アニポケ転生者物語   作:投稿者

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【閑話】波音の夜、語り継がれる神話

ルネシティの夜、復興の灯火

グラードンとカイオーガ、そして裂空の覇者レックウザによる、この世の終わりを予感させた未曾有の危機が去ってから、早いもので数日が経過した。

巨大な隕石孔の内部に位置するルネシティは、デボンコーポレーションやシルフカンパニーによる迅速な物資支援、そして何よりホウエン各地から自発的に集まった多くのトレーナーやボランティアたちの尽力により、驚くべき速さでその活気を取り戻しつつあった。

瓦礫は一つずつ片付けられ、一度は高熱で枯れ果てていた美しい運河には、再び透き通った清らかな水が滔々と流れ始めている。

 

俺たちは、この街のジムリーダーであり守護者でもあるミクリさんの厚意により、街全体を見下ろすことのできる高台のゲストハウスに滞在していた。

今夜は、復興の第一歩を祝うためのささやかな宴が、ライトアップされた街の広場で開かれている。遠くの風に乗って聞こえてくる楽しげな楽器の音色と、人々の穏やかな笑い声。

数日前、空が真っ二つに割れ、死の雨と灼熱の太陽がすべてを焼き尽くそうとしていた地獄のような光景が、まるで遠い過去の悪夢だったかのようにさえ感じられた。

 

俺は一人、ゲストハウスのテラスにある椅子に深く腰掛け、月明かりに照らされた夜の海……クレーターの入り口の方角を静かに眺めていた。

「……ミナト君、ここにいたんだ」

背後から、衣擦れの音と共に静かな声がした。ハルカだった。

彼女は、いつも動きやすい旅の服装ではなく、ミクリさんから「復興の女神への贈り物」として贈られたという、この街特産のシルクを贅沢に使った、深い海の色のような美しいドレスを纏っていた。

 

「ハルカか。……そのドレス、月明かりの下で見るとさらに似合ってるよ。本当に綺麗だ」

俺が素直な感想を口にすると、ハルカは「えへへ、ありがと」と少しだけ照れくさそうに頬を染めた。

「でも、なんだか落ち着かなくて。……私たち、本当に助かったんだよね。あの時のこと、今でも信じられないくらい」

ハルカは俺の隣の椅子に座り、同じように夜の海へと視線を向けた。

「ああ。……一時はどうなるかと思ったけどな。あいつらの力が、あまりにも理不理すぎた」

 

俺は、懐のデバイスの奥深くに仕舞い込んだ、二つの「抜け殻」を思い出した。

今はもう、何のエネルギーも宿していない、ただの冷たく重い石の塊に戻った『あいいろのたま』と『べにいろのたま』。

「神の力……か。人間が、自分たちの都合で扱いきれるようなものじゃなかったんだ。俺たちは、ただそのおこぼれを享受して生きているだけに過ぎない」

「そうだね。……でも、ミナト君があの時、誰よりも早く決断して、そらのはしらへ行ってくれなかったら……。……本当に、ありがとう、ミナト君。あなたが、私の、みんなの世界を守ってくれたんだよ」

ハルカが、俺の手をそっと握った。その手は、冷たい夜風のせいか少しだけ震えていたが、そこからは確かに、同じ地獄を生き抜いた者同士の温もりが伝わってきた。


野望の終焉、二人のリーダー

宴の喧騒から遠く離れた、ルネシティの外縁部。崩落した古代の石柱が横たわる静かな海岸線に、二人の男の姿があった。

かつて「陸」を求め、かつて「海」を渇望した二人の組織のリーダー――マツブサとアオギリ。

彼らの纏っていた不遜なまでの威圧感は霧散し、その服はボロボロに裂け、顔には消えることのない敗北感と、そして何よりも深い「後悔」が刻まれていた。

 

「……計算違いだったな、アオギリ」

マツブサが、ひび割れた眼鏡を指で押し上げ、乾いた声で呟いた。その視線の先には、グラードンが引き裂き、そしてレックウザによって鎮められた、無残な亀裂の残る大地があった。

「ああ。……海は命の源だと信じて疑わなかったが。俺が呼び覚まそうとしたのは、生命を慈しむ海じゃなく、すべてを飲み込む死の泥水だった。……笑えねえ話だな」

アオギリは自嘲気味に笑い、自らの大きな拳を虚しく握りしめた。

 

彼らは伝説の力を「制御できる」と過信していた。自分たちの理想を叶えるための道具として、神を扱えると思い込んでいたのだ。だが、目の当たりにしたのは、人類の英知など塵に等しい圧倒的な破壊の意志。

「あの少年……ミナトと言ったか。彼がレックウザを呼び寄せなければ、今頃この街どころか、ホウエンそのものが地図から消えていただろう。……我々の掲げた『正義』が、最も世界を滅ぼしにかかっていたとはな」

