アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第280話

ダイゴさんの最新鋭小型艇。その強固な装甲に守られたキャビンの中には、今やホウエン地方、ひいては世界の運命をその肩に背負うこととなった最強のトレーナーたちが集結していた。船体は激しく波に叩かれ、鉄板が軋む不気味な音が絶え間なく響いている。

正面の大型モニターには、ポリゴンZが気象衛星のネットワークをジャックして構築した、ルネシティ周辺のリアルタイム画像が映し出されていた。

 

「見てくれ。これが現在のエネルギーの収束状況だ」

ミクリさんが、いつもの優雅さをかなぐり捨てたような、重苦しい声でモニターを指差す。

画面中央、巨大なクレーターに囲まれたルネシティ。そこを起点として、北からは漆黒の雷雲を伴う猛烈な寒気が、南からは海水を蒸発させるほどの凄まじい熱波が、巨大な渦を巻いて衝突しようとしていた。それはまるで、巨大な漆黒の瞳が、世界の破滅を愉しむかのように一点を凝視しているかのような、悪夢じみた光景だった。

 

「状況を整理しよう。グラードンとカイオーガは、あと30分も経たぬうちに、ルネシティ中央の地底湖で直接激突する。そこはホウエンの地磁気が最も集中し、かつプレートの継ぎ目が複雑に絡み合う急所だ。もしそこで二体の神が全霊のエネルギーをぶつけ合えば、発生する衝撃波は島を割り、海嶺を崩壊させ、この海域全体を焦土へと変えるだろう」

ミクリさんの説明は、単なる予測ではなく、ルネの守護者として代々受け継いできた「警告」そのものだった。

「僕とダイゴはルネシティへ先行し、市民の避難を完了させると同時に、二体の直接的な接触を可能な限り引き延ばす食い止め役を務める。……だが、それも絶望的な時間稼ぎに過ぎない」

 

「そこで、ミナト君。君の任務こそが、この状況の分岐点になる」

ダイゴさんが、射抜くような鋭い眼差しを俺に向けた。

「君に向かってもらうのは、ここから南東、131番水道の孤島にそびえ立つ『そらのはしら』だ。そこは遥か神話の時代、この星に空前の災厄が訪れた際、天空の神を呼び出すために当時の民が築き上げた、ホウエン最大の聖域。……超古代ポケモン、レックウザ。彼こそが、グラードンとカイオーガによる世界の不均衡を強制的にリセットできる、唯一無二の『調停者』なんだ」

 

「天空の笛。……これを柱の最上階、天に最も近い祭壇で奏でれば、彼の意識に我々の意志を届けることができると言い伝えられている。……だが、問題はそこへ至るまでの空だ。現在、131番水道の上空は、二つの異常気象が激突する最前線となっており、通常の飛行手段……ヘリや航空機では、一分と持たずに空中分解するだろう」

 

俺は、キャビンの分厚い強化ガラス越しに、荒れ狂う外の世界を見つめた。

稲妻が水平線を紫に染め、巨大な水龍のような竜巻が海面から立ち上がっている。

「ポリゴンZ。フライゴンの飛行安定性と、現在の風速ベクトルをシミュレートしろ。……生き残れるか?」

『解析中。……気流の乱れはフラクタル構造を呈しており、カオス理論の範疇を完全に超脱しています。ですが、私の演算リソースの80%を飛行制御に割り振ることで、微細な風の流れを0.01秒単位で逆算し、フライゴンの神経系に直接修正信号を送ることが可能です。……現時点での推定生存確率、42.8%。成功の鍵は、データの隙間を埋めるマスターの直感的指揮にあります』

 

「42%か。……まずまずの数字だな」

俺は自嘲気味に口角を上げ、腰のベルトにあるフライゴンのボールを指先で愛おしそうに撫でた。

「ミナト君、本当に……本当に行くのね? あの空へ」

ハルカが、震える手で俺のジャケットの袖を強く掴む。その瞳には、止めたいという願いと、行かせてあげなければならないという使命感がせめぎ合っていた。

「ああ。……サトシ、ハルカ。お前たちはルネシティでミクリさんたちを助けてくれ。あそこには、逃げ遅れた子供たちや、怯えるポケモンたちがたくさんいる。あいつらを守れるのは、お前たちの熱いハートだけだ」

 

「分かった。……約束だぜ、絶対に戻ってこいよ、ミナト! お前がレックウザを連れて戻ってくるその瞬間まで、俺とピカチュウが、何があっても、命に代えてもルネシティを守り抜いてみせる!」

サトシが力強く拳を突き出し、その肩でピカチュウも「ピカピッカァ!!」と、天を割らんばかりの咆哮を上げた。彼らの真っ直ぐな瞳には、もはや恐怖の欠片も残っていなかった。

 

「よし。……全システム、オールグリーン。出発だ」

俺は小型艇の気密ハッチのレバーを引いた。

瞬間、真空へと吸い込まれるような轟音と共に、凄まじい暴風雨がキャビン内へと雪崩れ込み、視界が一瞬で真っ白な飛沫に覆われる。

俺は躊躇わず、その荒れ狂う混沌の中へと身を躍らせた。

「フライゴン、行こう!! お前の翼で、この不条理な偽りの天気を切り裂いてくれ!! ホウエンの平和を取り戻すんだ!!」

 

「グォォォォォォォォォォン!!!」

天を揺るがす咆哮と共に、フライゴンが荒れ狂う暴風を真正面から受け止め、力強く羽ばたいた。

俺はその背に深く身を沈め、ゴーグルの視覚情報を最大輝度へと切り替えた。ポリゴンZが算出した最適な飛行ベクトルが、網膜の上に鮮やかな光の線となって投影される。

「三時の方向、マイクロバーストが発生するぞ! 30メートル急降下だ! 翼を畳め!」

 

雷雲の真っ只中を抜け、火傷しそうな熱風の壁を強引に突き破る。

俺たちは、神話の戦場を独り、孤独な銀色の弾丸となって駆け抜けていった。

目指すは、積乱雲を突き抜けて天の理へと届く、古の巨人たちの遺産――『そらのはしら』だ。

 

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