アニポケ転生者物語 作:投稿者
サトシとの熱い語らいを終え、俺は静かな足取りで自分のコテージへと続く道を歩いていた。
その途中、選手村の中心に位置する池のほとりで、月光を浴びて白く輝くベンチに座る、見慣れた人影を見つけた。
赤いバンダナ。夜風に吹かれて艶やかに流れる茶色の髪。
ハルカだった。
「ハルカ? こんな時間まで、まだ起きてたのか」
俺が背後からそっと声をかけると、彼女は少しだけ肩を跳ねさせ、それから嬉しそうに、安心したように振り返った。
「ミナト君。……うん、なんだかドキドキして、寝付けなくて」
俺は彼女の隣に、ゆっくりと腰を下ろした。
池の鏡のような水面には、吸い込まれるような満天の星空と、サイユウシティの街明かりが幻想的に映り込んでいる。
遠くの森からは、夜行性のポケモンたちの鳴き声が心地よい環境音となって微かに聞こえてきた。
「ハルカ……。リボンカップ、改めておめでとう。本当によく頑張ったな」
俺が言うと、ハルカは膝の上にあるリボンケースを愛おしそうに撫でた。
「ありがとう。……でもね、正直に言うと、まだなんだか実感がないの。私、本当にあのロバートさんに勝って、トップコーディネーターになれたのかなって。夢を見てるんじゃないかって、怖くなる時があるんだ」
「夢じゃないさ。あのロバート戦で見せたバシャーモの進化、そしてあの土壇場での情熱的な演技。……あれは、お前にしかできなかったことだ」
俺はハルカの目を真っ直ぐに見つめ、一文字ずつ噛み締めるように言った。
「お前はもう、俺が後ろから支えるだけのアチャモ使いの少女じゃない。……誰もが認める、ホウエン最高のコーディネーターだ。自分を信じろ」
ハルカは少し照れたように俯き、それから意を決したように、俺の右手を両手でそっと握りしめた。
「……ミナト君にそう言ってもらえるのが、一番自信が持てるよ。……ねえ、ミナト君」
「ん?」
「明日から、ついにリーグが始まるけど……。私、不思議と不安じゃないんだ。ミナト君が勝つこと、世界で一番信じてるから。……でも、無理だけはしないでね。怪我だけはしないで。それだけが、私の今の唯一の願いなの」
ハルカの瞳に、深い愛情と、戦いの過酷さを知る者ゆえの切なさが滲む。
彼女は今、一人のトレーナーとして、そして一人の女性として、俺の身を心から案じてくれていた。
俺は、握られた手を優しく引き寄せ、彼女の小さな体を包み込むように抱きしめた。
「……ああ。約束する。必ず、最高の笑顔でお前の元に戻ってくるよ。……俺たちマサラのトレーナーは、しぶといのが売りだからな」
「……うん。約束だよ、絶対」
ハルカの柔らかい温もりが、夜の冷えた空気を溶かし、俺の心の奥底まで染み渡っていく。
かつて、転生者としてこの世界に降り立ち、データと効率、そして「生存」だけで世界を測っていた俺。
そんな乾いた俺の世界に、鮮やかな色彩と、割り切れない感情の尊さを与えてくれたのは、紛れもなく彼女の笑顔だった。
(この子の笑顔を守るために、俺は絶対に負けられない。負けるわけにはいかないんだ)
俺は、ハルカの耳元で、静かに、しかし決然とした声で囁いた。
「ハルカ。リーグが終わったら……もっと色んなところへ行こう。カントーの緑の草原も、シンオウの雪景色も、もっと遠い、まだ見ぬ世界も。……お前と一緒に見たい景色が、俺にはまだまだ、数えきれないほどあるんだ」
「……えっ? それって……これからも、ずっと、一緒にいてくれるっていう……こと?」
ハルカが顔を上げ、驚きと、震えるような喜びに満ちた表情で俺を凝視した。
「ああ。……リーグの勝敗に関係なく、俺はお前と一緒にいたい。……それが、俺の心からの願いだ」
ハルカの大きな瞳から、溜まっていた一筋の涙が、月明かりを反射して零れ落ちた。
「……卑怯だよ、ミナト君。そんなこと、このタイミングで言われたら、私……もっと離れたくなくなっちゃうじゃない。明日からの応援、もっと力が入りすぎちゃうよ……」
彼女は泣き笑いの表情で、俺の胸に再び顔を埋めた。
「……大好き。ミナト君、世界で一番、宇宙で一番、大好きだよ!」
星降るサイユウの夜の誓い。
俺たちは、静寂に包まれた池のほとりで、何度目かの、しかしこれまでで最も深い口づけを交わした。
それは、明日からの過酷な激戦を前にした、二人だけの神聖な儀式のようでもあった。
守るべき人がいる。帰るべき場所がある。
それが、これほどまでに人間を強く、そして揺るぎないものにさせるのだと、俺は身を以て知った。
「……さあ、夜風が冷えてきた。そろそろコテージに戻ろうか」
「うん。……ミナト君、おやすみなさい。……明日、最高の試合をしてね」
「ああ。……お前も、いい夢を」
俺はハルカを彼女のコテージの入り口まで送り届け、その姿がドアの向こうに消えるまで、何度も手を振った。
自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。
心地よい疲労感と、それ以上に満たされた心。
俺の手の中にあるモンスターボールが、窓から差し込む月光を受けて、銀色に淡く輝いていた。
明日。
ホウエンリーグ、開幕。
俺たちの長い旅の集大成が、あの巨大なスタジアムで試される。
最強のライバルであるサトシ。最高のパートナーであるハルカ。
全ての想いを、絆を背負って、俺は戦いの渦中へと飛び込む。
サイユウシティの夜空には、明日への希望を象徴するように、一際大きく青白い尾を引いた流れ星が流れていった。
俺は、静かに目を閉じ、勝利の光景を脳裏に鮮明に描いた。
もう、迷いも、恐れもない。
シンオウ地方以降ハルカとの行動について
-
ハルカと一緒に行動
-
ハルカとは別行動
-
結果だけみる