アニポケ転生者物語   作:投稿者

326 / 346
ルネジム制覇
第285話


グラードンとカイオーガ、そして裂空の覇者レックウザによる神話の激突から数日。

一度は世界の終わりを予感させた絶望の嵐は去り、ルネシティには再び、透き通った光と穏やかな潮風が戻っていた。

街の至る所にはまだ破壊の爪痕が深く刻まれており、倒壊した建物の撤去や運河の清掃など、復興作業は始まったばかりだ。だが、瓦礫を運ぶ人々の表情には悲壮感はなく、自分たちの手で聖域を取り戻そうという、静かで強い意志が漲っていた。

 

「みんな、準備はいいか! いよいよ最後の一つ、ルネバッジへの挑戦だ!」

サトシがピカチュウを肩に乗せ、復興作業が進む街のメインストリートを駆け抜ける。

昨夜の疲れも見せず、彼の瞳は新たな挑戦への闘志で燃え上がっていた。

「サトシ、待ってよ! そんなに急がなくてもジムは逃げないわよ!」

ハルカが苦笑いしながら後を追う。

 

俺たちは街の中央、巨大な滝の裏側に位置するルネジムへと到着した。

そこは、周囲の喧騒を遮断したかのような、神秘的な静寂に包まれた水上スタジアムだった。

入り口では、白いマントを優雅に羽織ったジムリーダー、ミクリさんが俺たちを待っていた。

 

「ようこそ、若き英雄たち。……街の復興作業の合間ではあるが、君たちの挑戦を拒む理由はどこにもない。……むしろ、この荒廃したルネに新しい希望の光を灯すのは、君たちのバトルの熱気かもしれないね」

ミクリさんは優雅に一礼すると、俺とサトシを交互に見つめた。

「サトシ君、君からだね。……準備はいいかな?」

「もちろんです! 行くぜ、ミクリさん!」

 

こうして、ホウエン地方最後のジム戦、サトシ対ミクリの5対5のバトルが幕を開けた。

俺たちは観客席の最前列に陣取り、親友の最後にして最大の試練を見守ることにした。

 

「始めようか! 私の美しき水の世界、君に耐えきれるかな? 行け、ラブカス!」

「一番手はこいつだ! ヘイガニ、君に決めた!!」

 

ミクリの先発は、愛らしい姿とは裏腹にトリッキーな動きを見せるラブカス。

対するサトシは、ムロジムで鍛え上げたヘイガニを送り出した。

「ラブカス、『てんしのキッス』!」

「ヘイガニ、避けるな! そのまま『バブルこうせん』で押し返せ!」

序盤から激しい攻防が続く。ラブカスの素早い機動力に翻弄されるヘイガニだったが、サトシの泥臭い根性が、徐々にペースを掴んでいく。水中に潜るラブカスを『クラブハンマー』の一撃で水面へ叩き出し、サトシがまずは一体目を突破した。

 

だが、ミクリの本領はここからだった。

二体目のトドグラー、三体目のアズマオウ。ミクリはフィールドの水を自在に操り、ポケモンの技を「攻撃」ではなく「芸術(アート)」へと昇華させていく。

「アズマオウ、『つのドリル』!!」

「ヘイガニ!!」

強烈な一撃を食らい、ヘイガニが戦闘不能。続くサトシの二体目、コータスも、水上という圧倒的不利な環境下でトドグラーの『れいとうビーム』に足を封じられ、無念の敗退を喫した。

 

「(……さすがはミクリさんだ。地形の利を完璧に使いこなしている)」

俺は隣でポリゴンZが算出する勝率グラフを見ながら、ミクリの無駄のない指揮に舌を巻いた。

だが、追い詰められてからがサトシの真骨頂だ。

 

「頼むぞ、ジュプトル! お前のスピードを見せてやれ!」

サトシの三体目、エースの一角であるジュプトルがフィールドを駆ける。

水面の浮島を飛び石のように跳ね回り、トドグラーの巨体を翻弄する。

「『リーフブレード』!!」

緑色の閃光が走り、トドグラーを撃破。さらに、続くアズマオウに対しても、水中に引きずり込まれそうになりながらも、根性の『タネマシンガン』で逆転勝利を収めた。

 