マツブサの言葉に、アオギリは無言で頷いた。

 

「マグマ団は解散させる。……残ったメンバーには、復興支援に従事するよう命じた。……それが、私にできる唯一の贖罪だ」

「アクア団も同じだ。……俺はこれから、この海を汚した責任を取るために、一生をかけて海を回るつもりだ。……いつかまた、本当の海の美しさを理解できる日が来るまでな」

二人の男は、互いに視線を合わせることもなく、それぞれの背負った罪の重さを噛み締めるように、闇の向こう側へと歩き出した。

彼らの野望は、この波音の中に消えていった。だが、その背中には、以前のような狂気ではなく、一人の人間として再起しようとする、微かな、しかし確かな意志が宿っていた。


サトシの誓い、最後の試練へ向けて

翌朝。ルネシティは朝霧に包まれ、幻想的な白銀の世界となっていた。

俺たちはゲストハウスの食堂で、タケシが作ってくれた朝食を囲んでいた。久しぶりに味わう、平穏な朝の味だ。

「ふぅ、生き返るなぁ! やっぱりタケシの飯を食べると、力がみなぎってくるぜ!」

サトシが豪快にトーストを頬張りながら、いつもの眩しい笑顔を見せる。その横ではピカチュウも、ケチャップを器用に塗りながら「ピカピカァ!」と元気に応えていた。

 

「サトシ、もう次のこと考えてるだろ?」

俺が水を向けると、サトシは目を輝かせせて頷いた。

「もちろんだぜ! 街の復興も順調だし、ミクリさんも『準備は整った』って言ってくれたからな。俺、今日……ルネジムに挑戦するんだ!」

「最後の一つだね、サトシ」

マサトが図鑑のバッジケースを確認しながら言う。そこには、これまでの激闘の証である7つのバッジが並んでいた。

「ああ。ルネジムを突破して、最後のバッジを手に入れたら、いよいよホウエンリーグ、サイユウ大会だ!」

 

「ミクリさんは、今回の事件を経てさらにその実力に磨きがかかっているはずだ。一筋縄ではいかないぞ」

タケシが冷静に分析する。

「分かってる! でも、俺とピカチュウ、それにジュプトルやオオスバメたち、みんなであの嵐を乗り越えたんだ。今の俺たちなら、どんな高い壁だって超えられる気がするんだ!」

 

俺は、自分のデバイスをチェックした。

ポリゴンZが収集した今回の「超古代ポケモンの覚醒と鎮静」に関する膨大なデータは、既にシルフカンパニーの本社、そしてオーキド研究所へと暗号化されて送信済みだ。

テスターとしての俺の任務は、事実上、今回の件で最高の結果を残したと言える。

だが、そんな職業的な達成感よりも、俺の心を満たしているのは、一人のトレーナーとして、この旅の終着点を見届けたいという強い欲求だった。

 

「……俺も行くよ。ジム戦の観戦……いや、俺もルネバッジを獲らなきゃならないからな」

「ミナト、お前も今日挑戦するのか?」

「ああ。お前が勝つのを待ってからじゃ、日が暮れちまうからな」

俺が冗談めかして言うと、サトシは「なんだとー!」と笑いながら俺の肩を小突いた。


聖域の門、ルネジムの前で

朝食を終えた俺たちは、街の中央、巨大な滝の裏側に隠されるようにして存在するルネジムへと向かった。

街の復興作業に従事する人々が、俺たちの姿を見つけると「頑張れよ!」「期待してるぞ!」と、温かい声援を送ってくれる。自分たちが守った街の人々からの言葉は、どんな勲章よりも重く、心に響いた。

 

ルネジム。水と幻想の聖域。

その入り口に立った時、俺たちの前に一人の男が優雅に降り立った。

「待っていたよ、若き英雄たち」

ミクリさんだ。彼は、かつてないほど鋭く、そして慈愛に満ちた瞳で俺たちを迎え入れた。

「君たちがこの街に、そしてこの星に示してくれた勇気。私はそれを、バトルのフィールドで受け止める義務がある。……ホウエン地方、最後にして最強の試練。受ける覚悟はできているかな?」

 

「もちろんです!!」

サトシが叫び、俺も静かに、しかし力強く頷いた。

 

背後ではハルカとマサト、タケシが、俺たちの背中を信じる瞳で見守っている。

空は、どこまでも高く、蒼い。

物語はいよいよ、ホウエン地方の集大成へと向かって動き出す。

伝説の傷跡を残したこのルネシティで、俺たちの「本当の強さ」が、今、試されようとしていた。

 

俺は、一歩。

水面に浮かぶバトルフィールドへと、迷いなく足を踏み出した。

 

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