アニポケ転生者物語 作:投稿者
カイナシティの東、切り立った断崖が荒波に削られて連なる入江の奥底。
そこには、潮の満ち引きという自然の摂理によってその入り口が巧みに隠される、巨大な海蝕洞窟が存在していた。
ポリゴンZの高度な広域スキャンと、ダイゴさんから提供された機密探査データによれば、アクア団はここに臨時の秘密アジトを築き、海の博物館から強奪した最新鋭の潜水艇用タービンを使って、旧式の大型潜水艇を極秘裏に改造しているという。
「いたぞ! あそこだ、間違いない!」
サトシが岩陰に身を潜めながら、洞窟の奥を指差す。
洞窟の内部は、外部の静寂とは対照的に、人工的なナトリウムランプの青白い光で不気味に照らし出されていた。数十人のアクア団員たちが、重機や台車を操り、慌ただしく機材を運んでいる。
そしてその中央、巨大なドックのような場所に、鈍い鋼鉄の輝きを放つ巨躯――アクア団の最新鋭潜水艇が、出航の時を待つ獣のように鎮座していた。
「急げ! 間もなく満潮になる! 水位が上がるまでにエンジンを完全起動させるんだ!」
アクア団幹部のウシオが、潮騒に負けない荒々しい怒声で指示を飛ばしている。その周囲では、数匹のサメハダーが水面から背びれを出し、侵入者を拒むように旋回していた。
「……相当な数だな。まともに正面から行けば、多勢に無勢だ」
タケシが冷静に状況を分析し、バックパックからいくつかの道具を取り出す。
「サトシ、ハルカ、マサト君。……ここは二手に分かれよう。俺とサトシたちが正面から注意を引きつけ、その隙にミナトが回り込んでシステムの心臓部を叩く。どうだ?」
「名案だ。タケシ、そっちは任せたぞ」
俺が短く応じると、タケシは頼もしく頷き、自らの相棒であるフォレトスを解き放った。
「よし、作戦開始だ! そこまでだ、アクア団!」
タケシの号令と共に、サトシたちが洞窟の広間へと躍り出る。
「またお前らか! しつこいガキどもめ、海の藻屑にしてやる!」
ウシオが吠え、複数のハイパーボールを投げた。
現れたのは、凶暴なサメハダーの群れと、数匹のキバニア。さらに、周囲の団員たちも一斉にポチエナを繰り出してくる。
「まとめて海の底へ沈めてやれ! やれぇ!!」
「行くぜ、ピカチュウ! 『10まんボルト』で水ごと痺れさせてやれ!」
「アチャモ、援護して! 『ひのこ』で足元を狙うのよ!」
「フォレトス、俺たちの背後は任せたぞ! 『まきびし』で団員たちの接近を阻むんだ!」
タケシが的確な指揮を出し、混乱する乱戦の中でサトシたちの防御陣を固める。タケシの冷静なサポートがあるおかげで、サトシとハルカは目の前の敵に集中できていた。
乱戦が最高潮に達する中、俺はポリゴンZと共に天井の岩棚を伝い、潜水艇の制御デッキへと肉薄していた。
ココドラとラルトスを側に控えさせる。ヒンバスは今の戦力にはならないが、彼とのコンテスト特訓で学んだ「相手の全方位を観察する」という意識は、確実に俺の指揮に研ぎ澄まされた変化をもたらしていた。
「ココドラ、ラルトス。……今日は力押しじゃない。フィールド全ての情報の波を『読んで』戦うぞ」
「サメハダー、『アクアジェット』!!」
ウシオが、潜水艇の影から俺に気づき、奇襲を仕掛けてくる。水の鎧を纏ったサメハダーが、弾丸のような速度で岩棚を削りながら突っ込んできた。
「ココドラ、正面から受けるな。……三時の方向、支柱の影へスライド回避!」
「ココッ!」
ココドラは重厚な見た目に反し、精密な足捌きでサメハダーの突進を紙一重でかわした。
