アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第297話

「試合終了まで、残り30秒!!」

リリアンの鋭い実況が響き、スタジアムのボルテージは最高潮に達していた。

オーロラビジョンに映し出されたポイントゲージは、俺とハルカの間でミリ単位の削り合いを繰り返している。一歩も引けない、極限の緊張状態。

俺は冷静にデバイスの数値を読み取っていた。

(……ハルカのポイントがわずかに上だ。だが、ここまでは計算通り。最後に『美しさ』の差でひっくり返す!)

 

「ラストスパートだ!ミロカロス、『アクアリング』!サーナイト、『めいそう』!」

俺は攻めではなく、徹底的な防衛と自己強化の陣形を指示した。ミロカロスの周囲に幾重にも重なる水のリングが出現し、それがサーナイトが放つ精神エネルギーと共鳴して、ステージ上に神秘的な「光と水の神殿」を作り出した。

完璧な統制。一点の曇りもない、計算し尽くされた美の極致だ。観客席からは溜息のような驚嘆が漏れ、審査員たちの点数が俺の方へじりじりと流れてくるのが分かった。

 

だが、ハルカはそんな俺の「完璧」を真っ向から打ち破るべく、信じられない指示を飛ばした。

「守りに入るなんてミナト君らしくないよ!エネコ、『ねこのて』!」

エネコがその小さな前足を交互に振ると、スタジアムに不思議なエネルギーの渦が発生した。何が出るか分からないギャンブル。普通ならこの局面で選ぶはずのない不確定要素。

だが、ハルカとエネコが引き寄せたのは、これまでの旅で培った絆の奇跡だった。

エネコの口元に、猛烈な太陽エネルギーが収束していく。

「……っ、嘘だろ!?『ソーラービーム』か!」

前の試合でフシギダネが見せた、あの光の奔流。エネコの『ねこのて』が、チームメイトの技を最高に近いタイミングで引き出したのだ。

 

「ワカシャモ、全開で行こう!『オーバーヒート』!!」

ハルカの叫びに呼応するように、ワカシャモが全身から爆発的な炎を放った。それは単なる技の域を超え、ハルカの情熱がそのまま具現化したかのような、荒々しくも美しい命の輝きだった。

『ソーラービーム』の白い閃光と、『オーバーヒート』の紅蓮の炎が渦を巻きながら融合し、巨大な光の龍となって俺の構築した「神殿」へと牙を剥く。

 

「(ここだ!受けて立つ!)ミロカロス、『ハイドロポンプ』!サーナイト、それを増幅させる『サイコショック』!」

俺もデバイスの演算を限界まで回し、瞬時に迎撃の指示を出す。

ミロカロスの放つ極大の水流に、サーナイトの念力の波動が干渉し、水流そのものが物理的な破壊力を持つクリスタルのような槍へと変質していく。

計算上の最適解。この威力なら、ハルカの無秩序な熱量を貫けるはずだった。

 

光、水、炎、念力。

四つの極大技がフィールドの中央で正面から衝突した。

刹那、スタジアム全体を塗りつぶすほどの白い光が爆発し、強烈な衝撃波が俺たちの髪と衣服を激しく揺らした。

轟音がドームの壁を震わせ、もうもうと立ち込める白い煙がフィールドを完全に覆い隠す。

「……ッ、どうなった!?」

サトシの声が遠くで聞こえる。数万人の観衆が、息を呑んで煙の先を見守っていた。

 

やがて、ゆっくりと煙が晴れていく。

そこにあった光景に、俺は言葉を失った。

四匹のポケモンは、どれも立っているのがやっとの満身創痍だった。

だが、ワカシャモとエネコは、互いに肩を寄せ合い、支え合いながら、一歩も引かずに俺たちを睨みつけていた。その瞳には、勝利への渇望以上に、バトルを心の底から楽しんでいる純粋な輝きがあった。

対して、俺のサーナイトとミロカロスは、完璧なポーズを維持しようとしながらも、その膝は微かに震え、どこか窮屈そうに俺の顔を伺っていた。

 

ピーッ!!

タイムアップを告げる非情なブザーが鳴り響いた。

一瞬の静寂の後、オーロラビジョンのポイントゲージが確定する。

 

「……勝者、ハルカ選手!!」

 

僅差。本当に、ほんのわずかな、誤差のような差だった。

だが、その差こそが、俺とハルカの今の距離だった。

俺の演技は「完璧」を目指すあまり、どこか予定調和の枠を出ず、観客を驚かせるための計算に縛られていた。

ハルカの演技は、ポケモンたちが生き生きと躍動し、トレーナーと共に一瞬一瞬を本気で楽しみ、そのパッションが奇跡を呼び込んでいた。

その「生命の輝き」が、観客の、そして審査員の心を最後の一押しで動かしたのだ。

 

「……負けたか」

俺はステージの天井を見上げ、深く、長く息を吐き出した。

負けた悔しさは、確かにある。喉の奥が焼けるような、苦い感覚。

だが、それ以上に――驚くほど清々しい気分だった。

あんなに熱く、心が震えるような時間を共有できた。計算やデータだけでは決して辿り着けない領域を、ハルカが俺に教えてくれた。

 

「ミナト君……」

ハルカが、まだ信じられないといった様子で、震える足取りで駆け寄ってくる。

「すごかった。……本当に、どっちが勝ってもおかしくなかったよ。私、今でも心臓が止まりそう……」

「ああ。……完敗だ、ハルカ。お前とポケモンたちの方が、俺たちよりもずっと輝いてたよ」

俺は右手をハルカに差し出した。

ハルカは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに目に涙を溜めながら、その手を両手で力強く握りしめた。

その温もりが、バトルの余熱と共に俺の心に伝わってくる。

 

「ありがとう。……ミナト君がいてくれたから、ここまで来られたんだよ」

「よせ。俺はただ、お前の凄さを引き出すための噛ませ犬に過ぎなかったみたいだ」

「そんなことない! ミナト君は、いつだって私の目標で……世界で一番尊敬してるコーディネーターなんだから!」

ハルカの真剣な言葉に、俺は柄にもなく鼻の奥がツンとした。

 

「……優勝しろよ。俺を倒したんだから、当然だよな。俺の自慢の、世界一のパートナーなんだからさ」

「うん……! 絶対、絶対にリボンカップ、獲ってくるから!」

会場から、敗れた俺にも、勝ったハルカにも、これまでにないほど惜しみない拍手と歓声が送られた。

 

俺たちの戦いは終わった。

だが、ハルカの夢は、ここからファイナルへと続いていく。

俺はステージを降り、ポケモンたちを労いながら観客席へと向かった。

これからは一番のファンとして、彼女が頂点に立つその瞬間を、誰よりも近くで見届けるために。

俺の胸にあるのは、かつての執着ではない。

ただ純粋に、大切な人の輝きを信じる、穏やかな誇りだった。

 

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