アニポケ転生者物語 作:投稿者
カイナシティへと続く海路の途上にある、風光明媚な港町、プリカシティ。
ここはグランドフェスティバルの開幕を目前に控え、ホウエン地方で今年最後に開催される公式コンテストの会場として、異様な熱気に包まれていた。
街の広場には、リボン獲得まであと一つ届かなかった「駆け込み」の強豪コーディネーターたちが集結し、会場のあちこちで一触即発の緊張感が漂っている。負ければ、これまでの数ヶ月の努力がすべて無に帰す。その重圧が、潮風と共に俺たちの肌を冷たく刺した。
「ここが、文字通りのラストチャンスだ。……行くぞ、サーナイト。お前とおくりび山で見つけた『答え』、ここで見せてやれ」
「サナァッ!!」
俺の言葉に応え、サーナイトが鋭い眼差しでステージを見据えた。
会場は、街のシンボルでもある歴史ある劇場を改造した特設ドーム。満員に膨れ上がった観客席からは、祈るような、あるいは期待に満ちた複雑なため息が漏れている。
「一次審査、パフォーマンスステージ。エントリーナンバー48番、ミナト選手とサーナイト、スタートです!」
俺とサーナイトは、薄暗いステージの中央へと歩み出た。
今回の演技テーマは、あの霊峰で感じた、……失われた命への鎮魂と、未来を照らす希望。すなわち『祈り』だ。
「サーナイト、全感覚を研ぎ澄ませ。……『めいそう』」
サーナイトが静かに目を閉じ、胸の前で両手を組んで祈りを捧げるポーズをとった。その瞬間、会場の眩い照明が完全に落とされ、一本の純白のスポットライトだけが彼女を照らし出す。
完全な、墓標のような静寂。サーナイトの周囲に、彼女の精神集中によって生み出された淡い紫色のオーラが陽炎のように揺らめき始めた。
「……今だ。『ムーンフォース』」
サーナイトが天に向かって両手を高く掲げると、その指先から眩いばかりの銀色の光球が現れた。光球は劇場全体の空気を震わせながら膨張し、まるで本物の満月がステージに降臨したかのような錯覚を観客に与えた。
「わぁ……っ!」
あまりの神々しさに、観客たちが声を出すことさえ忘れ、ただ息を呑む。光はどこまでも優しく、冷たく、そして温かかった。
「そして、『サイコキネシス』でその光を……解き放て!」
サーナイトが光球を空中で優雅に一振りすると、巨大な月の欠片が瞬時に弾け、無数の微細な光の粒子となって客席へと降り注いだ。
それはまるで、おくりび山で見たゴーストたちが運んでいた『魂の火』のようであり、また夜空を彩る星屑の雨のようでもあった。派手な爆発や効果音はない。だが、その光の粒が肌に触れるたびに、観客たちの心には安らぎと、明日への活力が満ちていく。
「素晴らしい……! まるで魂が洗われるような、そんな演技だわ……」
審査員の一人が、溢れる涙を隠すことなくハンカチで目頭を押さえた。
一次審査を圧倒的な最高得点で突破。そして迎えた二次審査、コンテストバトルの決勝戦。
俺たちの前に立ちはだかったのは、同じくあと一つのリボンを求めて背水の陣で挑んできた、ベテランのフーディン使いだった。
「フーディン、相手の精神を掻き乱せ! 『サイコキネシス』の集中砲火!」
「サーナイト、真っ向から受け止めるな。……包み込むんだ」
エスパーポケモン同士の、一瞬の油断も許されない熾烈な精神戦。
サーナイトは、フーディンの放つ殺気立った攻撃を一つ一つ正面から受け止め、それを自らの祈りの波動で優しく中和していった。まるで、荒れ狂う嵐を静める凪のように。
「争う必要はない。お前の痛み、すべて受け入れよう。……『チャームボイス』」
サーナイトの喉から、透き通った歌声が響き渡った。
それは攻撃というよりは、戦う意志そのものを浄化し、安らぎを与える天使の歌声。フーディンはその声に魅了され、スプーンを握る手を止め、うっとりと聴き入ってしまった。
「(今だ、慈悲を持って……決めるぞ!)」
「『マジカルリーフ』!!」
虹色に光り輝く木の葉が舞い踊り、無防備になったフーディンを優しく包み込んだ。
それはダメージを与えるための刃ではなく、勝利という名の祝福を告げるフィニッシュだった。
「……フーディン、戦闘不能! 優勝は、ミナト選手です!!」
「やった……!!」
俺は力強くガッツポーズをした。
五つ目のリボン。
これで、ついに俺は……ハルカと同じ、グランドフェスティバルの舞台に立つ資格を得たのだ。
サーナイトがステージ上で俺に駆け寄り、力いっぱい抱きついてきた。
「ありがとう、サーナイト。お前が信じてくれたから、ここまで来れたよ」
俺たちは、万雷の拍手と降り注ぐ紙吹雪の中で、最後のリボンを高く掲げた。
それは、かつてマサラタウンを飛び出した少年が、ホウエンの大地で掴み取った、最も重く、最も美しい栄光の証だった。
「待ってろよ、ハルカ。サトシ。……俺も、今すぐそっちへ行くぞ!」
俺たちはプリカシティの港へと走り、決戦の地、カイナシティへと向かう船に飛び乗った。
水平線に沈みゆく夕焼けが、俺たちの背中を、黄金色に祝福するように染め上げていた。