アニポケ転生者物語   作:投稿者

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ホウエングランドフェスティバル
第294話


カイナシティ グランドフェスティバル会場。

海に面した巨大なドームスタジアムは、今日という日のために特別にデコレーションされていた。空には無数の色とりどりの垂れ幕が舞い、潮風に乗って人々の興奮が会場全体を包み込んでいる。

世界中から集まった観客の数は数万人に上り、予選を勝ち抜いた247名のトップコーディネーターたちが放つプレッシャーは、肌を刺すような熱気となってスタジアムの空気を震わせていた。

 

「すごい人だね……。今まで何度もコンテストには出てきたけど、やっぱりグランドフェスティバルは別格だよ」

俺の隣で、ハルカが小さく息を吐きながら呟いた。その指先はわずかに震えているが、見開かれた瞳には強い意志の光が宿っている。

「ああ。ここにいる全員がリボンを5つ集めてきた強者だ。……でも、ビビる必要はない。今までやってきたこと、全部出すだけだろ」

俺がそう言って肩に手を置くと、ハルカは「うん!」と力強く頷き、少しだけ緊張が解けたような笑顔を見せた。

 

観客席の最前列近くには、サトシ、タケシ、マサト、そしてピカチュウたちの姿が見える。

「ミナトー! ハルカー! 頑張れよー!」

サトシの大きな声が、ドームの反響を突き抜けてここまで届いてきた。マサトも身を乗り出して、姉であるハルカに手を振っている。彼らの声援は、この張り詰めた空気の中での数少ない清涼剤だった。

 

「レディース・アンド・ジェントルメン! ようこそ、夢の祭典、グランドフェスティバルへ!!」

突如、照明が落ち、一点の鋭いスポットライトがステージ中央に位置する黄金のリボンカップを照らし出した。

司会者のリリアンが華やかに登場し、割れんばかりのファンファーレと共に、ついに大会の幕が上がった。

 

控室に漂う空気は、ステージ上の華やかさとは対照的に、重く鋭い。

そこに現れたのは、シュウだった。相変わらずのクールな佇まいで、一輪のバラを弄んでいる。

「……やっとここまで来たね、ハルカ。そしてミナト。君たちがどこまで通用するか、楽しみにさせてもらうよ」

「シュウ……。負けないからね!」

ハルカが言い返すと、シュウはフッと口角を上げた。その視線はハルカだけでなく、明らかに俺と俺の腰にあるモンスターボールを値踏みするように捉えている。

「ミナト、君の合理的なスタイルが、このグランドフェスティバルの『美』にどう評価されるか。……お手並み拝見だ」

 

その時、独特な笑い声と共に、紫色の衣装に身を包んだ男が入ってきた。ハーリーだ。

「あらあら〜! 相変わらず仲良しこよしで気持ち悪いわねぇ、カモネギさんたち!」

「ハーリーさん!」

ハルカが露骨に嫌な顔をする。ハーリーはクネクネと体をくねらせながら、ハルカの顔を覗き込んだ。

「一次審査で落ちちゃって、泣きながらパパとママのところに帰る準備はできてるかしらぁ? うふふ、楽しみ!」

「そんなこと、させませんよ」

俺が一歩前に出てハーリーを遮ると、彼は面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「……チッ。あんたのその、何でも分かってますって顔、本当にムカつくわ。精々恥をかかないように頑張ることね!」

 

罵声を背に受けながら、俺たちはそれぞれの準備に入る。

一次審査は、ポケモン一匹によるパフォーマンス。ここで247名から一気に64名まで絞られる。わずかなミスが命取りになる、過酷な門だ。

 

「エントリーナンバー101番、ミナト選手!」

 

名前を呼ばれ、俺は光の射すステージへと足を踏み入れた。

足裏に伝わるステージの感触。数万人の視線が自分という一点に集中する重圧。

俺はデバイスを起動し、周囲の気流、湿度、温度のリアルタイムデータを網膜ディスプレイに投影する。

(……風向きは北北西、湿度はやや高め。完璧な条件だ)

感情を殺し、計算された最適解を導き出す。それが俺のスタイルだ。

 