サメハダーは勢い余って鋼鉄の潜水艇のハッチに激束し、鈍い金属音を響かせる。
「今だ、ラルトス! 『マジカルリーフ』を乱反射させろ。サメハダーの視覚センサーを飽和させるんだ!」
ラルトスの目が神秘的な虹色に輝くと、色とりどりの光る葉っぱが出現。それらは潜水艇の表面で反射を繰り返し、サメハダーの周囲を万華鏡のような光の牢獄で包み込んだ。
「視界を奪った! ココドラ、一点集中……最大火力の『メタルクロー』!」
ココドラが死角から飛び出し、サメハダーの唯一の弱点である腹部へと、銀色に輝く爪を叩き込んだ。
ガギィィッ!! という衝撃音。
効果は抜群だ。サメハダーは苦鳴を上げ、海水が流れ込むドックの底へと沈んだ。
「おのれ……! キバニア、数で押し潰せ!」
ウシオがなりふり構わず増援を投入してくるが、タケシたちの奮闘により、その大半は食い止められていた。
「ミナト! こっちは大丈夫だ、早く装置を止めろ!」
タケシがイシツブテを繰り出し、団員たちの連携を『がんせきふうじ』で分断しながら叫ぶ。
「了解だ! ポリゴンZ、システムにダイレクトアクセス! エンジン出力を強制デリートしろ!」
『承認。……セキュリティプロトコル突破。……エンジン点火シーケンス、抹消完了』
ポリゴンZが潜水艇のメインフレームを完全にクラッキングし、巨大なディーゼル音が嘘のように消えた。
「チェックメイトだ、ウシオ。……これ以上は、ただの無駄骨だぞ」
「……くっ、今日はこの辺にしておいてやる! だが、海は必ず我々の、アオギリ様の物になるのだ!」
ウシオは悔しげに叫ぶと、非常用の小型脱出艇に飛び乗り、満ち始めた潮の流れに乗って闇の中へと逃亡していった。
洞窟に静寂が戻る。
逃げ遅れた団員たちは、俺たちが事前に通報していたジュンサー率いる警察隊によって次々と連行されていった。
クスノキ館長の盗まれた最新鋭部品も、幸いなことに無傷で回収することができた。
「やったな、みんな。タケシも、助かったよ」
俺はポケモンたちを労い、駆け寄ってきたタケシと拳を合わせた。
「はは、いい連携だったな。ミナト、お前のあの精密な指揮……まるでバトルの『波』を完璧に見切っているようだったぞ」
タケシの言葉に、俺は少しだけ照れ臭さを感じながらも、自身の成長を実感していた。
洞窟の外へ出ると、夜空には美しい満月が輝き、穏やかな海面を銀色の絨毯のように照らし出していた。
潮風が、戦いの熱を帯びた俺たちの頬を優しく撫でる。
キャモメが、役目を果たしたと言わんばかりに俺の肩に止まり、満足げに羽を休めた。
俺は、ベルトにあるヒンバスのボールにそっと触れた。
「見たか? ……次は、お前とあんな風に戦うんだ。強くて、美しくて、そして何より自分自身を誇れるような、そんな戦いをな」
ヒンバスのボールが、ポポッ、と小さく振動して返事をした気がした。
これで、カイナシティでの長い事件は一区切りだ。
コンテストでの苦い経験、アクア団との激しい衝突。
多くの失敗があった。しかし、それ以上に多くの「気づき」を得ることができた。
俺たちは、一人の人間として、そしてトレーナーとして、また一つ確かな階段を登ったのだ。
「さて、次はキンセツシティだな。……電気のジムか」
「ピカチュウの出番だぜ! 腕が鳴るなぁ!」
サトシが元気よく拳を突き上げ、ハルカとマサトも次なる街への期待に顔を輝かせる。
俺たちは、新しい地図を広げ、次なる目的地へと歩み出した。
水平線の向こうには、まだ見ぬ強敵と、さらなる絆の物語が待っている。
俺のホウエンの旅は、ここからさらに深く、そして熱く加速していく。