アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第305話

その日の夜。選手村のコテージの裏庭で、俺とサトシは小さな焚き火を囲んでいた。

タケシやマサトは既に深い眠りにつき、ハルカも「明日、みんなのための特大の応援旗を作るんだ!」と目を輝かせて自分の部屋に戻っていった。

静まり返った夜の空気の中で、パチパチと爆ぜる薪の音だけが、心地よいリズムを刻んでいる。

 

「……なぁ、ミナト」

サトシが、揺らめく焚き火の炎をじっと見つめながら、ぽつりと口を開いた。

その瞳には、昼間の特訓の時のような剥き出しの闘志とは違う、静かで、しかし揺るぎない熱が宿っていた。

 

「なんだ?」

 

「俺さ、時々思うんだ。お前って、最初からこの世界の全部を知ってるみたいだなって」

サトシの言葉に、俺の心臓がドクンと大きく跳ねた。背中に冷たい汗が流れる。

自分が転生者であるという秘密。この世界の「未来」や「設定」を知っているという、本来あり得ざる事実。

それらが、理屈を超えた鋭い感性を持つサトシには、無意識のうちに伝わっていたのかもしれない。野生の勘、あるいは「波導」に近い何かが、俺の特異性を嗅ぎ取っていたのだ。

 

「全部知ってる、か。……お前には、そう見えるのか?」

「ああ。バトルの先読みも、ポケモンの育て方も……。なんだか、俺たちのずっと先を行ってる感じがするんだ」

サトシは苦笑いしながら、足元の小枝を一本、指先でパキリと折った。

「シロガネ大会で負けた時、俺、本気で悔しかった。……でも、それ以上にワクワクしたんだ。こんなに強くて、底の知れない奴が、俺と同い年にいるのかってさ」

 

「サトシ……」

 

「ジョウトで別れてから、ホウエンに来て……俺、お前に追いつこうと必死だった。お前がコンテストに出るって聞いた時は驚いたけど、そこでも当たり前みたいに結果を出してるのを見て、やっぱりお前はすげえなって、改めて思ったよ」

サトシは焚き火から目を離し、俺を真っ直ぐに見据えた。

「でもさ、今回のリーグでは……俺、お前に勝つぜ。データとか知識のその先にある、俺とこいつらのド根性が、お前の完璧な計算をぶち破る瞬間を楽しみにしてろよ!」

 

「ピカピカ!!」

足元で丸まって寝ていたピカチュウが、その言葉に呼応するように目を覚まし、尻尾を振って力強く鳴いた。

 

俺は、熱くなった胸の奥を落ち着かせるように、ゆっくりと頷いた。

「……そうだな。確かにお前には、俺には逆立ちしても真似できない『何か』がある」

 

俺は、焚き火に新しい薪を一本くべた。

「俺は、効率や論理を重視しすぎる癖がある。……でも、サトシ。お前と出会って、お前のあの無茶苦茶で、熱すぎるバトルを見て……俺の中にあった『常識』という名の壁は、何度も何度も壊されたんだ。お前がいて、お前がいつも斜め上の答えを出してくるから、俺はただのデータ主義者ではなく、一人のトレーナーとして、ここまで強くなれたんだ」

 

これは、偽らざる俺の本心だった。

原作知識という、卑怯とも言えるカンニングペーパーを持っていても、サトシという「予測不能な存在」がいなければ、俺の旅はもっと無機質で、冷めきった退屈なものになっていただろう。

彼がいて、彼が予想を裏切る速度で成長し続けるからこそ、俺もまた、自分を極限まで磨き続けることができたのだ。

 

「お前は俺にとって、ただの友人じゃない。……一生をかけて超え続けなければならない、最高の、そして唯一のライバルだ」

 

「……へへっ。そう言ってもらえると、なんだか照れるな」

サトシは鼻の頭を指で擦り、少年のような無邪気な笑顔を見せた。

その顔は、マサラタウンを出発したあの日、希望に満ち溢れていたあの頃のままだ。

 

「ミナト。……明日からのリーグ、お互いに一歩も引かずに、最高の伝説を作ろうぜ」

「ああ。……決勝で会おう。シロガネ大会のあの続き、世界中の連中が腰を抜かすような最高の再戦を見せてやろうじゃないか」

 

俺たちは、燃え盛る焚き火の上で、固く拳を合わせた。

火の粉が夜空へと舞い上がり、瞬く星屑の中に溶けていく。

宿命のライバル。

その定義は人それぞれだろうが、今、俺とサトシの間にあるのは、嫉妬や憎しみなどではない。純粋なまでの信頼と、魂の削り合いを熱望する強烈な闘争心だけだった。

 

「……そういえば、ミナト」

ふと、サトシがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見てきた。

「ハルカと、いい感じなんだってな? さっきからずっと浮ついてるぜ?」

 

「ぶっ……!? ごほっ、ごほっ……!」

俺は、飲んでいたジュースを思い切り吹き出しそうになった。

「な、なにを……どこでそんな……」

「いや、見てれば誰だって分かるって。タケシも言ってたぜ。『ミナトも隅に置けないなぁ。これはお祝いの料理に力が入るぞ』ってな」

 

「……あいつら、余計なことばかりを」

俺は顔を逸らしたが、自分の耳が火が出るほど熱くなっているのがはっきりと分かった。

「……まあ、大事にしてるよ。あいつ自身のことも、あいつが追いかけてる夢もな。……それが俺の責任だと思ってる」

 

「おう! だったら、ハルカのためにも無様な負け方はできないな! 応援してるあいつを悲しませるなよ!」

サトシが豪快に大笑いして、俺の肩をバンバンと叩く。

「ピカピカ〜!」

 

夜がゆっくりと更けていく。

サイユウシティの静寂は、明日から始まる嵐のような激戦の日々の序曲だった。

俺は、サトシの隣で、心地よい眠気を感じていた。

明日、この場所で、俺たちの新しい歴史が刻まれる。

カントーから始まり、ジョウトの山々を越え、大海原を渡ってホウエンへと繋がった、この長い物語。

その一つの終着点にして、さらなる高みへのスタートライン。

俺は、焚き火の最後の火が静かに消えるまで、サトシととりとめもない話を続けた。

かつて同じ空を見上げていたマサラの少年たちは、今、ホウエンの最高峰という舞台で、自分たちの明日を誇らしげに語り合っていた。

「絆」とは、言葉ではなく、共に積み重ねてきた時間にこそ宿るものだと、俺は改めて確信していた。

さあ、準備は全て整った。

俺たちの「最高」を、この世界に見せつけてやろう。

 

シンオウ地方以降ハルカとの行動について

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