アニポケ転生者物語 作:投稿者
地下最深部、中央制御室の前。
厚さ50センチはあるだろう巨大な防爆扉が、行く手を完全に阻んでいた。
その扉の横、配線パネルがこじ開けられ、明らかに後付けされた無骨な黒い装置がメインケーブルに割り込ませてあった。
「これは……軍事用のハッキングデバイスか?」
俺は装置を慎重に調べた。
作りは粗雑だが、出力は異常に高い。無理やりシステムの中枢に介入し、ウイルスプログラムを強制的に流し込んでいるようだ。
装置の側面には、見覚えのあるマーク――火山の噴火を模した『M』の紋章が刻まれている。
「マグマ団……!」
「あいつら、カイナでデボンの荷物を狙っていただけじゃなく、都市のエネルギーインフラそのものを掌握しようとしていたのか」
キンセツシティの膨大な地熱発電エネルギーを利用して、何かを目覚めさせるための実験か、あるいは活動資金のためのエネルギー強奪か。
いずれにせよ、彼らの目的のために、何十万人もの人々が暮らすこの街が犠牲になろうとしている。
「ポリゴンZ、このデバイスの通信ログを逆探知できるか?」
『解析中。……送信先座標特定。……煙突山方面、秘密アジトと思われるポイントです。……データ転送は既に完了していますが、自己消滅型のウイルスプログラムが残留し、システムを破壊しようとしています』
「つまり、用済みになったこの施設を暴走させて、証拠隠滅を図っているわけか」
許せない。
街の人々の生活を支える発電所を、使い捨ての道具のように扱うなんて。
「笑顔がエネルギー」だと語ったテッセンさんの想いを、こんな形で踏みにじらせはしない。
「ポリゴンZ、システムにダイレクトインして暴走を食い止めろ! ウイルスを駆除して、制御を取り戻すんだ!」
『了解。……フルダイブモード、起動。……電子障壁、突破します』
ポリゴンZが電子の粒子となってコンソールに吸い込まれていく。
だが、その直後、施設内にけたたましい警報音が鳴り響いた。
『侵入者検知。……排除モード、起動。……セキュリティレベル・マックス』
防爆扉がゆっくりと開き、中から不気味な機械音と共に、マグマ団が残していった「番犬」たちが現れた。
改造され、リミッターを解除された巨大なレアコイル。そして、天井から吊り下げられた複数の自律型レーザー砲台。
「(サカキのメカポケモンほど精巧じゃないが、火力が桁違いだ)」
「ココドラ、前に出ろ! 『てっぺき』で盾になれ!」
ココドラが瞬時に装甲を硬化させ、レアコイルから放たれた『トライアタック』の冷気・電撃・炎の奔流を真正面から受け止める。
「ラルトス、砲台の照準を『ねんりき』でずらせ!」
ラルトスの目が光り、頭上のレーザーが俺たちの足元を焼き払う。紙一重だ。
俺たちが物理的な防衛システムと死闘を繰り広げている間、モニターの中ではポリゴンZがウイルスとの壮絶な電脳戦を展開していた。
俺はデバイスのキーボードを叩き、ポリゴンZをサポートする。
「ポリゴンZ、右の回路にバックドアがある! そこから回り込め!」
『肯定。……ファイアウォール迂回。……ウイルスの中核に到達!』
モニターには、ポリゴンZを表す青い光の粒子と、マグマ団のウイルスを表す赤い触手がせめぎ合う様子が、複雑なグラフとなって表示されている。
「頑張れ、ポリゴンZ! 俺たちもここを死守する!」
「キャモメ、『つばめがえし』でレアコイルのメインカメラを狙え!」
キャモメが天井の隙間を縫うように急降下し、鋭く切り込む。レアコイルが怯み、磁場が乱れる。
「今だ! ココドラ、『あなをほる』!」
ココドラが床下の配線ダクトに潜り込み、レアコイルの真下から突き上げた。
ドガァッ!!
装甲ごとかち上げられたレアコイルが壁に激突し、機能停止する。同時に、ラルトスが最後のレーザー砲台を念力でねじ切った。
「よし! あとはシステムだ!」
モニターのグラフが、赤から青色へと一気に染まっていく。
『ウイルス駆除完了。……システム・再起動。……ファイアウォール、再構築。……制御権、奪還しました』
部屋を赤く染めていた警告灯が消え、穏やかな緑色のステータスランプが点灯した。
暴走していたジェネレーターの不気味な回転音が収まり、安定した重低音へと変わっていく。
「……終わったか」
俺はその場に座り込み、大きく息を吐いた。
マグマ団の痕跡。それは、これからホウエン地方全土を巻き込む大きな戦いの、ほんの序章に過ぎないことを予感させた。
だが、ひとまずはこの街の平穏を守ることができた。
「帰ろう。……テッセンさんが心配してる」
俺たちは、静けさを取り戻したニューキンセツを後にした。
地上に出ると、夕焼けが街を赤く染めていた。
その色は、マグマ団の不気味な赤ではなく、明日への希望を告げる温かいオレンジ色に見えた。
俺の手の中にある、過熱して熱を帯びたデバイスが、確かな勝利と、ポリゴンZの奮闘を伝えていた。
だが、戦いはまだ終わっていなかった。
地底深くで、最後の火種がくすぶっていたのだ。