アニポケ転生者物語 作:投稿者
季節の変わり目なのでしばらく続くと思います。
ミナトがフライゴンと共に、二つの巨大な絶望が渦巻く空の彼方へと消えていく。その背中を見送ったサトシたちは、ミクリとダイゴという二人のトレーナーの先導のもと、ホウエン地方の心臓部――ルネシティへと突入していた。
かつては巨大な隕石孔の内部に白亜の家々が建ち並び、鏡のように澄んだ地底湖を湛えていた「ホウエンの真珠」。だが、今その目に飛び込んできたのは、神話の厄災によって無残に蹂躙され、崩壊の一途をたどる地獄の光景だった。
「……ひどい。ルネシティが……!」
ハルカが震える手で口を覆い、言葉を失う。
街の中央に広がる巨大な地底湖。そこでは、深海の深淵から現れたカイオーガと、地底の煉獄から現れたグラードンが、互いの存在をこの世から抹消せんばかりの凄まじい勢いで激突していた。
カイオーガが放つ『こんげんのはどう』が湖面を真っ二つに割り、発生した衝撃波がルネの石造りの歴史ある家々を紙細工のように粉砕していく。対するグラードンが大地を叩けば、地面から無数の『だんがいのつるぎ』が鋭い牙となって突き出し、噴き出した高熱のマグマが美しい運河を一瞬で沸騰させ、赤黒い蒸気の地獄へと変え果てていた。
「市民の避難誘導を急げ! ジュンサーさん、周辺の安全確保は!」
ミクリが、自慢の相棒であるミロカロスと共に降り注ぐ巨大な火山弾を『ハイドロポンプ』で迎撃しながら叫ぶ。その優雅なマントは既に煤け、表情には隠しきれない焦燥が滲んでいた。
「避難はクレーター外縁の地下シェルターへ完了しました! ……ですが、地盤そのものが持ちません! このまま二体のエネルギーが衝突し続ければ、ルネシティが地図から消えてしまいます!」
ジュンサーさんがモニターを凝視しながら絶叫に近い声を上げる。画面上の地殻安定度を示すグラフは、既に危険域を示す赤色を通り越し、真っ黒な絶望の色に染まっていた。
「させるかよ……! 誰が、こんなことさせるもんか!!」
サトシが、崩落する瓦礫の雨の中を走り出した。
「ピカチュウ、『10まんボルト』! オオスバメ、旋回してカイオーガの意識をこっちに向けろ! ジュプトル、グラードンの足元を撹乱するんだ!」
それは、神々の戦いに羽虫が挑むような、あまりにも無謀で、しかし誰よりも尊い突撃だった。サトシの放った電撃がカイオーガの分厚い皮膚を叩き、オオスバメが暴風を突っ切って巨神の目前をかすめる。キモリは隆起する岩山を縦横無尽に駆け抜け、グラードンの注意を僅かでも逸らそうと奮闘する。
「サトシ君! 無茶だ、下がって!」
「下がってられるかよ!! 俺たちがここで諦めたら、誰がこの街を守るんだ!! 誰がミナトの帰る場所を守るんだよ!!」
サトシの絶叫が、バトルの轟音を突き抜けて響き渡った。その真っ直ぐな、一点の曇りもない闘志。それが、恐怖に足がすくんでいたハルカやマサト、そして現場に居合わせたすべてのトレーナーたちの心に、消えかかっていた希望の火を再び灯した。
「ハルカ、マサト君、君たちはサトシ君のフォローを! 決して深追いはさせるな! 僕はダイゴと共に、二体のエネルギーの余波を外側へ逃がす防壁を構築する!」
ミクリのミロカロスが、その長い体をくねらせて巨大な水の繭を街全体に展開する。同時に、ダイゴのメタグロスが四つの脳をフル回転させ、強力なサイコパワーで水の膜を物理的な『リフレクター』の障壁へと変換していった。
二人のトレーナーによる、人類の英知と絆の結晶。だが。
グラードンの拳とカイオーガの鰭が同時に防壁に直撃し、ルネ全体が巨大な地震に襲われたかのように激しく鳴動した。
「ぐっ……! まるで山脈が正面から激突してくるような重圧だ……!!」
ダイゴが歯を食いしばり、メタグロスの脳にかかる凄まじい負荷を自身も共有するように、こめかみに血管を浮き出させて耐える。防壁には無数の亀裂が入り、そこから漏れ出した超高熱の熱波と、骨を凍らせるほどの冷気がサトシたちを襲う。
「負けるか……! 俺たちが、ここで負けてたまるかぁぁぁ!!」
サトシが叫び、ピカチュウもボロボロの体で立ち上がり、空を焦がすような最大出力の雷を放ち続ける。タケシも、自身のポケモンすべてを繰り出し、崩れ落ちる建物の下敷きになりそうなポケモンたちを必死に救出していた。
だが、そんな彼らの魂の叫びさえも、目覚めたばかりの原初の神々にとっては、悠久の時の中に流れる一瞬の雑音に過ぎなかった。
グラードンの咆哮が空気を物理的に焼き、カイオーガの呻きが因果律そのものを凍らせる。
二体のぶつかり合いはさらに凄惨さを増し、ルネの地底湖はもはや沸騰したスープのようになり、石造りの大地は飴細工のように無残に捻じ曲がっていった。
「……限界だ。もう、これ以上は……防ぎきれない……!!」
ダイゴのメタグロスが膝をつき、ミクリのミロカロスもその美しい鱗を焦がして倒れ込む。
防壁が音を立てて崩壊し、二体の神が最後の一撃を互いに放とうと、世界のすべてを無に帰すほどのエネルギーを充填し始めた。
絶望。
誰もが、この世の終わりを確信し、目を閉じた。
その時だった。
ルネの上空を厚く、重く覆っていた真っ黒な雷雲が、中心から一瞬にして黄金色の光に貫かれた。
サトシが、眩しそうに、しかし何かを確信したように天を仰ぐ。
「……ミナト? ミナトなのか!!?」
荒れ狂う竜巻を切り裂き、天の理を体現するかのように急降下してくる、一筋の緑色の閃光。
それは希望の象徴か、それともさらなる終焉の使者か。
神々の咆哮さえも掻き消すような、静寂を呼ぶ一本の笛の音が、滅びゆくルネシティに、そして絶望する人々の心に、清冽な風となって響き渡った。