アニポケ転生者物語 作:投稿者
俺は、ニューキンセツへと続く裏路地の重厚な鉄扉の前で、一旦足を止めていた。
ポリゴンZの解析によれば、この扉のセキュリティは物理的な鍵に加え、生体認証を含む多重ロックで守られている。
強引に突破することも不可能ではないが、それをやれば俺自身が不法侵入者として街の警備システムにロックオンされてしまうだろう。
「(焦るな。……正規のルートで鍵を手に入れるのが一番早道だ)」
俺はデバイスをしまい、煌びやかなメインストリートへと戻った。目指すは、街のエネルギー管理責任者でもあるジムリーダー、テッセンのいるジムタワーだ。
ジムの前に到着すると、ちょうど自動ドアが開き、サトシたちが重い足取りで出てくるところだった。
サトシの手には、黄色く輝くダイナモバッジが握られている。勝利した証だ。
しかし、その顔には勝利者特有の高揚感はなく、どこか戸惑ったような、納得のいかない表情が張り付いていた。肩に乗ったピカチュウも、いつもの元気がなく、青白い顔色のままだ。
「お、サトシ! 早かったな。……その様子だと、バッジはゲットできたみたいだが?」
俺があえて明るく声をかけると、サトシはビクッと肩を震わせ、弱々しく笑った。
「あ、ああ……ミナト。……勝った、勝ったんだけど……なんか、違うんだ」
「違う?」
「あっけなかったんだ。……ピカチュウがちょっと技を出しただけで、テッセンさんのポケモンが一撃で……黒焦げになっちまって。相手の技を受ける暇もなく、バトルが終わっちまった」
サトシは複雑な表情でピカチュウを見る。ピカチュウ自身も、自分の力の制御が効かず、相手を傷つけてしまったことに戸惑い、申し訳なさそうに耳を垂れている。
「ピカ……」
「……やはり、過充電の影響が出たか」
俺は静かに言った。
「今のピカチュウは、ロケット団のメカによって通常の何倍もの電力を無理やり溜め込まされていた。さっきのバトルは本来の実力じゃなく、いわばエネルギーの暴走による事故のようなものだ」
「暴走……。じゃあ、俺は自分の力で勝ったんじゃないのか……?」
サトシの声が沈む。
「テッセンさんは『運も実力のうち』って笑ってバッジをくれたけど……でも、俺はもっと熱いバトルがしたかったんだ。ギリギリまで競り合って、お互いの全力を出し切って……そういう勝利が欲しかったんだ!」
サトシは悔しそうに拳を握りしめた。
その純粋な向上心こそが、サトシというトレーナーの最大の武器だ。まぐれ勝ちを喜ぶのではなく、自分の未熟さを恥じ、相手への敬意を忘れない心。それが彼を、いつかポケモンマスターへと導くのだろう。
「勝負は勝負だ。テッセンさんも、お前のその心意気を認めてバッジをくれたんだろ? なら、それは正当な勝利だ」
俺はサトシの肩に手を置いた。
「でも、お前自身が納得できてないなら……それはお前にとっての『本当の勝利』じゃないのかもしれないな」
サトシはバッジを強く握りしめ、ジムの方を振り返った。
「……俺、もう一回テッセンさんとバトルしたい。今度は、ピカチュウの調子を戻して、正々堂々と! ……いや、ピカチュウだけじゃない。ヘイガニやキモリ、みんなの力で勝ちたいんだ!」
「いい心意気だ。……だが、今はテッセンさんもそれどころじゃないかもしれないぞ」
ジムの入り口から、作業服を着て、黄色いヘルメットを被ったテッセンさんが慌ただしく出てきた。先ほどのバトルでの敗北など微塵も感じさせない、街を守る仕事人の顔だ。
「おお、ミナト君! ちょうどよかった! ……いやぁ、参った参った。地下の発電所『ニューキンセツ』でトラブルが発生してな。これから調査に行かねばならんのじゃ」
「やはり、ニューキンセツですか」
俺は頷いた。「実は俺も、地下からの異常なノイズを検知して調べていたところなんです」
「なに? さすがは噂に聞くシルフのテスターじゃな! ……実は、制御システムが何者かに外部からハッキングされた形跡があってな。自動防衛システムが暴走して、作業員も入れない状態なんじゃ。このままでは街の電力がストップしてしまうかもしれん」
「俺に行かせてください」
俺は迷わず名乗り出た。
「俺にはポリゴンZがいます。電子システムのトラブルなら、彼が最適です。それに、テッセンさんにはジムリーダーとして、この混乱する街をまとめる務めがあるでしょう?」
「むむ……。確かにそうじゃが、あそこは迷路のように入り組んでいて危険じゃぞ?」
「百も承知です。……それに、俺もこの街の電気にはお世話になってますから。恩返しをさせてください」
テッセンさんは俺の目をじっと見て、やがてニカっと笑った。
「ほう、それは頼もしい! ……では、若者の勇気に甘えるとしようか! 頼んだぞ、ミナト君!」
テッセンさんは、懐から古びたカードキーを取り出し、俺に手渡した。
「これが『ちかのカギ』じゃ。これがあれば、あの裏路地の扉も開くはずじゃ」
「ありがとうございます! ……サトシ、お前はここでピカチュウの電気を抜く特訓をするんだ。俺が戻るまでにな」
「分かった! ……気をつけてな、ミナト! 何かあったらすぐに呼んでくれよ!」
俺はサトシたちに見送られ、再びあの裏路地の扉へと向かった。
手の中にある『ちかのカギ』の冷たい感触。
サトシの葛藤、そして地下の異変。
それぞれの戦いが始まろうとしていた。
「行くぞ、ポリゴンZ。……今度こそ、本番だ」
『了解。……セキュリティ解除コード、受信完了』
俺たちは、閉ざされた地下への扉を開き、電気の街の深淵へと足を踏み入れた。