アニポケ転生者物語 作:投稿者
第243話
フエンタウンでの温泉とバトルの余韻を背に、俺たちは煙突山の北側を迂回し、113番道路へと足を踏み入れた。
そこは、ホウエン地方の中でもひときわ異彩を放つ場所だった。
空から雪のように白い粒が降り注ぎ、辺り一面を銀世界のように染め上げている。だが、それは冷たい雪ではない。
煙突山から絶え間なく降り注ぐ、少し温かみのある「火山灰」だ。
「(これが火山灰の草原か。……幻想的だが、喉には良くなさそうだな)」
俺はマスクを装着し、足元に積もった灰をサクサクと踏みしめながら進んだ。
灰の中からは、独特のブチ模様を持つパッチールたちがひょっこりと顔を出し、フラフラとした予測不能な足取りで歩いている。
「ポリゴンZ、火山灰の成分を分析しろ。……それから、パッチールの個体ごとの模様の相関関係も記録だ」
『了解。……火山灰には高濃度のミネラルが含まれています。ガラス細工の原料として適しています。……パッチールの模様は、現在の計算機能力では「40億通り以上の組み合わせ」と推測され、同一の個体を発見する確率は天文学的に低いです』
テスターとしての好奇心を刺激されながら歩いていると、灰の中にキラリと光るものがあった。
「ジグザグマ、なんだあれは?」
「
ジグザグマが灰の中に飛び込み、中から小さな黒い欠片――『くろいビードロ』を掘り出した。
火山灰を加工して作られる、野生ポケモンを寄せ付けなくする特殊な笛の素材だ。
「よく見つけたな。……お前、この灰の中でも鼻が利くんだな」
ジグザグマは得意げに鼻を鳴らしたが、その直後、灰の中から巨大な影が飛び出してきた。
縄張り意識の強い野生のエアームドだ。
灰を纏ったその翼は、銀色ではなく鈍い灰色に輝いている。鋼の翼が、火山灰で研磨され、剃刀のような鋭さを帯びている。
「来るぞ!ジグザグマ、回避だ!」
エアームドの『はがねのつばさ』が、ジグザグマのいた場所を切り裂く。
ジグザグマは、積もった灰に足を取られながらも、必死にジグザグ走行で攻撃をかわす。だが、深い灰の中では自慢の機動力が発揮できない。
足が埋まり、ターンが遅れる。その一瞬の隙を、エアームドは見逃さない。
「(このままじゃジグザグに逃げても追いつかれる……。灰の抵抗を受ける回数を減らさなきゃダメだ。なら、一点突破だ!)」
「ジグザグマ!迷いを捨てろ!ジグザグに走るな!真っ直ぐ、最短距離で駆け抜けろ!」
俺の叫びに、ジグザグマが足を止めた。
彼は驚いたように俺を見た。彼の本能は「ジグザグに走ること」だ。それを否定することは、自分自身を否定することにも等しい。
だが、彼は俺の目を信じた。
彼は深く息を吸い込み、灰の中に四肢を強く踏み込んだ。
視線を一点、エアームドの懐に固定する。
ジグザグではなく、一直線。
ターゲットを一点に絞り、全てのエネルギーを推進力へと変換する。
「ジグゥゥゥッ!!」
ジグザグマの体が、白く輝き始めた。
進化の光だ。
限界を超えた加速への意志が、彼の遺伝子を書き換えていく。
光の中で、その丸っこい体は長く、しなやかな流線型へと引き伸ばされていく。
短い足は力強く成長し、毛並みは風の抵抗を最小限にするように整えられた。
もはや、迷いながら餌を探すだけのジグザグマではない。
獲物を確実に仕留める、ハンターの姿だ。
光が弾け、そこには一筋の稲妻のようなポケモンが立っていた。
「マッスグマ……!」
進化したマッスグマは、爆発的な加速を見せた。
『しんそく』。
もはや灰の抵抗など関係ない。灰を巻き上げる暇さえ与えず、音速に近い速度でエアームドの懐に飛び込んだ。
「行けぇぇぇッ!!」
マッスグマの強烈な体当たりが、エアームドの鋼のボディを直撃した。
ドォォォン!!
重量のあるエアームドが、その衝撃で吹き飛ばされ、木をなぎ倒しながら森の奥へと消えていった。
「やったな、マッスグマ!」
「
マッスグマは嬉しそうに俺の周りを猛スピードで駆け回った。その速さは、以前のジグザグマの比ではない。
だが、止まろうとして急ブレーキをかけると、勢い余って俺に激突しそうになった。
「おっと、直進しかできないのが玉に瑕だな」
「おめでとう。……これで俺たちの旅は、さらに加速するな」
俺はマッスグマの滑らかな毛並みを撫でた。
ジグザグの迷いを捨て、真っ直ぐに突き進む決意。
それは、今の俺の心境にも重なるものがあった。
ホウエンリーグ制覇。そしてその先へ。
俺たちは、降り積もる灰の道を、一直線に切り開いて進んだ。
その先には、さらなる進化と発見が待っているはずだ。
マッスグマの鋭い瞳が、未来をしっかりと見据えていた。