アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第230話

「……やるのう。相性の不利を、スピードとタイミングで覆すとは。まさにテスターらしい、鮮やかな初手の処理じゃな」

テッセンさんは、キャモメに敗れたコイルを労いながらボールに戻すと、次に繰り出したレアコイルの放つ磁気嵐の中で、一層激しい闘志を燃え上がらせた。

「だが、ここからが本番じゃぞ! 先ほどまでの小細工は、このレアコイルの磁界の中では通用せん! 覚悟はいいか!」

 

「望むところです。……ココドラ、お前の力を見せてやれ!」

俺の指示に応え、白銀の装甲を持つココドラが、金属の床を力強く踏みしめる。一匹目のキャモメがもぎ取った一勝というアドバンテージ。それをさらに確実なものにするため、俺はグラス型デバイスの出力を最大へと引き上げた。

 

網膜に投影されるウィンドウには、レアコイルを中心に渦巻く強力な電磁界のベクトルが、複雑な幾何学模様となって描かれる。ココドラの周囲には、鉄壁の守りを示す青いシミュレーション・ラインが重なり合った。

「レアコイル、先手必勝じゃ! 『ソニックブーム』!!」

 

テッセンさんの鋭い号令と共に、レアコイルが三つの磁石を同調させて超高速回転を開始した。大気が物理的に引き裂かれ、不可視の衝撃波が鋭い刃となってココドラに殺到する。グラス型デバイスには、扇状に広がる圧力波の到達予測時間がコンマ単位で表示される。回避は不可能だ。

「ココドラ、逃げるな! 重心を極限まで下げて装甲の耐久値を最大に保て。正面からすべて受け止めろ!」

ココドラは四肢を床にめり込ませるほどの力で踏ん張り、自慢の鋼鉄の鎧で衝撃波を真っ向から受け止めた。ガギィィン!! という耳を劈く金属音がジム内に響き渡る。凄まじい風圧に押し流されそうになりながらも、ココドラは火花を散らして耐えきった。

 

「硬いのう! さすがは過酷な廃鉱山を生き抜いてきた個体じゃ。だが、これはどうじゃ! 『きんぞくおん』!!」

レアコイルが磁石を激しく共鳴させ、特定の周波数の高周波を発生させた。

俺のデバイスにも激しいノイズが走り、ココドラが不快そうに首を振る。特防を強引に引き下げ、精神的なダメージを与える音波攻撃だ。グラス型デバイスの波形解析によれば、ココドラの装甲の固有振動数に合わせて共振を引き起こし、内部から破壊しようとしている。

「(焦るな。ノイズキャンセリング機能を応用しろ……)ココドラ、唸り声を上げろ! 自分の声で逆位相の波形を作り、攻撃を相殺するんだ!」

ココドラが低く太い咆哮を上げると、不快な金属音が物理的に干渉し合い、僅かに和らぐ。その一瞬の隙を、俺は見逃さなかった。

 

「今だ、ココドラ! 『どろかけ』でセンサーを物理的に封鎖しろ!」

ココドラが足元の金属床の隙間に溜まっていた塵やオイル、そして自身のエネルギーを混ぜ合わせた粘土質の泥を巻き上げ、レアコイルの単眼に向けて浴びせた。

「むっ、視界を奪うか! だが磁力があれば位置は……」

「磁力ごと埋めてやる! 『あなをほる』!」

 

ココドラは、テッセンさんの次の指示よりも早く、鋼鉄の床を強引にぶち抜き、床下の配線スペースへと潜り込んだ。

「地中戦法か! レアコイル、磁場の乱れから地面を探れ!」

レアコイルが低空飛行に移り、地面から発せられる微弱な生体磁気を感知しようとする。

 

「(そこだ、レアコイルの出力が不安定になった瞬間を狙え!)」

 

レアコイルの真下の床が爆発するように弾け、ココドラが突き上げた。地面タイプの技は、電気・鋼の複合タイプであるレアコイルにとって、4倍のダメージを与える致命的な一撃だ。