しかし、ミクリの四体目、ナマズンの重厚なパワーの前にジュプトルも力尽きる。

サトシの残る手持ちは二体。対するミクリもあと二体。

戦いは、文字通りの総力戦へと突入した。

 

「行くぜ、オオスバメ! 空から攻めるぞ!」

四体目、オオスバメ。

「ナマズン、『いわなだれ』で空を封じなさい」

水面から噴き上がる巨大な岩石の弾丸。だが、あのレックウザの嵐を潜り抜けてきたオオスバメにとって、この程度の障害は障害にすらならなかった。

「突き抜けろ! 『つばめがえし』!!」

岩の隙間を縫うように急降下し、ナマズンの脳天を正確に射抜く。

激しい水しぶきと共に、ナマズンが沈んだ。

 

「素晴らしい……。嵐を越えた翼は、これほどまでに鋭くなるのか」

ミクリが満足げに微笑み、ついに最後の、そして最高のパートナーを呼び出した。

「さあ、フィナーレを飾ろう。……美しき水の神、ミロカロス!!」

 

眩い光と共に現れたミロカロス。その優雅な姿から放たれる威圧感は、これまでのポケモンとは比較にならない。

「ミロカロス、『ハイドロポンプ』!」

「オオスバメ、かわせ!」

だが、ミロカロスの水流は生きていた。空中で複雑に軌道を変え、回避したはずのオオスバメを背後から直撃する。

「オオスバメ!!」

墜落する相棒。サトシは間一髪でボールに戻し、最後の、そして唯一の親友を送り出した。

 

「最後は……お前しかいない! 行くぜ、ピカチュウ!!」

「ピカピカァァッ!!」

黄金の雷光が水上スタジアムを照らす。

 

「ミロカロス、『じこさいせい』!」

ミロカロスは受けたダメージを瞬時に癒やし、鉄壁の守りを見せる。サトシのピカチュウが放つ『10まんボルト』も、ミクリの巧妙な空間制御によって威力を分散させられてしまう。

「(このままじゃ、ピカチュウのスタミナが先に切れる。サトシ、どうする……!)」

 

「ピカチュウ、水の中に飛び込め!!」

サトシの常識外れの指示。ピカチュウは躊躇なく水中にダイブした。

「……!? 水の中では動きが鈍るだけよ?」

ミクリが眉を潜める。だが、サトシの狙いは別にあった。

 

「水中から……最大出力の『かみなり』だぁぁぁッ!!!」

水という最高の導体を媒介にし、雷のエネルギーがスタジアム全体を激しく震わせた。逃げ場のない水中での全方位攻撃。

ミロカロスが苦悶の声を上げ、水面へと浮上する。

 

「今だ、トドメの……『アイアンテール』!!」

水面を蹴って跳躍したピカチュウが、空中で独楽のように回転し、鋼鉄と化した尻尾をミロカロスの眉間へと叩きつけた。

 

巨大な水柱が上がり、やがて静寂が訪れる。

霧が晴れた時、そこには力尽きて浮かぶミロカロスと、荒い息をつきながらも浮島の上で毅然と立つピカチュウの姿があった。

 

「……ミロカロス、戦闘不能。よって勝者、マサラタウンのサトシ!!」

 

一瞬の静寂の後、ルネの街を揺るがすような大歓声が巻き起こった。

「やった……! やったぜ、ピカチュウ!!」

サトシがフィールドに駆け込み、ピカチュウを抱きしめて泣き笑いの表情を浮かべる。

 

「おめでとう、サトシ。最高のバトルだったよ」

俺は観客席で、これからの自分の戦いに向けた熱い鼓動を感じながら、親友の勝利を称えて力強く拍手を送った。

ホウエン地方、最後の一歩。サトシはついに8つ目のバッジを手に入れたのだ。

 

次は、俺の番だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。