アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第303話

翌朝。サイユウシティの空は、吸い込まれるような紺碧の快晴だった。

標高の高いこの場所では、太陽の光がカントーよりも鋭く肌を焼き、それでいて吹き抜ける風は氷のようにひんやりと澄んでいる。

俺は早朝の露が乾く前から、選手村に隣接する最新鋭の第4トレーニングフィールドへと向かった。

そこには、既にサトシとピカチュウの姿があった。朝の光を浴びて、二人とも既に一汗かいたような熱気を放っている。

 

「早いな、サトシ。相変わらず気合が入ってるじゃないか」

俺が声をかけると、サトシは白い歯を見せて笑った。

「ミナト! おう、いてもたってもいられなくてさ! ピカチュウも、早くお前のポケモンたちと戦いたいってウズウズしてるんだぜ!」

「ピカピカッ!」

ピカチュウが頬の電気袋からバチバチと火花を散らし、俺の肩を飛び越えてフィールドへと降り立った。

 

俺たちは、大会本番のフルバトルを想定した、三対三の合同スパーリングを行うことにした。

「俺たちの今の全力を、この場でぶつけ合おう。……手加減なしだ。お前のその『無茶苦茶』を俺に叩き込んでくれ」

「望むところだぜ、ミナト! お前の計算を、俺たちのド根性でぶち壊してやる! 行け、ジュプトル!」

 

サトシが繰り出したのは、鋭い目つきのジュプトル。かつてのキモリが、ホウエンの旅を通じてサトシとの絆を深め、研ぎ澄まされた緑の刃へと進化した姿だ。

対する俺は、ホウエンでの圧倒的な機動力を象徴する相棒を選んだ。

 

「風を見せてやれ! フライゴン、出番だ!」

 

「グォォォォン!!」

ボールから飛び出した砂漠の精霊、フライゴンがフィールドに降り立つ。その紅い瞳の防塵ゴーグルが、朝日に反射して鋭く光り、羽ばたき一つで周囲に砂塵を巻き上げた。

 

「先手必勝だ! ジュプトル、『リーフブレード』!」

ジュプトルが驚異的な瞬発力で地面を蹴り、フライゴンの懐へと一瞬で潜り込んだ。両腕の木の葉が鮮やかな緑色の光を纏い、巨大な断罪の刃となって振り下ろされる。

「フライゴン、垂直上昇で回避! そのまま『りゅうのいぶき』!」

 

フライゴンは物理法則を無視したかのような羽ばたきで真上へと逃れ、空中で反転。真下に向かって蒼い火炎のような破壊の息吹を叩きつける。

「ジュプトル、フィールドの岩を利用して跳べ!」

サトシの指示で、ジュプトルは設置された擬似岩を三角跳びの要領で蹴り、空中をステップするように移動して息吹を紙一重でかわした。

(流石だな……。あのアクロバティックな動き、ヒワマキジムでのナギさんとの戦いでさらに磨かれたか。野生の勘に技術が追いついてきている)

 

以前のサトシは勢い任せな部分が多かったが、今の彼はポケモンの特性と地形を完全に把握し、その場で生まれる一瞬の閃きを即座に戦術へと昇華させている。まさに「生きた戦略」の権現だ。

 

「フライゴン、『すなあらし』でステージを支配しろ!」

フライゴンが翼を激しく震わせると、フィールド中央に巨大な砂の渦が発生し、スタジアムの視界を遮断した。

「グォォォッ!!」

視界不良、呼吸困難。その過酷な環境の中でこそ、フライゴンの真価が発揮される。

 

「どこから来る……? ジュプトル、目じゃなく耳で音を聞け! 風の流れを感じるんだ!」

サトシが目を凝らし、叫ぶ。

その一瞬の隙を突き、フライゴンが砂塵の中から音もなく、彗星のような速度で現れた。

「『ドラゴンダイブ』!!」

 