「ギギギィッ!?」

結合部から激しく火花を散らしながら、レアコイルが上空へ弾き飛ばされる。

 

「効いたぞ! ……だが、まだ倒れん! ゼロ距離からの『10まんボルト』じゃあ!!」

テッセンさんが叫ぶ。レアコイルは空中で執念の体勢立て直しを見せ、密着した状態のココドラに向けて、オーバーロード寸前の電撃を放った。

バリバリバリッ!! という激しい衝撃音。

だが、俺は不敵に笑った。この展開は、ニューキンセツの制御室での戦いで既に予習済みだ。

「ココドラ、回転しろ! 遠心力で電気の粒子を振り払え!」

 

ココドラは空中へ弾き飛ばされた勢いをそのまま利用し、装甲を高速回転させた。放たれた電撃は回転する鋼鉄の表面を滑り、接触時間を最小限に抑えることで、ダメージを大幅に減衰させて四方八方へと散っていく。

「(避雷針としての役割を完璧にこなしてきたお前にとって、この程度の電撃は想定の範囲内だ)」

 

「トドメだ、回転を加速させて突っ込め! 『とっしん』!!」

回転する白銀の弾丸と化したココドラが、重力加速度を伴ってレアコイルへと肉薄した。

金属がひしゃげる凄まじい音がスタジアムに響き渡り、レアコイルはフィールドの端にある電磁防護壁まで一気に吹き飛ばされ、そのまま火花を上げて動かなくなった。

 

「レアコイル、戦闘不能! !!」

 

スタジアムの巨大モニターに、ミナトの勝利を告げるマークが点灯した。観客席からは、精緻なデータ管理と、泥臭いまでの根性が融合した戦いぶりに、割れんばかりの歓声が上がった。

「……見事じゃ。地面技による一点突破と、回転による完璧な防御。ニューキンセツのトラブルさえも自らの糧にして、技の『質』を高めておったとはな」

テッセンさんはレアコイルを優しくボールに戻すと、悔しさよりも、新しい時代の才能に出会えた喜びを爆発させるように豪快に笑った。

「君のココドラ、ただ硬いだけではない。状況に応じて瞬時に最適解を導き出す……まさしく、君というトレーナーの鏡じゃな」

 

「ありがとうございます。……ですが、本当の勝負はここからですよね?」

俺が不敵に問いかけると、テッセンさんの瞳に、より激しく鋭い稲妻のような光が宿った。

 

「もちろんだとも! ワシの最後の一匹は、そう簡単にはいかんぞ! このキンセツの雷そのもの……受けてみるがいい! ……出てこい、ライボルト!!」

 

テッセンさんの真の切り札、ライボルト。

鋭い牙と、青い稲妻を象った美しい鬣を持つ俊足の捕食者が、天を仰ぐ咆哮と共にフィールドに現れた。

その存在感は、先ほどのレアコイルとは完全に別次元だ。立っているだけで、周囲の空気が静電気でビリビリと震えていた。

 

「ココドラ、戻れ。よく頑張ってくれた」

俺は消耗したココドラを労い、ボールに戻した。掌に残る、熱を持ったボールの温度。

「最後は、お前に託すぞ。……お前の『目』なら、あいつを捉えられるはずだ」

 

俺は、ベルトの最後の一つ、ラルトスのボールを握りしめた。

トウカの森で出会い、共に数え切れないほどのシミュレーションを重ねてきたエスパー。

彼女の予知能力と、俺の電脳演算。その二つが完全に重なった時、初めてこの「雷」を越えることができる。

 

「行け、ラルトス!」

 

「ラルッ!!」

小さな、しかし凛とした佇まいのラルトスが、巨大なライボルトの前に静かに降り立つ。

電気の獣と、心眼の少女。

光速の攻防が繰り広げられる、真のクライマックスが、今、幕を開けようとしていた。

 

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