アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第279話

崩壊する海底洞窟から、濁流を逆流するように遡り、ペリッパーとミロカロスの背にしがみついてようやく海上へと逃れた俺たちが目にしたのは、もはや俺たちが知っている美しく穏やかなホウエンの海ではなかった。

「……何よ、これ。……嘘でしょ? 世界が、壊れ始めてる……」

ハルカが震える声で呟き、呆然と空を見上げた。その瞳には、かつてないほどの恐怖が映し出されていた。

 

空は、不自然なほど真っ二つに分断されていた。

水平線の半分からは、太陽が異常なほど巨大化し、白銀の熱線が容赦なく降り注いでいる。その熱量は尋常ではなく、海面からは常に凄まじい水蒸気が立ち上り、視界を歪めるほどの蜃気楼を作り出していた。逃げ場のない酷暑が空気を焼き、呼吸するだけで肺が焼けるような痛みを覚える。

そしてもう半分は、底なしの暗黒を湛えた巨大な積乱雲が幾重にも重なり、紫色の稲妻が絶え間なく走り抜けていた。そこからは、バケツをひっくり返したような豪雨ではなく、もはや物理的な質量を持った水の塊のような猛烈な雨が、海面を執拗に叩きつけている。

 

熱波と豪雨。相反する極端な気象現象が、一つの空間でせめぎ合い、その境界線では激しい気圧の変化によって巨大な竜巻がいくつも発生していた。

「(これが……グラードンとカイオーガが地上に現れた証か。神話の再現なんて生易しいもんじゃない、これは惑星規模の大災害だ……)」

俺はデバイスの環境モニタリングを必死に操作した。

『緊急警告。全域の気象システム、完全に崩壊。……局地的な気圧差により、最大瞬間風速は計測不能。……海水温、一部エリアで沸騰に近い100度を突破。……このままエネルギーの衝突が続けば、ホウエン地方全土の生態系は、最短で3時間、最長でも6時間以内に完全沈黙します』

ポリゴンZの、感情を排した無機質な声が、世界の終焉を淡々と告げる。

 

「ミナト! サトシ! 無事だったか!!」

荒れ狂う波間を、波飛沫を浴びながら強引に突き進む最新鋭の高速小型艇。その甲板に、波に揺られながらも毅然と立っているのは、ダイゴさんと、ルネシティの守護者ミクリさんだった。

「ダイゴさん! ミクリさんも!」

「海底洞窟の崩壊信号をキャッチして、急行したんだ。……よくぞ生きていてくれた。君たちを失うわけにはいかない」

ダイゴさんが差し伸べてくれた逞しい手を掴み、俺たちはなんとか船へと這い上がった。船内に逃げ込んでも、船体が激しく揺れ、今にも転覆しそうなほどの重圧が外から押し寄せている。

 

「見てくれ。奴らは……あそこを目指している」

ミクリさんが、苦渋に満ちた表情で指差す。モニターに映し出されたのは、ホウエンの中心に位置する美しい陨石湖の街――ルネシティだった。

「グラードンとカイオーガ。二体の超古代ポケモンは、お互いの存在を感知し、呼び合っている。ルネの湖はホウエンで最も地磁気が強く、エネルギーが集中する場所だ。もしあそこで二体が真の力で激突すれば……。……島の一部が消えるどころか、ジョウトやカントーにまで影響が及ぶ大規模な地殻変動が起きるだろう」

 

「あいつらを止めなきゃ! このままじゃ、ポケモンたちも、人も、みんな死んじまう!」

サトシが濡れた顔を拭いもせず、拳を強く握りしめて二体の巨神を睨みつける。

「止める方法は、……唯一つ。彼らの暴走を鎮め、世界の均衡を取り戻すことができる、さらに高次の存在を呼び寄せるしかない」

ダイゴさんの瞳には、悲壮な決意と、わずかな希望が宿っていた。

「伝説の龍、レックウザ。……だが、彼が眠る『そらのはしら』へ辿り着くことさえ、今のこの地獄のような嵐の中では、最新の航空機でも不可能に近いんだ」

 

「俺が行きます。……俺には、どんな嵐の中でも俺を守って飛んでくれる、最高の相棒がいる」

俺は、ベルトにあるフライゴンのボールを力強く握りしめた。

「ミナト君、無茶だよ! この状況で行くなんて、自殺行為だわ!」

ハルカが俺の腕を掴み、涙ながらに引き止める。

「分かってる。でも、やれそうな俺がやらなきゃいけないんだ。」

 

俺はダイゴさんの目を真っ直ぐに見据えた。

「そらのはしらへの最短ルートをください。……そして、レックウザを呼び出すための天空の笛を」

「……分かった。君のその瞳、すべてを託そう。……頼んだぞ、ミナト君。この星の未来を」

 

ダイゴさんから手渡された笛の、ひんやりとした重みが手に伝わる。

俺はハルカの肩を優しく叩き、サトシと短く頷き合った。

「サトシ、ルネシティの方は頼むぞ。……市民を、そしてこの景色を守ってくれ。……レックウザは、俺が絶対に連れてくる」

「ああ!! 信じてるぜ、ミナト!! お前が戻ってくるまで、俺たちが死んでもルネを守り抜いてみせる!!」

 

俺はフライゴンに跨り、異常気象が渦巻く空へと迷わず飛び出した。

一方は、すべてを焼き尽くす白銀の太陽。一方は、すべてを飲み込む漆黒の雷雲。

二つの絶望が激突する、世界の裂け目へと。

俺たちの、命を懸けた最終ミッションが、今、始まった。

 

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