アニポケ転生者物語 作:投稿者
第223話
カイナシティでのアクア団との激闘、そしてコンテストでのほろ苦い経験から数日。俺たちは海風の匂いが残る110番道路を北上していた。
この道は、海の上に架けられた巨大な建造物「サイクリングロード」の真下を通る、心地よい木陰の道だ。頭上からは時折、颯爽と駆け抜ける自転車の走行音が軽快に響いてくる。
俺は一足先にポリゴンZと共に周辺の地磁気データを収集するため先行していたが、キンセツシティの巨大な正門が見えてきたところで、後方から聞き慣れた賑やかな声が近づいてくるのに気づいた。
「おーい! ミナト! 先に行きすぎだぞー!」
サトシがピカチュウを肩に乗せ、全力で走ってくる。その後ろからは、大きなバックパックを背負いながらも涼しい顔で歩くタケシ、そして地図を片手に「もう、サトシ君は元気すぎ!」と苦笑いするハルカと、ポケナビを熱心に弄っているマサトが続いていた。
「よう、サトシ。タケシも。……無事に合流できたな」
俺が手を挙げると、一行は俺の元へ駆け寄ってきた。
「ったく、ミナトは相変わらず歩くのが早いんだから。……でも見てよ! あの門の向こう、凄そうじゃない!?」
ハルカが指差す先、キンセツシティの入り口には、最新鋭のセキュリティゲートと、街の電力を象徴するような巨大な避雷針のオブジェがそびえ立っていた。
「ああ、ここがホウエン地方の交通の要衝、そして『電気の街』キンセツシティだ。カントーのヤマブキシティが歴史ある大都市なら、ここはゼロから設計された完全な近未来都市と言えるだろうな」
俺の言葉通り、一歩街の中へ踏み込むと、そこには別世界が広がっていた。
道路は全て滑らかな特殊舗装が施され、街の至る所に設置された巨大なホログラムディスプレイが、最新のニュースや天気予報を映し出している。煌びやかなネオンと、電子工作のショップから流れてくる楽しげな電子音が空気に溶け込み、歩いているだけで神経が活性化されるような独特のエネルギーに満ちていた。
「すっげえ! 街中がピカピカしてる! なあピカチュウ、お前の仲間もいっぱいいるのかな!」
サトシが目を輝かせて走り出す。彼の視線の先には、巨大なスロットマシンを模した看板がひしめくゲームコーナーや、最新のポケモンバトル用ギアを扱うショップが並んでいた。
「見て見て! あのルーレット、景品が全部ポケモンのぬいぐるみよ! 楽しそう!」
ハルカも特設ステージの催し物に釘付けだ。
「自転車屋に、ハイテクフードコート……。この街の都市設計、機能美が完璧だね。ミナトさん、あそこの管制塔は何?」
マサトが街の中央にそびえ立つ、ひときわ高いタワーを指差した。
「あれがキンセツジムだ。この街の電力制御システムも兼ねているらしい」
俺は、ポリゴンZに街のエネルギー供給網の予備スキャンを命じた。
『スキャン開始。……地下に大規模な高圧送電ラインを複数確認。……特異点発見。一部の区画で電圧の周期的な揺らぎを検知。原因不明のノイズが混入しています』
デバイスの画面に、地下の複雑な配線図が重なり合う。赤く点滅するエラーエリアが、旧市街地の下に広がる巨大な空洞へと続いていた。
「(やはりな。……ニューキンセツ。物語の裏側で何かが動き始めている)」
俺たちが感心しながら街を歩いていると、広場の方から「ガハハハ!」という腹の底から響くような豪快な笑い声が聞こえてきた。
人混みを割って現れたのは、黄色いアクティブなベストに身を包んだ、小柄ながらもエネルギーの塊のような老人だった。髪型はまるで稲妻をそのまま固定したかのように鋭く逆立ち、その瞳には悪戯っ子のような輝きが宿っている。
「ワッハッハ! ようこそ若き挑戦者たちよ! キンセツシティへ! ワシの街はどうだ、いい刺激だろう!?」