「行くぞ、ペリッパー! 出番だ!」

ボールから飛び出したペリッパーが、その大きな翼を広げて高く舞い上がる。

「ペリィッ!」

同時に特性『あめふらし』が発動。ステージ上空だけに、狙い澄ましたような局地的な雨雲が発生し、細かな霧雨が降り注いだ。

スタジアムの照明が、空から降る無数の粒子に反射し、ステージ全体が銀色に輝くヴェールに包まれる。

 

「『ハイドロポンプ』、スパイラル照射!」

ペリッパーが上空で高速回転を始めた。その嘴から放たれた高圧の水流が、螺旋を描きながら天へと向かって突き抜ける。

俺はデバイスでタイミングを計り、照明の切り替えを確信した瞬間に次の指示を飛ばす。

「今だ、霧散させろ!」

ペリッパーが羽ばたきと共に強烈な風を起こし、螺旋の水柱と雨雲を同時に吹き飛ばした。

刹那、雲間から差し込んだ複数のスポットライトが、空間に残留する無数の水滴をプリズムに変え、ステージ上に幾重にも重なる巨大な「虹の架け橋」を出現させた。

 

「……美しい! まるで荒天の後に訪れる、自然の雄大さと静寂をそのまま切り取ったかのようです!」

審査委員長のコンテスタ氏が身を乗り出して叫ぶ。

「技の威力を見事に制御し、一瞬の情景に昇華させていますね。素晴らしい技術です」

ジョーイさんも感銘を受けた様子で拍手を送ってくれた。

 

ステージを降りる際、次に向かうハルカとすれ違う。

「ミナト君、すごかった……! 虹が出るなんて思わなかったよ」

「データ通りだ。……次はハルカ、お前の番だぞ。エネコを信じろ」

俺はハルカの肩を軽く叩き、バトンを渡した。

 

「ハルカ、行きます! エネコ、お願い!」

「エネコォッ!」

ハルカの声と共に、エネコが愛らしくステージを跳ね回る。

「『ネコにこばん』!」

空中に放たれた無数の光るコイン。ハルカはそれを眺めることなく、即座に次の指示を出す。

「今よ、『ふぶき』!」

エネコが放った冷気がコインを核として氷結させ、キラキラと輝く氷のコインへと変えていく。

重力に従って落ちる光の粒が、ステージ上でダンスを踊るエネコを飾り立てる。それは、ミナトの計算された美しさとは対照的な、生命の躍動感に溢れた「華」だった。

 

「可愛い! そしてなんて華やかなんでしょう!」

観客席からは、ひときわ大きな歓声が上がる。サトシたちもマサトと一緒に「やったー!」と声を張り上げていた。

 

その後も、シュウのロゼリアによる緻密な花の舞や、ハーリーのノクタスが見せた禍々しくも独創的な演技が続き、会場の熱気は最高潮に達した。

レベルが違う。これがリボンを勝ち抜いてきた、トップコーディネーターたちの実力。

 

運命の結果発表。

巨大なオーロラビジョンに、通過者のエントリーナンバーが次々と映し出されていく。

会場に静寂が訪れる。ハルカが俺の腕を強く掴んだ。

 

表示が止まった。

 

「……あった! ミナト君、私の番号! 102番、あったよ!」

「ああ。101番もな。……残ったか」

掲示板には、俺たちの番号の横に、シュウやハーリーの番号も並んでいた。

だが、この瞬間に半数以上のコーディネーターたちの夢が絶たれたのだ。喜びと、その背後にある残酷な現実を噛み締めながら、俺は次のステージを見据える。

 

「次は二次審査。ここからは、ポケモン二匹を使ったダブルバトルのコンテスト形式だ。……ハルカ、ここからが本番だぞ」

「わかってる。……でも、負けないからね。ミナト君にも、誰にも!」

ハルカは俺に向かって不敵に微笑んで見せた。

共に勝ち残るという約束。だが、トーナメントが進めば、いつかは互いに戦わなければならない時が来る。

 

夢の舞台は、まだ始まったばかりだ。

俺たちは互いに拳を軽く合わせると、さらなる高みを目指して、熱狂の渦巻くスタジアムの奥へと歩き出した。

 

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