、こちらを振り返る。
その鋭い眼光は、チャンピオンのワタルさんにも似た、あるいはそれ以上に攻撃的な、ドラゴンのような光を宿していた。
彼女こそが、ジョウト最強と謳われるジムリーダー、イブキだ。
「挑戦者です。フスベジムのジム戦をお願いしに来ました」
俺が一歩前に出て告げると、イブキは鼻で笑った。冷たい笑みだ。
「挑戦者? ……フン、バッジが欲しいというだけの、中途半端な覚悟でここに来たのなら、すぐに帰りなさい。私のドラゴンたちは、弱き者には容赦なく牙を剥くわよ。怪我をしてからでは遅いわ」
「弱くない! 俺たちはここまで7つのバッジを集めてきたんだ! ジョウトリーグに出るために、どうしても最後のバッジが必要なんだ!」
サトシが負けじと反論する。
イブキは立ち上がり、ハクリューの首を愛おしそうに撫でながら、冷徹な視線をサトシに向けた。
「口だけなら何とでも言える。7つのバッジ? そんなものはただの飾りよ。……ハクリュー、『たつまき』!」
イブキの指示と共に、ハクリューが美しくも恐ろしい鳴き声を上げ、湖の水を巻き上げた。
瞬く間に巨大な水流の竜巻が発生し、湖面を荒れ狂う。その威力は、並のポケモンなら近づくだけで دمも残さず吹き飛ばされるほどだ。轟音が洞窟内に反響し、水しぶきが俺たちの頬を叩く。
「この竜巻の中に入ってこれる気概があるなら、話くらいは聞いてあげるわ」
イブキは試すような目で俺たちを見下ろす。これはただの威嚇ではない、命懸けの試験だ。
「やってやるぜ! 逃げてちゃバトルなんてできない! 行け、ピカチュウ!」
サトシが迷わず飛び出す。ピカチュウも「ピカァッ!」と叫び、嵐の中へ突っ込もうとする。
「待てサトシ! 水場での戦いは不利だ! ……ここは俺に任せろ!」
俺はサトシを制し、腰のハイパーボールを握りしめた。
「力には力を。ドラゴンにはドラゴンを。……頼むぞ、カイリュー!!」
俺は相棒のカイリューを繰り出した。
「グオォォォォォッ!!!」
オレンジ色の巨体が、地底湖の空中に現れる。その咆哮だけで、周囲の空気がビリビリと震えた。
カイリューは、目の前で荒れ狂う竜巻をものともせず、その中心へと悠然と、王者の風格で飛んでいく。
そして、竜巻の核を見極めると、翼を大きく広げて一喝した。
ドォォォォォォン!!
衝撃波が発生し、ハクリューの作り出した巨大な竜巻が、まるでロウソクの火を吹き消すように一瞬で霧散した。水しぶきが雨となって降り注ぐ。
「……ほう。カイリュー使いか。それも、ただのカイリューじゃないわね。……よく鍛えられている」
イブキの表情が、侮蔑から興味へと、ほんの少しだけ変わった。彼女のハクリューも、警戒したように身をくねらせる。
「いいだろう。お前たちの挑戦、受けて立つわ。……ただし、その前に片付けなきゃいけない邪魔者がいるみたいだけどね」
イブキの鋭い視線が、洞窟のさらに奥、古代の祠がある立ち入り禁止区域の方角に向けられた。
耳を澄ますと、そこからガサゴソという不穏な物音と、何者かの話し声が響いてきていた。
「聖域を汚す不届き者……。命知らずにも程があるわ。成敗してくれる!」
最強のジムリーダーの逆鱗に触れた、愚かな侵入者たち。
俺たちのジム戦の前に、どうやらひと暴れありそうだ。俺とサトシは顔を見合わせ、イブキの背中を追って奥へと走った。