「あなたは……?」
サトシが尋ねると、老人は腰に手を当てて胸を張った。
「ワシか? ワシはこの街のジムリーダー、笑う電撃トレーナー、テッセンじゃ! ……お前さんたち、いい面構えをしておるな!」
テッセンさんは、初対面の俺たちをまるで旧知の仲のように歓迎してくれた。
「この街はな、昔は何もないただの荒野じゃった。それをワシらが、皆で知恵を出し合い、力を合わせてここまで発展させたんじゃ。……電気は街の血液。そして、お前さんたちのような若者の笑顔こそが、この街を動かす真のエネルギーなんじゃよ!」
「笑顔がエネルギー……。素敵な考え方ですね、テッセンさん」
タケシが感心したように頷くと、テッセンさんは「そうだろう、そうだろう!」とタケシの肩を叩いた。
「おっ、そこのお兄さんは料理が上手そうじゃな! ……おや?」
不意に、テッセンさんの鋭い眼光が、サトシの肩に乗ったピカチュウに向けられた。
「……そのピカチュウ、少しばかり帯電が過ぎるのではないか? 顔色が青白いぞ」
テッセンさんは、一目でピカチュウの異常な状態を見抜いた。
「えっ? 分かりますか? 実はカイナシティでロケット団の変なメカに捕まって、無理やり電気を溜め込まされちゃって……」
サトシが心配そうに説明する。ピカチュウも「ピカ……」と、重たそうに耳を垂らした。
「なるほど、過充電か。……これだけの容量、普通の放電では追いつかんな。……まあ良い! ジム戦で思いっきりワシのポケモンにぶつけてくるといい! ワシがその余分な電気、全部受け止めてやるわい!」
テッセンさんは豪快に笑い飛ばすと、俺たちを中央のジムタワーへと誘った。その背中からは、ただ陽気なだけでなく、この街のインフラ全てを統括し、守り抜いてきた男の揺るぎない自信と器の大きさが感じられた。
「(ピカチュウの過充電状態……。アニメではこれが原因で、ピカチュウの全能力が一時的に限界突破し、テッセンさんのポケモンを文字通り瞬殺してしまうんだよな……)」
俺は、これから起こるであろう一方的な展開を予見しながらも、あえて口を挟むことはしなかった。
サトシにとって、この「不本意な勝利」は、トレーナーとしての力の制御、そして相手への敬意というものを学び直すための、避けては通れない試練になるはずだ。
強すぎる力が、時として大切なものを傷つける。その痛みを、彼はここで知る必要がある。
「サトシ、俺は少しこの街のシステムを見て回ってからジムに行く。……先に行っててくれ」
「おう! 任せとけ! ピカチュウの電気、テッセンさんにドカンとぶつけて、バッジをゲットしてくるぜ!」
サトシたちは意気揚々とジムのゲートをくぐっていった。
俺は一人、煌びやかなメインストリートを外れ、古い鉄扉が並ぶ裏通りへと足を向けた。
ポリゴンZが検知した、地下からの不気味なノイズ。
それは、最新テクノロジーに彩られた都市の足元に広がる、打ち捨てられた巨大な闇――「ニューキンセツ」への入り口を示していた。
「(電気の街の、光と影……。テッセンさんの笑顔を守るためにも、裏のトラブルは俺が片付けておくべきだな)」
俺は、人通りの途絶えた路地裏にある、重厚な錆びたシャッターの前に立った。
そこには「関係者以外立入禁止」のプレート。
俺はデバイスを端子に接続し、クラッキングを開始した。
「行くぞ、ポリゴンZ。……これが、俺たちのスタイルの仕事だ」
『了解。……セキュリティバイパス完了。地下迷宮へのアクセスを許可します』
静かに開いた扉の向こう側から、オゾンと埃の混ざった古い匂いが漂ってきた。
俺たちのキンセツシティでの冒険は、この街の心臓部のさらに深淵へと、真っ直ぐに繋がっていた。