アニポケ転生者物語 作:投稿者
ムロタウンの石の洞窟、その最深部にある隠された横穴を抜けた先。俺の目の前には、外の喧騒が嘘のように静まり返った広大な地底湖が広がっていた。天井の鍾乳石から滴り落ちる水滴が、鏡のような水面に小さな波紋を描き、その音が洞窟内に澄んだ音色となって反響している。
ここが、ダイゴさんが教えてくれた「地下水脈」――特定の条件を満たした時にしか姿を現さないという、幻のポケモンの生息地だ。
「ここなら、いるはずだ。……ポリゴンZ、水質の分析を頼む」
『了解。……ミネラル分過多、水温は18度。……ヒンバスの生息適正範囲内に合致。ポイントを算出しました』
俺はポリゴンZが示したポイントに腰を下ろし、折りたたみ式の釣り竿を組み立てた。餌には、ヒンバスが好むとされる「渋味」を極限まで高めた特製ポロックをセットし、糸を垂らす。
一時間……二時間……。
当たりは全くない。隣で見守っていたラルトスも、最初は興味深そうに水面を覗き込んでいたが、やがて退屈そうに大きなあくびをした。
「ラルゥ……」
「そう焦るな。釣りはポケモンとの知恵比べであり、自分自身の忍耐との戦いでもあるんだ。……静かに待てば、必ず応えてくれる」
さらに一時間が経過し、洞窟の入り口から差し込む僅かな光が傾き始めた頃。
ウキが、ピクッ、ピクッと微かに沈み込んだ。魚が慎重に餌をつついているような、独特の感触。
「(来た……!)」
俺は息を殺し、全身の神経を指先に集中させた。ヒンバスは非常に警戒心が強い。一度でも違和感を与えれば、二度と食いつかないだろう。
ウキが一気に水中に沈み込んだ。その瞬間、俺は竿を力一杯、鋭く煽った。
「かかった!!」
「ヒンッ!!」
水面が激しく割れ、泥色の魚影が空中に飛び出した。
ボロボロに見えるヒレ、不規則な茶色の斑点、そしてどこか頼りなげで虚脱したような目つき。世界で一番醜いポケモンと呼ばれ、図鑑でも「みすぼらしい」と記述される、ヒンバスだ。
しかし、その見た目とは裏腹に、針にかかった時の引きは凄まじかった。ヒンバスは必死に地底湖の奥へと逃げようと暴れる。
「逃がさないぞ! ラルトス、『ねんりき』でサポートだ!」
ラルトスの触角が青く光り、水中のヒンバスの動きを鈍らせる。その隙を見逃さず、俺は用意していたボールを投げ込んだ。
カチッ。……ピポォン。
「やった……! ヒンバス、ゲットだ!」
俺はボールを拾い上げ、すぐにヒンバスを出して観察した。折りたたみ式の水槽の中で泳ぐその姿は、確かに華やかさとは無縁だが、その鱗の奥には、磨けば宝石のように輝く真実の美しさが眠っているのを、俺は知っていた。
「……醜いなんて、誰が言ったんだ。お前は、この世界で一番美しくなれる可能性を秘めている。……俺が、それを世界に証明してみせるよ」
「ヒン……?」
ヒンバスは、水槽越しに俺を不思議そうに見つめ返した。
その頃、ムロタウンの砂浜と洞窟の浅瀬では、サトシたちがトウキへのリベンジに燃えていた。
「いいかサトシ! 波を知るには、波に乗るのが一番だ!」
タケシが砂浜に立ち、サーフボードを小脇に抱えたサトシにアドバイスを送る。
「分かってるぜ! 行くぞ、ピカチュウ!」
サトシはサーフボードに飛び乗り、押し寄せる大波に向かって漕ぎ出すが、何度も海に叩きつけられる。
しかし、その背中でピカチュウが覚醒する。ボードの先端で完璧にバランスを取り、青白い電磁力を纏って水面を滑り始めたのだ。
「ピィィィ……カァァァッ!!」
それは、紛れもない『なみのり』の習得だった。ピカチュウは波の力を完璧に手なずけ、颯爽と波濤を越えていく。
一方、洞窟の浅瀬では、新入りのヘイガニもまた、自身の課題に向き合っていた。
相手は、野生のココドラ鉄壁の防御を誇る相手だ。
「ヘイガニ、お前もだ! 波に乗れ! 相手の突進に合わせて、体を回転させるんだ!」
サトシが海から上がり、ヘイガニに指示を飛ばす。
ココドラが『とっしん』で猛然と突っ込んでくる。
これまでなら正面から受け止めて吹き飛ばされていたが、今のヘイガニは違う。
「ヘイッ!」
ヘイガニは波のリズムを思い出し、ココドラがぶつかる瞬間にクルリと体を回転させて衝撃を受け流した。
そして、その遠心力と相手の突進の勢いをそのまま利用し、巨大なハサミを振り下ろす。
『クラブハンマー』!!
強烈な一撃がココドラの頭部を捉え、鋼鉄の体がひっくり返った。
「やった! できたぞ、ヘイガニ!」
「ヘイヘイッ!」
サトシとヘイガニがハサミを合わせて喜ぶ。
「(なるほどな。受け止めるんじゃなく、一体化する。……サトシもポケモンたちも、トウキさんの答えを見つけたみたいだ)」
俺は洞窟から戻る道すがら、遠くで輝くサトシたちの笑顔を眺めていた。
これで、全員の準備が整った。
ミナトのヒンバス、サトシの「波乗りピカチュウ」、そして覚醒したヘイガニ。
ムロタウンのジム戦は、かつてないほど熱い「波」を呼ぶことになるだろう。
俺は新しい仲間が入ったボールを握りしめ、宿へと急いだ。