アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第283話

『そらのはしら』の最上階。雲海を遥か眼下に望む、この星で最も天に近い祭壇で、俺が魂を込めて奏でた「天空の笛」の音色は、薄い大気を震わせる純粋な共鳴波となり、宇宙の深淵へと届くかのように広がっていった。

一瞬、世界からすべての音が消えた。そして、次の瞬間――天空が、物理的に割れた。

 

「……っ!! くぁぁぁぁッ!!」

凄まじい衝撃波が祭壇を駆け抜け、俺は吹き飛ばされそうになるのを、傍らの朽ちかけた石柱に必死にしがみついて耐えた。

俺の目の前で、数千年の間、静止した彫像のように動かなかった巨大な影が、ゆっくりと、しかし確実な「神の意志」を宿して動き始めたのだ。

エメラルド色に輝く、流線型の長く強靭な体。その表面に刻まれた幾何学的な光の紋章が、命の鼓動に合わせて黄緑色の鮮烈な光を放ち始める。

超古代ポケモン、レックウザ。

その黄金の瞳がカッと見開かれた瞬間、この星のすべての気象現象が、絶対的な王の帰還に恐怖し、跪くようにして一瞬だけ完全な「凪」に陥ったのを、俺は肌で、そして細胞の一つ一つで感じ取った。

 

『――再び、海と大地が相争うか。繰り返される愚かなる因果の円環よ。人の子よ、汝が我が眠りを妨げた理由、……その魂の震えから聞き届けた』

レックウザの声は、鼓膜を震わせる音ではなく、宇宙の理そのものとして俺の意識の深層に直接叩き込まれた。その眼差は俺という矮小な存在を確かに捉えていたが、そこにあるのは敵意でも好意でもなく、ただすべてを等しく見下ろす、絶対的な「調停者」としての冷徹な正義だった。

 

レックウザは、重力の束縛を嘲笑うかのように悠然と天へと昇っていった。

「待ってくれ、レックウザ! ルネの街へ行ってくれ!! あいつらを……グラードンとカイオーガを止めてくれ!!」

俺の切実な叫びに応えるように、レックウザは大きく天を仰ぎ、咆哮した。

「ギィィィィィィィィィィィン!!!!!」

その凄まじい鳴き声一つで、空を隙間なく覆っていた漆黒の雷雲が、まるで神の手によって引き裂かれるように左右へと分かたれた。レックウザは緑色の流星と化し、ルネシティの方角へと加速していった。その速度は、ポリゴンZの計算限界を遥かに超越した、音速のさらに向こう側――神速の領域だった。

 

一方、その頃のルネシティ。

サトシたちは、文字通りの絶望の淵に立たされていた。

「……もう、ダメなのか……? ここまで、頑張ってきたのに……」

サトシが瓦礫の上に膝をつき、掠れた声で呟く。隣にいるピカチュウも、降り注ぐ酸性の雨と地熱に体力を奪われ、泥だらけの姿で立っているのが精一杯だった。

グラードンの放つ、すべてを蒸発させる熱線。カイオーガの放つ、すべてを圧殺する重水波。二つの神の技がついに正面から激突し、ダイゴとミクリが全霊を賭して維持していた防壁を、塵も残さず粉砕した。二体の神は、もはや周囲の生命など眼中にない。ただ相手を消滅させるためだけに、世界の終焉を呼ぶ最終的なエネルギーをその胎内に充填し始めたのだ。

 

「みんな、地下シェルターへ逃げて!! ここから離れるんだ!!」

ミクリが絶叫し、ミロカロスと共にサトシたちを守ろうと前に出るが、逃げ場などルネのどこにも残っていなかった。

二つの巨大なエネルギーがぶつかる中心点。そこから生まれる、すべてを無に帰す消滅の光が、この星の未来を飲み込もうとしたその刹那――。

 

天空の頂点から、暗雲を貫き、一筋の鮮烈な緑色の雷光が地底湖へと降り注いだ。

 

凄まじい着弾の衝撃と共に、グラードンとカイオーガのまさに中間に、その「龍」は悠然と舞い降りた。

巻き起こる爆風が、煮えたぎっていた地底湖を一瞬で静まらせ、立ち込めていた蒸気さえも一吹きで霧散させる。

「……レックウザ……! 来てくれたのか……ミナト君……!」

ダイゴが、膝をつきながらも空を見上げ、震える声で希望の名を口にした。

 

レックウザは、自分よりも体躯の大きい二体の巨神を、冷徹極まりない黄金の瞳で見下ろした。

理性を失い、破壊の化身と化したグラードンとカイオーガが、新参の調停者に対して怒りに狂い、同時に襲いかかろうとする。

しかし、レックウザは回避することも、攻撃を放つこともしなかった。ただ一言、天を、海を、大地を、そして運命そのものを揺るがす絶対的な咆哮を放っただけだった。

 

「ギィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!」

 

それは、戦うための叫びではない。怒れる神々の理性を、数千年の眠りの淵から強制的に呼び覚ます「戒め」の言霊だった。

レックウザの体から放射されたエメラルド色の波導が、二体の巨神の体内に蓄積されていた過剰な暴走エネルギーを、雪が溶けるように霧散させ、消し去っていく。グラードンとカイオーガの瞳から、宝珠の魔力による狂気の紅が消え、代わりに深い、深海のような「静寂」が宿った。

 

二体の巨神は、自分たちがしでかした惨憺たる破壊の跡を、初めて正気で、そして悲しげに見渡した。やがて彼らは、無言のままゆっくりと互いに背を向けた。

グラードンは大地を引き裂き、地割れの奥底、マグマの流れる深淵へ。

カイオーガは地底湖の底へと沈み、海底洞窟のさらに先、深海の揺りかごへ。

神々は、再び訪れるべき悠久の眠りのために、それぞれの領分へと帰っていった。

 

荒れ狂っていた天候が、まるで映画のセットを片付けるように、急速に引いていく。

雲の切れ間から、数時間ぶりとなる本物の、温かく優しい太陽の光が、崩壊したルネシティの瓦礫へと降り注いだ。

レックウザは、その光の中に溶け込むように、一瞥もくれることなく再び天空の高みへと舞い戻っていった。

 

「……終わったんだな。本当に、俺たちの世界が……戻ってきたんだ」

サトシが、眩しそうに空を見上げて呟く。その頬を、安堵の涙が静かに伝い落ちた。

俺は、『そらのはしら』の頂上で、遠く地平線に広がる澄み切った青空を見つめながら、静かに拳を握りしめた。

 

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