アニポケ転生者物語 作:投稿者
煙突山を下山し、フエンタウンへの道を進んでいた俺たちは、山間の盆地に広がる情緒あふれる温泉街、「ユノハナタウン」に立ち寄った。
ここはフエンタウンの奥座敷とも呼ばれ、古くからの湯治場として知られる隠れた名所だ。
街の至る所から白い湯けむりが立ち上り、夜には特産の花火が打ち上げられるという、風情ある街並みが広がっている。
だが今日、この静かな街はいつもとは違う熱気に包まれていた。
街の中央広場に設営された特設ステージには、色鮮やかな旗がはためき、多くの観客が集まっている。
『祝・開湯百年記念! ポケモンコンテスト・ユノハナ大会、本日開催!』
「コンテストか……」
俺は足を止め、ポスターを見つめた。
カイナシティでの苦い敗北が脳裏をよぎる。ヒンバスの「美しさ」を理解できず、独りよがりな演出で彼に恥をかかせてしまったあの日。
ハジツゲタウンに向かったハルカも、今頃コンテストに向けて頑張っているはずだ。
「(逃げてちゃダメだ。……ここで、リベンジする)」
俺は腰のベルトから、ダイブボールを手に取った。
「ヒンバス。……もう一度、ステージに立ってみないか? 今度こそ、お前の本当の輝きを、世界に見せてやろう」
ボールから出たヒンバスは、俺の顔をじっと見つめ、そして力強く尾びれを振った。
「ヒンッ!」
その瞳には、カイナの時のような怯えはない。タケシ特製のポロックを食べ、鱗も以前より健康的な艶を帯びている。
俺は飛び入りでエントリーを済ませた。
公式のリボンがもらえる大会ではないが、この地方の実力者たちが腕試しに集まる、レベルの高い草コンテストだ。
一次審査、パフォーマンスステージ。
俺の出番が回ってきた。
「エントリーナンバー18番! ミナト選手とヒンバス!」
ステージの中央、水槽プールにヒンバスを放つ。
観客席からは、「あら、ヒンバス?」「地味ねぇ」という落胆の声が漏れる。カイナの時と同じだ。だが、今の俺は動じない。
「ヒンバス、飾り気なんていらない。お前のありのままを見せてやれ! 『みずあそび』!」
ヒンバスが水しぶきを上げ、ステージ全体に霧のようなミストを撒き散らす。
「そして、『あられ』!」
上空から氷の粒が降り注ぎ、ミストの中でキラキラと輝き始めた。
温泉街の湯気と冷気が混ざり合い、ステージ上に幻想的なダイヤモンドダストが発生する。
ヒンバスはその光の中を、ただゆっくりと、優雅に泳ぐ。
決して無理なジャンプや派手な回転はさせない。ヒンバスが一番自然体でいられる、水との一体化。
泥色に見えた体色が、氷のプリズムを通すことで、虹色のような複雑で奥深い色彩を放ち始めた。
「おおっ……! なんだか、とても幻想的だ」
「地味だけど、目が離せないわ。まるで水墨画みたい」
観客たちのざわめきが、感嘆の溜息へと変わっていく。
派手な爆発や光線はない。だが、そこには確かな「生命の美しさ」と「静寂の品格」があった。
「いいぞ、ヒンバス。その調子だ」
俺は心の中でガッツポーズをした。
審査員の評価も上々だ。
「素材の良さを深く理解した、素晴らしい演出です。派手さで誤魔化さない、ポケモンの本質を見る目を持っていますね」
結果、俺たちは高得点を叩き出し、無事に二次審査のコンテストバトルへと進出した。
カイナでのトラウマを、俺たちは一つ乗り越えたのだ。
「次はバトルだ。……相手は、アゲハントか」
対戦相手のポケモンは、華麗な舞を得意とするアゲハント。虫・飛行タイプは相性的には悪くないが、コンテストバトル特有の「魅せる戦い方」が求められる。
「行くぞ、ヒンバス。……俺たちの『対話』を、このステージで見せてやれ!」
ゴングが鳴り響く。
リベンジマッチの始まりだ。