アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第291話

キナギタウンでの激闘を終え、四つ目のリボンを手に入れた俺は、ペリッパーの背に乗ってミナモシティ方面へと戻るべく122番水道を北上していた。

水平線の彼方から、海面を這うようにして立ち込める深い霧。その霧の向こう側に、まるで天を突く墓標のようにそびえ立つ巨大な霊峰が見えてきた。ホウエン地方に生きるすべてのポケモンたちの魂が最終的に辿り着き、安らかな眠りにつく場所。死者の安らぎの地――『おくりび山』だ。

 

「少し、寄り道していくか。……サーナイト、お前もこの場所の『気配』が気になるんだろ?」

俺が優しく語りかけると、腰のボールの中からサーナイトが肯定の、しかしどこか厳かな響きを含んだ精神波を返してきた。

コンテストにおける『美しさ』や『賢さ』という指標は、単なる技の洗練度だけでは測れない。生命の根源、あるいはその終着点に触れることで、魂の内側から溢れ出す圧倒的な表現力を身につける必要があると、俺は直感していた。そのためには、この聖域を素通りすることはできなかった。

 

霧の中に埋もれるようにして続く、苔むした古びた石の階段を一段ずつ登り、俺たちは山の中腹にある祭壇へと足を運んだ。

ここは、かつてマグマ団とアクア団が自らの歪んだ野望のために強奪した『べにいろのたま』と『あいいろのたま』が安置されていた、ホウエンの運命を司る中心地の一つだ。かつての激戦の跡は、ダイゴさんたちの尽力や、この山が持つ強大な浄化の力によって隠されつつあったが、それでもなお、空間には拭いきれない緊張感と、神聖な静寂が重く漂っていた。

 

「(今は、ただ静かだな……。あの時の、狂気と破壊の嵐が嘘のようだ)」

俺は祭壇の前に立ち、静かに目を閉じた。頬を撫でる冷たい風の音、遠くで鍾乳石から滴り落ちる水滴の音、そして目に見えない無数の生命の『残響』。

前世の知識の中では、ここはただのイベントフラグを回収し、伝説のポケモンを目覚めさせるための通過点に過ぎなかった。だが、この血の通った世界においては、何万、何億というポケモンの命がこの山に還り、その想いが折り重なって今の豊かなホウエンの大地を支えているという、逃れようのない重みを、俺は肌で感じずにはいられなかった。

 

不意に、深い霧の向こう側から青白い火の玉のような、燐光を放つ光がいくつも揺らめきながら現れた。

野生のカゲボウズやヨマワル、そして古びた影を纏ったジュペッタたちが、侵入者である俺たちの様子を伺うように、音もなく漂い始めたのだ。

彼らは普段、人間を驚かせたり、負の感情を糧にする不気味なポケモンとして恐れられている存在だ。だが、この聖域を守護するように住まう彼らの瞳には、邪悪な意図や害意など微塵もなかった。そこにあるのは、ただ純粋な、そして少しの寂しさを孕んだ好奇心だけだった。

 

「サナァ……」

ボールから自らの意志で出てきたサーナイトが、俺の前に静かに歩み出た。彼女は、集まってきたゴーストポケモンたちの中心に悠然と立ち、慈愛に満ちた笑みを浮かべている。

「サーナイト、彼らと何かを話しているのか?」

『……ええ。彼らは教えてくれているわ。ここは決して、悲しみや絶望だけが支配する暗い場所じゃないのだと。……かつてこの世界を力いっぱい駆け抜けた仲間たちの、温かい思い出と、未来への純粋な願いが集まり、溶け合う場所なのだと』

 

サーナイトの赤い瞳が、水晶のような透明な光を帯びる。彼女は純白のドレスのような羽を優雅に翻すと、ゴーストポケモンたちをエスコートするように、ゆっくりと、しかし力強く踊り始めた。

それは、失われた尊い命への鎮魂の舞であり、同時に、今この過酷な世界を生き抜いているという生命の眩いばかりの輝きを、天へと高らかに宣言する祈りの舞でもあった。

濃い霧の中で揺らめくサーナイトの、この世のものとは思えないほど美しいシルエット。彼女の周囲を、ゴーストたちが操る紫色の炎(おにび)が、魂の導火線のように幻想的なライトアップとなって包み込んでいく。

 

「(表現力……。いや、これはもはや『演技』という言葉すら生ぬるいな。魂の共鳴そのものだ)」

俺はデバイスを構えることさえ忘れ、そのあまりにも儚く、それでいて力強い光景を、瞬きすることさえ惜しんで見守った。

高価なきのみを与え、最新の機材でコンディションを整える。もちろんそれは、俺というテスターの仕事としては正解だろう。だが、それ以上に大切なのは、ポケモンの心、そして命の連なりという巨大な大河の流れに身を任せ、その一部であることを受け入れることなのだと、俺は今、おくりび山の静寂の中で確信していた。

 

舞い終えたサーナイトの周囲に、ゴーストポケモンたちが感謝を伝えるようにひとしきり舞い踊ると、彼らは再び霧の彼方へと、満足げに消えていった。

「ありがとう、サーナイト。……そして、おくりび山の名もなき住人たち。最高のインスピレーションをもらったよ」

山を下りる頃には、サーナイトの表情は以前よりもさらに晴れやかで、一国の女王のような気高さと、すべてを包み込むような慈愛を纏っていた。

 

「次の、そして俺たちのホウエンの集大成となる、最後のリボンを懸けたプリカ大会。……お前で行こう、サーナイト。この山で受け取った『命の灯火』を、そのままステージで表現するために」

サーナイトは力強く頷き、俺の掌をギュッと、確かな熱量を持って握りしめた。

俺たちは霊峰を後にし、最後のリベンジの舞台が待つ港町・プリカシティへと向かう船に乗り込んだ。

残された時間はわずかだが、今の俺たちには、運命さえも味方につけるという静かな自信が、胸の奥底で消えることのない炎となって燃え盛っていた。

 

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