アニポケ転生者物語 作:投稿者
第196話
カントー地方を離れ、俺は連絡船『アクア・プリンセス号』の甲板で潮風に吹かれていた。
目指すは、はるか南に位置するホウエン地方。
温暖な気候と豊かな自然、そしてカントーやジョウトとは異なる独自の生態系を持つ未知の大地だ。
「ついに来たな、ホウエン……」
俺の隣には、ポリゴンZがフワフワと浮いている。
『気温上昇を確認。……湿度、気圧ともに安定。……ホウエン地方特有の亜熱帯気候です。植生データも、これまでのデータベースとは大きく異なります』
「ああ。新しい発見が待っているはずだ」
今回の旅は、ゼロからのスタートだ。
カントーやジョウトで共に戦った相棒たちは、マサラタウンのオーキド研究所に預けてきた。彼らには彼らの休息が必要だし、何より俺自身が、新たな環境で一から鍛え直したいと思ったからだ。
連れてきたのは、このポリゴンZだけ。彼の解析能力は、未知の土地での調査に不可欠だからだ。
「おや?お客さんが来たみたいだぞ」
船尾の方から、一匹の白い鳥ポケモンが飛んできた。
キャモメだ。
カモメのような姿をした、ホウエン地方ではポピュラーな水・飛行タイプのポケモン。
翼を広げて風に乗り、グライダーのように滑空している。
「キャーモ!」
キャモメは人懐っこく俺の肩に止まり、俺が手に持っていたサンドイッチを物欲しげに見つめている。つぶらな瞳が、「一口ちょうだい」と訴えているようだ。
「はは、腹が減ってるのか?ほらよ」
俺がパンの耳をちぎってやると、キャモメは嬉しそうに嘴で受け取り、器用に飲み込んだ。
「
「お前、どこから来たんだ?陸地はまだ見えないぞ」
キャモメは答えず、ただ気持ちよさそうに風に乗っている。どうやら、船のマストを休憩所にして、長い距離をついてきたらしい。
その翼の動きを見ていると、彼がどれだけ風を愛しているかが伝わってくる。微細な気流の変化を読み取り、最小限の力で最大限の揚力を得ているのだ。
「(風読みの天才か……)」
その時、急に空が暗くなり、湿った重い風が吹き始めた。
『気圧急低下。……急速に発達した積乱雲が接近中』
ポリゴンZが警告する。
「嵐か!?」
数分もしないうちに、海は大荒れになった。
雨が叩きつけ、雷鳴が轟く。波が高くなり、船が木の葉のように揺れる。
俺が手すりにしがみつくと、キャモメが鋭く鳴いた。
「キャモッ!!」
キャモメは安全な船内へ逃げ込むどころか、自ら嵐の空へと飛び立った。
「おい、危険だぞ!」
だが、キャモメは暴風雨の中を巧みに飛び回り、船首の方角を指し示しているようだった。
「あっちに行けって言ってるのか?」
よく見ると、キャモメが指し示す方向は、波が比較的穏やかなエリアだった。
船長もそれに気づいたのか、舵を切る。
「あの鳥についていくぞ!」
キャモメは、雷雲の隙間を縫い、乱気流を乗りこなしながら、船を安全な航路へと導き続けた。
時折、強風に煽られて体勢を崩すが、すぐに立て直して先導を続ける。
その小さな体には、嵐に立ち向かう勇気と、仲間(船)を守ろうとする強い意志が宿っていた。
「すごいな……。ただ風を読むだけじゃない。風と戦っているんだ」
一時間後、嵐は去り、雲の切れ間から太陽の光が差し込んできた。
キャモメは疲れ果てて甲板に降りてきた。羽は濡れそぼり、息も絶え絶えだ。
俺はすぐに駆け寄り、傷薬で手当てをしてやった。
「無茶しやがって。……でも、お前のおかげで助かったよ」
俺はタオルで彼の体を拭きながら、語りかけた。
「お前、いい度胸してるな。……俺と一緒に来るか?」
キャモメは俺の顔を見つめ、コクりと頷いた。
「
俺はモンスターボールを取り出し、優しく彼に触れた。
「キャモメ、ゲットだ」
ホウエン地方での最初の仲間。
白い翼を持つ、風のナビゲーター。
俺たちの旅の始まりに、これほど相応しい相棒はいないだろう。
やがて、水平線の向こうに緑豊かな陸地が見えてきた。
ミシロタウン。
ホウエン地方の玄関口だ。
素朴な港町だが、そこには未知の可能性が満ち溢れている。
「行くぞ、ポリゴンZ、キャモメ。……新しい冒険の始まりだ!」
船が岸壁に着岸する。タラップが下ろされる。
俺たちは、期待に胸を膨らませて、新たな大地へと第一歩を踏み出した。
南国の暖かい風が、俺たちを歓迎するように吹き抜けていった。