「ジュプトル、『こらえる』で耐えろ!!」

直撃。激しい衝撃が走り、ジュプトルの体がフィールドの隅まで転がる。だが、彼は膝を震わせながらも、サトシの声に応えて不屈の意志で立ち上がった。

「お返しだ、零距離からの『タネマシンガン』!」

「フライゴン、『はがねのつばさ』を盾にして弾き返せ!」

 

火花が散り、激しい衝撃波がフィールドの空気を何度も揺らす。

その後も、俺のボスゴドラとサトシのコータスによる重量級の激突、さらにはマッスグマとオオスバメによる音速の空中戦が続いた。

一進一退。互いの体力が尽きるまで続く、これは特訓という名の、魂の削り合いだった。

 

「ふぅ……。ここまでだな」

俺はフライゴンをボールに戻し、肩で大きく息を吐いた。

全身から滝のような汗が噴き出し、心臓の鼓動が耳の奥で激しく鳴っている。

 

「はぁ、はぁ……。やっぱりすげえな、ミナト。お前のポケモンたちは、どの角度から攻めても完璧な答えを返してくるぜ」

サトシも同様に肩で息をしながら、しかし満足げに、この上なく楽しそうに笑った。

「サトシ、お前もだ。……あのジュプトルの機動力、本番で当たったら俺の計算も狂わされかねないな」

 

俺たちはフィールド近くのベンチに座り、タケシが用意してくれた冷えたスポーツドリンクを一気に煽った。

「ミナト、リーグでは絶対に勝ち進んで、決勝で会おうな」

「ああ。シロガネ大会のあの決着、ここホウエンの最高峰で塗り替えようぜ」

 

俺はサイユウの空を見上げた。

そこには、俺たちがホウエンの各地で、時に争い、時に助け合いながら見てきた、広大で、自由な空がどこまでも広がっていた。

キンセツの電気、煙突山の熱気、流星の滝の静寂、そして海底洞窟の闇。

その全てを相棒たちと経験し、乗り越えてきたからこそ、今の俺たちの「絆」がある。

 

(バタフライエフェクト……。サトシが原作以上に強く、賢くなることで、俺もまた、自分の限界を超えた高みへと手を伸ばせる)

 

俺は自分の右手を見つめた。

少しだけ震えている。それは武者震いか、それともこの先に待つ激戦への純粋な興奮か。

かつて転生したばかりの頃、シルフのデータと原作知識だけを信じ、勝利のみを追っていた自分には、想像もできなかったほど熱い「血」が、今の俺には流れている。

 

フィールドの隅では、ハルカが俺たちのポケモンを甲斐甲斐しく労っていた。

「ミナト君、サトシ! お疲れ様! 二人とも、本当にかっこよかったよ!」

彼女の弾けるような明るい声が、火照った体に心地よく響いた。

決戦へのカウントダウンは、一刻一秒と着実に進んでいる。

俺は、隣に座る最高の友であり、超えるべき壁である少年の背中を見ながら、次なる戦略の断片を脳内で緻密に組み立て始めた。

ホウエンの頂点。

その座を掴み取るための、最後の一歩。

俺たちの特訓は、日が沈み、スタジアムに照明が灯るまで続けられた。

一秒も無駄にはできない。この街に集まった全員が、同じように命を削って牙を研いでいるのだから。

夕闇が街を包み込む頃、俺の瞳には、かつてないほど鋭く、冷徹で、それでいて情熱的な勝負師の光が宿っていた。

「行くぞ、ポリゴンZ。最終的な環境データの統合を頼む」

『了解。……気象・地形データ同期完了。……マスター。勝率の予測は、もはや意味をなしません。勝利を掴むのは、計算ではなく、あなたの意志です』

ポリゴンZの機械的な、しかし温かみを帯びた言葉に、俺は力強く頷いた。

さあ、現実を俺たちの色に塗り替える準備は、全て整った。

 

シンオウ地方以降ハルカとの行動について

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