アニポケ転生者物語 作:投稿者
「ここが崩れるぞ!」
俺はハルカの手を強く引き、足元の崩落を避けながら辛うじて形を保っている出口の回廊へと走った。
背後では目覚めたカイオーガが咆哮を上げ、洞窟の岩盤を内側から粉砕しようとしている。だが、運命という名の「現実」は、俺たちにそれ以上の絶望を用意していた。
突如、洞窟の側面、巨大な一枚岩の壁が内側から猛烈な勢いで回転する金属音と共に砕け散った。
「なっ……何!? 何が来てるの!?」
ハルカが悲鳴を上げる。
土煙と瓦礫を撒き散らしながら乱入してきたのは、巨大な超硬度ドリルを機首に備えた、マグマ団の特製潜地艇だった。装甲には、熱に晒されたことを物語る赤黒い焦げ跡が無数に刻まれている。
ハッチが乱暴に開き、中から赤いスーツに身を包んだ男たちが現れた。その中心に立つのは、冷徹な眼鏡の奥に狂気の火を灯した男。
マグマ団リーダー、マツブサだ。
「……フン、アオギリめ。少しばかり先を越されたか。だが、主導権を渡すつもりはない」
マツブサの右手には、禍々しい紅色の輝きを放つ『べにいろのたま』が握られていた。その玉は、周囲の熱を吸い込むように、不気味な脈動を繰り返している。
「カイオーガが目覚めたというのなら、対抗できるのはこの星に唯一柱。……太古の眠りから解き放たれよ、グラードン!!」
マツブサが狂ったように玉を地面へと叩きつけた瞬間、地底湖の底が真っ二つに割れ、そこから目が眩むような真っ赤なマグマが噴き出した。
海水が一瞬で蒸発し、視界が白い蒸気で埋め尽くされる。その煮えたぎる灼熱の底から、岩山のような巨躯を持つ赤き大地の化身――グラードンが、その咆哮と共に姿を現した。
「グルルルルルゥゥゥォォォッ!!!」
狭い海底洞窟の中で、相反する二体の超古代ポケモンが、長き時を超えて対峙した。
海を広げんとする水神と、大地を広げんとする地神。
水と炎、冷気と熱気。正反対のエネルギーがこの閉鎖空間で衝突し、空間そのものが軋み、悲鳴を上げている。
「馬鹿な……! 本気でここで戦わせる気か!?」
俺はあまりの光景に絶句した。この深度、この閉鎖空間で二体の神がぶつかり合えば、膨張したエネルギーの逃げ場がなくなり、核爆発にも等しい大爆発を引き起こす。そうなれば、俺たちどころか、この周辺海域の生態系ごと消し飛ぶぞ。
「やれ、グラードン! 邪魔な海王をその熱で焼き尽くせ!」
「カイオーガ、生意気な大地の獣を深淵の底へ沈めてやれ!」
アオギリもマツブサも、既にそれぞれの玉の魔力に取り込まれ、人としての理性を失っていた。彼らにあるのは、相手を排除し、自らの理想郷を創るという盲目的な破壊衝動だけだ。
グラードンの足元から巨大な岩の棘『だんがいのつるぎ』が突き出し、カイオーガの巨体を貫こうとする。対するカイオーガも、圧縮された水の粒子を光線に変える『こんげんのはどう』で応戦する。
物理的な衝撃波がドーム状の空間を駆け巡り、防爆仕様の機材さえも紙細工のように引き裂いていく。
「ポリゴンZ、エネルギー計測値を最大に保て! 爆発のタイミングを予測しろ!」
『計測不能! エラー、エラー! 推定エネルギー総量、施設の限界を1200%超過! ……マスター、10秒以内にこのエリアを離脱してください。さもなくば分子レベルで分解されます!』
ポリゴンZの絶叫に近い警告がデバイスから響く。
「うわああああっ!!」
直後、二体の技が正面から激突した。
視界が真っ白な閃光に染まり、直後に肉体を押し潰すような衝撃波が襲う。
天井が完全に崩落し、地上から数万トンの海水が滝のように流れ込んできた。
「ミナト君!!」
吹き飛ばされた俺の手を、必死の形相でハルカが掴む。
俺はハルカを引き寄せ、崩れ落ちる瓦礫の雨を潜り抜けながら、僅かに残った岩棚をよじ登った。
眼下では、もはや生物の戦いとは思えない、天変地異そのものの激突が繰り広げられている。マグマ団とアクア団の団員たちも、自分たちのボスを見捨てて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。
「サトシ! タケシ! マサト! どこだ!!」
俺が叫ぶと、崩落した通路の向こうから、土だらけのサトシたちが姿を現した。
「こっちだ! 早く! 道がなくなるぞ!」
サトシもピカチュウを抱え、必死に走っている。俺たちは合流し、かろうじて浸水を免れているの横穴へと滑り込んだ。
「潜水艇はどうなった!?」
「ダメだ……。さっきの衝撃でハッチが潰れて、岩に埋まっちまった!」
マサトが泣きそうな声を上げる。退路は完全に断たれた。
「なら、自力で脱出するしかない! 濁流に呑まれる前に上へ出るぞ!」
俺はベルトからペリッパーとミロカロスのボールを解き放った。
「みんな、しっかり捕まれ! 水流を逆らって一気に浮上する! 息を止める準備をしておけよ!」
俺たちはポケモンたちの背にしがみつき、濁流と化した脱出路を必死に遡っていった。
背後で、海底洞窟が完全に崩壊し、海の底へと沈んでいく轟音が聞こえた。