アニポケ転生者物語 作:投稿者
海底洞窟の最深部。そこには、地下とは思えないほど広大で、果てのない闇を湛えた地底湖が広がっていた。
湖の至る所から青白い燐光を放つ鉱石が突き出し、その光が水面に反射して、洞窟全体を深海のような青い静寂で満たしている。その湖の中央、古代の意匠が施された巨大な祭壇のような島の上に、そのポケモンはいた。
青く輝く巨大な巨躯、翼のように広がった鰭、そして全身に刻まれた赤い線。
超古代ポケモン、カイオーガ。
長き眠りにより、その皮膚は半ば石化し、岩肌の一部と化しているようにも見えた。しかし、そこから放たれる凄まじい威圧感は、ただそこに存在するだけで周囲の空間を歪ませ、俺たちの肺から空気を奪い去るほどの質量を持っていた。
「……ついに、この時が来た」
祭壇の最上段、カイオーガの巨体を背に負って、一人の男が狂信的な笑みを浮かべて立っていた。
アクア団リーダー、アオギリ。
海風に晒され続けたその屈強な肉体は、今や『あいいろのたま』が放つ不気味な光に染まり、その瞳には理性を焼き切った破壊的な情熱が宿っている。
「アオギリ!! その玉を下ろせ! 貴様がやろうとしていることは、世界の破滅だ!」
俺の叫びが、洞窟の壁に反響して消える。
アオギリはゆっくりと、そして優雅にこちらを向き、嘲笑うように肩を揺らした。
「破滅? 違うな、子供。これは『再生』だよ。……見ろ、この美しき海の王を。この星は元々、一面の海から生まれ、海に育まれてきた。愚かな人間が大地を汚し、命の循環を止めてしまった今、必要なのは全てを一度、源たる水へと還すことだ」
「勝手な理屈……! 大地に生きる人々やポケモンたちの命を、何だと思っているのよ!」
ハルカが激しい怒りに声を震わせ、ワカシャモのボールを握りしめる。
「新たな環境に適応するか、淘汰されるか。……それは自然の摂理だ。選ばれた者だけが、カイオーガの創り出す新世界へと進めるのだよ。さあ、目覚めの時だ! 海王よ、この『あいいろのたま』の輝きを喰らい、再びこの星を青き楽園へと変えよ!」
アオギリが頭上に玉を掲げると、玉は心臓の鼓動のようなリズムで激しく発光を開始した。
その光に呼応するように、カイオーガの石化していた皮膚が瑞々しい青さを取り戻し、体中に刻まれた溝が、溶岩のような熱を帯びた青い光で満たされていく。
「させなるか!! サーナイト、最大出力の『サイコキネシス』で玉を弾き飛ばせ!」
「ワカシャモ、アオギリの足元を『かえんほうしゃ』で牽制!」
俺の指示と同時に、サーナイトが両手を突き出し、空間ごとアオギリを捻じ曲げようとする。ハルカのワカシャモも、灼熱の炎を放ち、祭壇へと肉薄する。
だが。
「フン、小賢しい。行け、サメハダー!! 全てを噛み砕け!」
アオギリの影から、異常なほど巨大化し、全身から黒いオーラを放つサメハダーが飛び出してきた。
それは通常の個体とは明らかに一線を画す、アクア団の薬物強化、あるいは古代の力によるブーストを受けた「怪物」だった。
サメハダーの『かみくだく』が、サーナイトの構築した精神の壁を物理的に食い破り、その衝撃でサーナイトが後退を余儀なくされる。
「強い……! 完全に『あいいろのたま』と同調しているのか!」
「ハハハ!! 遅い、遅すぎるぞ! 全ては運命の奔流の中にある!」
アオギリの狂気が頂点に達したその瞬間、手にしていた玉が液状化するように溶け、カイオーガの眉間へと吸い込まれていった。
地底湖全体が、かつてない規模の震動に襲われた。
カイオーガの巨大な眼が、カッと見開かれる。
その瞳は、黄金色に輝きながらも、そこには知性や慈悲など微塵も存在しなかった。あるのは、ただ全てを飲み込み、押し流そうとする、底なしの破壊衝動と原始的な怒りだけだった。
「成功だ……! 見ろ、この神の如き力を! 世界は今、我らのものとなった!」
アオギリが狂喜乱舞し、カイオーガを見上げて両手を広げる。
だが、目覚めた神が最初に行ったのは、自分を呼び起こした「虫ケラ」への裁きだった。
カイオーガの体から、目も眩むような青白い光の粒子が溢れ出す。
「……え?」
アオギリが呆然と呟いた瞬間、カイオーガの鰭が僅かに動いた。
『こんげんのはどう』。
圧縮されたハイドロエネルギーの奔流が、一瞬で祭壇を薙ぎ払った。
「ぐわぁぁぁぁぁッ!!」
アオギリは叫ぶ間もなく衝撃波に飲み込まれ、遥か彼方の地底湖へと吹き飛ばされた。
「(やっぱり、
俺はサーナイトを抱き寄せ、崩落してくる天井の岩から身を守るのが精一杯だった。
目覚めた海王の咆哮が、海底洞窟の構造そのものを根底から破壊していく。
轟音と共に海水が天井を突き破って流れ込み、洞窟は一瞬にして崩壊の危機に直面した。
俺たちは、為す術なく、神の怒りの前に立ち尽くすしかなかった。
ホウエン地方そして世界の終わりが、今、始まったのだ。