アニポケ転生者物語   作:投稿者

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閑章
第290話


ルネシティでの壮絶なジム戦を終えた直後、心地よい疲労感に浸る間もなく、俺は一人、南の海へと翼を広げていた。

目的は、グランドフェスティバルへの最終切符。出場条件である5つのリボンのうち、俺の手元にはまだ3つしかない。ホウエン地方のコンテストシーズンも佳境を迎え、残された時間はあとわずか。残る2つのリボンをこの短期間で揃えるという、時間との絶望的なレースが始まっていた。

 

「急ぐぞ、ペリッパー。……お前の翼が頼りだ」

「ペリィィッ!」

俺を背に乗せたペリッパーが、力強く羽ばたき、131番水道の複雑な気流を切り裂いていく。眼下には、かつて登頂した『そらのはしら』が霧の中にその巨躯を隠し、さらに南には、ホウエン地方でも最も激しい潮流が渦巻く未知の海域が広がっていた。

 

数時間の飛行の後、水平線の彼方に、海面に浮かぶ不思議な影が見えてきた。

丸太を藤の蔓で繋ぎ合わせた巨大な筏(いかだ)の上に、木造の家々が密集して建ち並ぶ、水上の集落。

そこは、どの大陸にも属さず、ただ波のまにまに揺られ続ける街、キナギタウンだった。

 

「着いた……。ここが、世界の果ての街か」

ペリッパーから桟橋――というよりは巨大な浮き木――に降り立つと、足元から伝わってくる独特のゆったりとした揺れに、一瞬平衡感覚を奪われそうになる。潮の香りと古い木材の匂いが混ざり合い、この街が何世代にもわたって海と共に歩んできた歴史を感じさせた。

 

街は、異様な活気に満ちていた。海流に乗って運ばれてきた珍しい物資を扱う市場もさることながら、今日の主役は間違いなく、中心部の特設会場で開催されるポケモンコンテスト・キナギ大会だった。

「エントリー、まだ間に合いますか!?」

「ええ、ちょうど最後の枠が空いているわ。……挑戦者ミナト君、受付完了よ」

受付の女性からエントリーカードを受け取ると、俺はそのまま選手控室へと駆け込んだ。

 

今回のステージを共に歩むパートナーは、美しき水の化身、ミロカロスだ。

「ミロカロス。……海の上という、お前にとって最高の舞台だ。俺たちの集大成、ここから始めよう」

「ミロォォォ……」

ミロカロスは静かに、しかしその瞳には、かつてヒンバスと呼ばれていた頃の悔しさをすべて晴らすような、透明で力強い決意が宿っていた。

 

会場は、街の外縁部、大海原を借景にした海上の特設ステージだった。

波の音が天然のBGMとなり、水平線に沈みかける太陽が、ステージを黄金色に照らす天然のスポットライトとなる。

 

「一次審査、パフォーマンスステージ。エントリーナンバー20番、ミナト選手とミロカロス、スタートです!」

 

「行け、ミロカロス! 『あまごい』!」

ミロカロスが天に向かって高らかに鳴くと、澄み渡っていた空に局地的な雨雲が急速に形成され、真珠のような優しい雨が降り注ぎ始めた。

「そして、『アクアリング』!」

 

ミロカロスは自らの周囲に、幾重にも重なる水のリングを作り出し、その中で螺旋を描くように優雅に舞い踊った。降り注ぐ雨粒が、ミロカロスの放つアクアリングと干渉し、太陽の光を無数に乱反射させる。ステージは一瞬にして、巨大なダイヤモンドを敷き詰めたかのような虹色の輝きに包まれた。

「美しい……! なんて幻想的なの……!」

観客席から感嘆の声が漏れ、審査員のペンが激しく動く。ミロカロスの鱗の一枚一枚が、まるで呼吸するように光を放っていた。

 

二次審査、コンテストバトル。

決勝戦の相手は、深海のハンター、ハンテールを操るベテランのコーディネーターだった。

「ハンテール、『かみつく』!」

鋭い牙がミロカロスに迫る。だが、俺は冷静にその動きを見極めた。

「ミロカロス、受け止めろ。……そのまま『ミラーコート』だ!」

 

相手の放った物理的な衝撃さえも、ミロカロスは特殊な精神エネルギーへと変換し、倍加した衝撃波として弾き返した。予期せぬカウンターにハンテールが怯む。

「トドメだ! 海の力を借りるぞ、……『ハイドロポンプ』!!」

周囲の海水を巻き込み、ミロカロスの口内から放たれた圧倒的な水流が、ハンテールを包み込み、ステージ外の海へと押し流した。

 

「そこまで! 優勝は、ミナト選手です!」

 

俺は、ついに四つ目のリボンを手に入れた。

表彰式の壇上で、夕日を反射して輝くリボンを手に取り、俺はミロカロスの濡れた美しい首筋を優しく撫でた。

「やったな、ミロカロス。お前の美しさが、この海の波長を塗り替えたんだ」

「ミロォ……」

彼女は満足げに目を細め、俺の肩に頭を預けた。

 

「あと、一つ。……待ってろよ、ハルカ。……そしてカイナシティ」

 

キナギタウンの夜は、波音と共に更けていく。

リボン獲得の喜びを噛み締めつつも、俺の視線は既に次の、そして最後の決戦の地へと向いていた。

グランドフェスティバルの開幕まで、残された時間はあと数日。

俺たちは再びペリッパーの背に乗り、本土へと続く長い海路を、全速力で駆け抜けていった。

 

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