アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第276話

トクサネシティから遥か南、128番水道の底に眠る「海底洞窟」。

一歩足を踏み入れたその場所は、地上とは全く異なる、不気味なほどの静寂と圧倒的な圧力に支配されていた。

内部は予想以上に広大かつ複雑で、数千年前の古代人が神を祀るために築いたと思われる石造りの祭壇や通路と、自然の力が作り出した巨大な鍾乳洞が複雑に絡み合い、巨大な迷宮を形成している。

壁面からは常に水が滴り、足元には深い霧が立ち込めている。アクア団が強引に設置したと思われる仮設照明が不規則に明滅し、影を長く伸ばす様は、まるでこの場所自体が生き物のように呼吸しているかのような錯覚を俺たちに与えた。

 

「気をつけて。……ただの洞窟じゃない。空間そのものが、何か巨大な力に捻じ曲げられている感覚がある」

俺が先頭を進み、注意を促す。俺の隣では、ポリゴンZが休むことなく周囲の環境スキャンを続けていた。

『警告。周囲のハイドロエネルギー密度、通常値の400%を突破。……磁場の乱れにより、一部の電子機器に深刻な干渉が発生しています。慎重な行動を推奨します』

「(400%……。カイオーガの眠りが浅くなっている証拠か)」

 

「ミナト君、見て。あそこの岩壁……」

ハルカが指差した先には、アクア団の団員たちが残していったと思われる機材の残骸が散乱していた。

「そこだ! チョロチョロと嗅ぎ回るネズミどもめ、ここで海の藻屑にしてやる!」

突如、通路の四方の岩陰から、青いバンダナを巻いたアクア団員たちが一斉に飛び出してきた。

「侵入者発見! アオギリ様の儀式を邪魔させるな! 排除しろ!」

「ズバット、『あやしいひかり』!」「キバニア、『アクアジェット』!」

 

「サトシ、タケシ! ここは頼む! 先に行かせてくれ!」

「おう! 任せろミナト! この程度の数、俺たちが食い止めてやるぜ!」

サトシが気合十分に叫ぶ。

「ピカチュウ、『10まんボルト』!」「フォレトス、通路を封鎖しろ! 『まきびし』だ!」

激しい火花と金属音が狭い洞窟内に反響し、乱戦が始まった。サトシとタケシという頼もしい背中に守られ、俺とハルカはさらに深淵へと足を速めた。

 

「こっちよ! ポリゴンZの反応は、この水路の右側!」

ハルカがポケナビの反応を追いながら先導する。だが、その行く手を遮るように、洞窟の奥から凄まじい勢いの逆流が押し寄せてきた。

「きゃあっ! なにこれ、吸い込まれそう!」

「カイオーガの力の影響か、それとも防衛システムの一種か……。なら、こいつの出番だ!」

 

俺は腰のボールを解き放った。

「ミロカロス、あの荒れ狂う水流を制しろ! 『うずしお』を逆回転させて道をこじ開けるんだ!」

「ミロォォォォォッ!!」

現れたミロカロスは、その美しく長い体をしなやかにくねらせ、激流の渦中へと飛び込んだ。

彼女が放つ青いオーラが水流と干渉し、物理法則を書き換えるかのように、逆流を静かな凪へと変えていく。ミロカロスの優雅な舞いに合わせ、水が道を開けるように分かれた。

 

「すごい……。あんなに荒れていた水が、嘘みたいに静かになるなんて」

ハルカが感嘆の声を漏らす。

「行こう、ミロカロスが作ってくれた道だ」

 

さらに奥へ進むと、巨大な崩落岩が完全に通路を塞いでいた。

「今度は私の番ね! ずっとミナト君に頼ってばかりはいられないもの! ワカシャモ、全力の『きあいパンチ』よ!」

ハルカのパートナー、ワカシャモが拳に熱いエネルギーを凝縮させる。

「シャモォォッ!!」

乾いた衝撃音と共に、巨大な岩石が粉々に砕け散り、砂煙が舞う。ハルカもまた、この旅を通じて確実に強くなっていた。

 

俺たちは互いのポケモンと絆を信じ、時に協力し、時に補い合いながら、ついに最深部へと通じる回廊へとたどり着いた。

だが、その回廊の壁に描かれた巨大な壁画を見た瞬間、俺たちは足を止めずにはいられなかった。

そこには、遥か太古に繰り広げられたという、世界の終わりの光景が描かれていた。

天を衝くほどの高波が大地を飲み込み、逆巻く炎が海を干上がらせ、逃げ惑う人々とポケモンたちの悲鳴が聞こえてくるような、凄惨な構図。

そして、その中心で争い合う、二つの巨大な影。

 

「これが……超古代ポケモンの真の力……。人が触れていい領域じゃない」

ハルカが震える手で壁画をなぞり、掠れた声で呟いた。

「(アオギリ……。こんな神話の厄災を蘇らせて、本当にコントロールできると思っているのか?)」

 

俺は、デバイスを握りしめる手に力を込めた。前世の知識では、この後の展開は悲劇的な暴走へと繋がるはずだ。俺が、この物語のテスターとしてここにいる意味を、今こそ示さなければならない。

 

「急ごう。……アオギリが『あいいろのたま』を掲げる前に、全てを終わらせるんだ」

 

俺たちは最後の階段を駆け上がった。

洞窟の奥底から、腹の底に響くような不気味な地響きと、深海から響く鯨の歌声を低くしたような、恐ろしい唸り声が聞こえ始めていた。

それは、眠りから目覚めようとしている、理不尽なる神の寝息だった。

 

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