アニポケ転生者物語 作:投稿者
カナズミシティの喧騒を離れ、北へ一時間ほど歩くと、そこには岩山をくり抜いたような無骨な穴が開いていた。
かつては「カナズミの大動脈」と呼ばれ、日夜トロッコが行き交い、鉄と汗の匂いが充満していたであろう金鉱山。
だが今は、入り口付近には錆びついたレールと朽ちかけた看板だけが残り、「廃鉱山」として静寂に包まれている。
ひんやりとした湿った空気が中から流れ出し、まるで巨大な生物の呼吸のように感じられる。
「(不自然な振動、か……)」
俺は自分の足音を殺しながら、暗い坑道を進んでいった。
足元には、ジグザグマが鼻をピクピクさせながら先行し、上空からはキャモメが低空飛行で周囲を警戒している。ラルトスは俺の隣で、ツノを微かに光らせて周囲の精神波を探っている。
崩れかけた坑道の壁には、ズバットたちがぶら下がっており、俺たちの侵入を監視しているようだ。
「
ジグザグマが、岩壁の奥から響く微かな音を捉えた。
リズミカルで、重厚な響き。それは、自然の落石音などではない。何者かが意志を持って、硬いものを叩き続けている音だ。
音のする方へ向かうと、広大な地下空洞に出た。
かつては採掘場だったのだろう。天井は高く、所々に巨大な重機の残骸が放置されている。
そこには、数匹のココドラたちが集まっていた。
彼らは自分の体を岩壁にぶつけたり、お互いに体当たりをしたりして、自慢の鎧を鍛え上げている。
「ココッ!」「ココラッ!」
彼らの声が、空洞に反響している。
だが、その群れから少し離れた場所。
光の届かない薄暗い隅に、一匹だけ浮いている個体がいた。
通常のココドラは、鈍い銀色の装甲に水色の瞳をしている。だがその子は、透き通るような美しい白銀の装甲を纏い、何よりもその瞳が、燃えるような鮮やかな赤色に輝いていた。
「……色違いのココドラか」
美しい白銀。そして、意志の強さを感じさせる紅い瞳。だが、その目はひどく孤独だった。
他のココドラたちが集団で効率よく修行しているのに対し、その白銀のココドラは一人で巨大な硬岩に向き合い、ボロボロになりながらも体当たりを繰り返していた。
仲間に入れてもらえないのか、それとも自ら拒絶しているのか。
「ココッ!ココォッ!!」
渾身の体当たり。だが、岩はびくともしない。
ココドラは跳ね返されて地面を転がるが、すぐに立ち上がり、また岩に向かっていく。
その鎧には、無数の傷と凹みが刻まれていた。痛々しいほどの努力の跡だ。
「(……はぐれていたんじゃない。自分から群れを離れたのか)」
他の仲間たちとは違う自分の色。
それが原因で疎外されたのかもしれない。あるいは、「皆と同じやり方では強くなれない」と悟り、自ら「自分だけの強さ」を求めて孤高を選んだのかもしれない。
どちらにせよ、その不器用なまでの直向きさに、俺の心は強く惹かれた。
かつて、色違いの
「
ラルトスが、ココドラから放たれる精神波を感じ取って呟いた。
悲しみではない。そこにあるのは、純粋な、あまりにも純粋な「強くなりたい」という渇望だ。
そして、その奥底にある、「誰かに認めてほしい」という微かな願い。
その時、ココドラが俺たちの気配に気づいた。
彼は修行の手を止め、鋭い眼光で俺たちを射抜いた。
小さな体からは想像もできないほどの圧力が、空気を震わせる。
「グルル……」
喉を鳴らし、威嚇してくる。人間に対する警戒心は相当なものだ。
「邪魔するつもりはない。……ただ、君の戦う姿を見ていたんだ」
俺が一歩前に出ると、ココドラは低い姿勢で構えた。
全身の筋肉がバネのように収縮する。いつでも飛びかかれる態勢だ。
「自分だけの答えを探しているんだな。……なら、俺がその手伝いをしてやろうか?」
「ココォォッ!!」
拒絶の咆哮。
ココドラは、一筋の白銀の閃光となって、俺たちに向かって突っ込んできた。
言葉など不要。力で語れということか。
「(来たな。……受けて立つぞ、鋼の戦士!)」
俺は、覚悟を決めてボールを握りしめた。
孤独な鋼の魂が、地下深くで激突しようとしていた。
静寂だった廃鉱山に、新たな闘志の火が灯った。
この出会いが、俺たちの運命を大きく変えることになる。