アニポケ転生者物語 作:投稿者
第205話
トウカの森の鬱蒼とした緑のトンネルを抜けると、視界が一気に開けた。
目の前に広がるのは、高くそびえ立つ近代的なガラス張りのビル群と、歴史の重みを感じさせる重厚な石造りの建物が見事に調和した大都市、カナズミシティだ。
カントーのヤマブキシティが「超能力と科学の街」なら、ここは「石と鉄と科学の街」と言えるだろう。
道路には幾何学模様を描く美しい石畳が敷き詰められ、公園には巨大な原石のオブジェが、まるで街の守り神のように鎮座している。
「ここがカナズミシティか……。ホウエン有数の工業都市というだけあって、活気が違うな」
俺は、隣を浮遊するポリゴンZ、そして肩に乗せたラルトスと共に、街のメインストリートを歩いていた。
そして俺たちの頭上、建物の間を縫うように、一羽の白い影が優雅に舞っている。
「キャーモッ! キャモッ!」
潮風を捉えて翼を広げ、気持ちよさそうに鳴いているのは、トウカの森に入る前に仲間に加わったキャモメだ。海が近いこの街の空気は、彼にとって非常に心地よいものらしい。
「キャモメ、あんまり遠くへ行くなよ。……この街はビル風が強いからな」
俺が声をかけると、キャモメは空中で器用に旋回し、俺の少し前方を先導するように飛び始めた。彼の鋭い視力は、混雑したストリートでの「目」としても非常に頼りになる。
『地域データ照合完了。……ここはデボンコーポレーションの本拠地です。……ホウエン地方の経済・技術の中心地であり、ポケナビやモンスターボールの改良など、数多くの発明がここから生まれています』
デバイス越しに、ポリゴンZが的確な補足情報を送ってくる。
「デボンコーポレーションか。……今回の旅の、最初の目的地だな」
俺たちはまず、街の中心にそびえ立つ巨大な企業ビル――デボンコーポレーション本社を目指した。
トウカの森で助けた研究員からの連絡を受けて、社長のツワブキさんが俺を招待してくれているのだ。
ビルの入り口は広々としており、ガラスの自動ドアの向こうには、広大なロビーと、巨大な化石ポケモンの骨格標本が展示されていた。
「ミナトさん! お待ちしておりました!」
受付で名前を告げると、昨日の研究員が満面の笑みで迎えてくれた。
「社長がお待ちです。最上階へどうぞ。……おや、そのキャモメ、とても綺麗な羽をしていますね。手入れが行き届いている」
「ありがとうございます。こいつは俺の大事なナビゲーターなんです」
褒められたキャモメは、誇らしげに胸を張り、俺の肩へと舞い降りた。
専用のエレベーターで最上階へと向かう。窓の外には、カナズミシティの全景と、その向こうに広がるどこまでも蒼い海が一望できた。
「(いい眺めだ。……この街全体が、一つの巨大なシステムのようだな)」
社長室の重厚な扉が開くと、そこにはアンティーク調の家具で統一された落ち着いた空間が広がっていた。
デスクの奥に座っていたのは、紫色のスーツを着こなした、威厳がありながらもどこか少年のような好奇心を瞳に宿した初老の男性だった。
「ようこそ、ミナト君。……話は聞いているよ。我が社の社員と、大切な荷物を守ってくれたそうだね。心から感謝する」
ツワブキ社長は立ち上がり、デスクを回って俺の元へ歩み寄ると、力強く手を握った。その手は、経営者というよりは、現場を知る職人のように分厚く、温かかった。
「いえ。通りがかっただけですから。……それに、あの荷物を狙っていた連中のことが気になったので」
「ふむ……。マグマ団、と言ったかな。最近、各地で不穏な動きを見せている連中だ。……彼らの目的が何であれ、我が社の技術を悪用させるわけにはいかない」
社長の表情が少し曇る。だが、すぐにまた温和な笑顔に戻った。
「まあ、堅い話は抜きにしよう。……お礼と言っては何だが、これを受け取ってほしい」
社長が手渡してくれたのは、最新型の『学習装置』と、ポケナビの拡張メモリー、そしていくつかの高品質な進化の石だった。
「学習装置は、まだ市場には出回っていないプロトタイプだ。戦闘に参加していないポケモンにも経験値を分配できる優れものだよ」
「ありがとうございます。……これは助かります」
これから手持ちが増えていく俺にとって、育成効率を上げるアイテムは何よりの宝物だ。
「シルフのテスターである君なら、これらをさらに有効活用してくれるだろう。……オーキド博士からも、君の優秀さは伺っているよ」
社長は窓際に立ち、遠くの山々を眺めた。
「さて、ミナト君。……実はもう一つ、君のその腕を見込んで、お願いしたいことがあるんだ」
ツワブキ社長の表情が、少しだけ真剣なものになった。
「カナズミの北部に、かつて良質な鉄鉱石が採掘されていた古い廃鉱山がある。『第3鉱区』と呼ばれる場所だ。……今は閉鎖されているのだが、最近、そこで原因不明の微細な振動が続いているんだ」
「振動、ですか?」
「ああ。地震計には記録されないほどの、微弱だが規則的な振動だ。……ジムリーダーのツツジ君も調査に向かってくれたが、まだ原因が特定できていない。……もしかすると、未知のポケモンか、あるいはもっと別の何かが原因かもしれない」
「(未知のポケモン……。テスターとしての血が騒ぐな)」
「廃鉱山の調査。……引き受けてくれますか?」
俺は少し考えてから、力強く頷いた。
「分かりました。……行ってみます。その振動の正体、突き止めてみせますよ」
「ありがとう!……君ならやってくれると信じていたよ。詳しい地図とアクセス権限は、君のポケナビに転送しておこう」
俺はツワブキ社長の依頼を引き受けた。
テスターとしての仕事。そして何より、その場所には俺が求めている「新たな相棒」がいる予感がしていたからだ。
岩と鉄の街、カナズミ。その地下深くに眠る何かが、俺を呼んでいる気がした。
「ラルトス、ジグザグマ、キャモメ。……準備はいいか? 探検の始まりだぞ」
「ラルッ!」「ジグッ!」「キャモォォッ!」
俺たちはデボン本社を後にし、カナズミ北部の険しい山岳地帯へと向かった。
街の喧騒が遠ざかり、代わりに冷たい岩肌の匂いと、吹き付ける風の音が強くなってくる。
その先に、俺たちの新しい物語が待っていた。
「(蒼い影……。その正体、確かめさせてもらうぞ)」
俺は、まだ見ぬ鋼の相棒への想いを馳せながら、立ち入り禁止の看板を越え、薄暗い廃鉱山の入り口へと足を踏み入れた。
ホウエンの「石」の物語が、今、動き出した。