アニポケ転生者物語 作:投稿者
コンテスト終了後の控室。
華やかな祭りの後の、どこか物悲しい静寂が漂っていた。
鏡の前で化粧を落とすコーディネーターたち。満足げに相棒を撫でる者。そして、俺のようにただうなだれる者。
ハルカもまた、シュウに敗れて落ち込んでいた。
「負けちゃった……。シュウのロゼリア、本当に凄かったなぁ。技の出し方一つとっても、私とは比べ物にならないくらい綺麗だった」
彼女はアチャモを抱きしめ、自分の力不足を噛み締めているようだった。
だが、俺の落ち込みようはそれ以上だった。
ベンチに深く座り込み、両手で顔を覆っている。手元には、泥に汚れ、疲れ切ったヒンバスのボールがある。
「(俺は、何をしていたんだ……)」
そこへ、シュウが通りかかった。
彼はバラの花を胸ポケットに挿し直し、鏡に向かって髪をかき上げている。
ふと、俺の姿に気づくと、彼はフンと鼻を鳴らした。
「君がミナトか。カントーとジョウトを制した、シルフのテスター君。……期待外れもいいところだ」
「なんだと……」
俺は顔を上げ、シュウを睨みつけた。
「君のヒンバス、可哀想だったよ。……あの状況で大技を指示するなんて、正気の沙汰じゃない」
シュウの瞳には、冷徹なまでの軽蔑が宿っていた。
「君は、技の派手さやコンボの難易度、そして『自分の考えた最強の演出』ばかりに気を取られていた。……ヒンバスがどれだけ疲れているか、相手のミロカロスがどこを狙っているか。そんな基本すら見えていなかった」
「俺は、あいつの美しさを引き出そうと……!」
「引き出す?笑わせるな。……君がやっていたのは『押し付け』だ」
シュウは一歩踏み出し、俺の目の前で指を突き立てた。
「コンテストの主役は誰だ?君か?……違うだろ。ポケモンだ。ポケモンの魅力を最大限に引き出すのがコーディネーターの役割なのに、君は自分自身が目立とうとしていた。……あれじゃ、ただのサーカスだ。バトルですらない」
シュウの言葉は、鋭い刃のように俺の胸を抉った。
反論したかった。だが、言葉が出てこない。
エリナに言われたこと、そしてシュウに言われたこと。そのすべてが、今の俺の心に重くのしかかっていた。
俺は、テスターとして、数々のデータを見てきた。
効率の良い戦い方。相手の隙を突く技術。勝利への最短距離。
それらを「コンテスト」という異質の舞台に、そのまま持ち込んでしまった。
「美しさ」を数値化し、パズルのように技を組み合わせ、相手を圧倒することだけを考えていた。
「……その通りだ。返す言葉もない」
俺は深々と頭を下げた。
「ありがとう。……目が覚めたよ。俺は、トレーナーとしても、コーディネーターとしても、未熟だった」
シュウは意外そうな顔をして俺を見つめた。
「……ふん。素直なところだけは評価してあげるよ。……次は、もう少しマシな演技を見せてくれ。……僕を退屈させない程度にはね」
シュウが去った後、俺はハルカと顔を見合わせた。
「私たち、まだまだだね」
「ああ。……でも、いい勉強になった」
ハルカは、無理に笑おうとしている俺の手を、そっと握った。
「ミナト君……。一緒に頑張ろう? 私も、ミナト君がいないとダメみたい」
その言葉は、単なる励まし以上の熱を帯びていた。
「(私、この人の支えになりたい……)」
俺は、新しく買ったばかりのポロックを、ヒンバスの口元に運んだ。
「お前が一番輝ける方法、明日から一緒に考えよう。……俺たちの本当の物語は、ここからだ」
ヒンバスは、俺の指を甘噛みした。
「……痛いけど、嬉しいよ」
その時、ポリゴンZが激しいアラートを発した。
『緊急警報。……カイナシティ近海、潜水艇ドックにて、不自然なエネルギー反応を検知。……海の博物館から奪われた機材が、そこで稼働している可能性があります』
「(まだ終わってなかったのか!)」
俺たちは即座に立ち上がった。
「サトシ!ハルカ!タケシ!アクア団だ!あいつら、まだ街に潜伏してる!」
「なんだって!?絶対許さねえ!」
コンテストの敗北。その苦い味を噛み締めながら、俺たちは再び戦場へと走り出した。
今の俺なら、先ほどよりももっと、相棒たちの「心」を感じながら戦えるはずだ。
嵐の予感を孕んだ夜風が、俺たちの背中を叩いていた。
今度こそ、独りよがりじゃない、本当の強さを見せてやる。